エジプトにおける軍の経済活動 —スィースィー体制での役割—
中東レビュー
Volume 2
概 要
はじめに
ムバーラク大統領に引導を渡したエジプト軍は、その後1年半にわたる移行過程を管理した。民主的な選挙によって誕生したムルシー大統領を追放し、「第2移行過程」を差配したのも軍であった。そして2014年6月に軍司令官だったスィースィーが大統領に就任することで、準軍事政権とも言える政権が成立した。現在のエジプトは、「1月25日革命」の主役であった民主化を求める青年層、革命後の選挙で与党となった自由公正党(ムスリム同胞団)のいずれもが政治の舞台から締め出され、軍を基盤とする政治体制が構築された。
「1月25日革命」以前のエジプト軍は「君臨すれども統治せず」とも言われ、緊急時以外に政治の表舞台に現れることは少なかった。一方で、経済分野では、エジプト軍は大きな権益と生産能力を保持していた。軍による経済活動の詳細は明らかにされていないが、その規模は最大でGDP比40%に達すると推測されることが多い。ムバーラク政権期の軍は、政治と経済の両面において決定的な影響力を持つとみなされていたが、その行動が直接的に国民の目に触れる機会は少なかった。
しかしながら、ムバーラク政権退陣後の政治移行過程を支配するなかで、軍は政治と経済の両面において存在感を高めた。その状況は、スィースィー政権発足後も続いている。スィースィー大統領は大統領選挙に立候補するにあたって退役したため、現在のエジプトは純粋な軍事政権ではないが、軍はスィースィー政権を支える主要な基盤であり、現在の政権運営に不可欠な存在となっている。
本稿では、スィースィー体制における軍の経済的役割について検討する。エジプト軍はどのような経済活動を行っているのか、またスィースィー体制において軍の経済活動にどのような変化があったのかを考察する。以下、まず軍が経済活動を行う理由を整理し、その上でエジプトにおける軍の経済活動、およびスィースィー体制での軍の経済的役割を考える。