ぼくの村がゾウに襲われるわけ。――野生動物と共存するってどんなこと?――

アフリカレポート

No.56

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050156

資料紹介:岩井 雪乃 著『ぼくの村がゾウに襲われるわけ。――野生動物と共存するってどんなこと?――』

■ 資料紹介:岩井 雪乃 著『ぼくの村がゾウに襲われるわけ。――野生動物と共存するってどんなこと?――』
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2018年 No.56、p.21
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本書は、児童(おそらく中学生以上か)を含む一般向けに、タンザニアにおける野生生物保護の実態を伝える啓もう書である。アフリカや野生生物保護について予備知識を持たない読者にも現地の状況が想像できるような配慮が最大限になされている点が特長であり、写真や図がふんだんに利用されるだけでなく、親しみやすい語り口で著者のフィールドワーク体験が説明され、調査対象地の日々の暮らしが具体的に理解できる。

ただし、本書が扱う内容は文体から想像されるよりもずっと複雑である。基本的な問題は、野生生物が保護され増加した結果、保護区の周辺の畑がゾウに荒らされたり、住人がゾウに襲われるなどの被害が深刻になっているということである。著者はまず、タンザニア政府が野生生物の保護を最優先とする結果、保護区周辺の住民に移住や狩猟の禁止を強制するなど、彼らの生活に十分な関心が払われていないことを説明する。しかし、タンザニア国内の利害関係という単純な構図には収まらない。本書はさらに、欧米諸国が世界各地の入植地で先住民の土地をはく奪して自然保護区を設定した歴史を詳しく説明し、タンザニアの問題は、援助国である先進国において保護区に住む人間に対する配慮が欠如していることに根源があると示唆する。同時に、日本を含むアジアで象牙に対する根強い需要があり、ゾウの数を減らさないためには政府が保護に力を入れなければならないことも説明される。さらに、官僚の一部が業者と結託してゾウの密猟を見逃しているという一面もあることや、貧しい地元住民が密猟の手引きをしている(その結果、地元住民に対する政府の姿勢が厳しくなる)ことなど、現場の複雑な関係性にも触れられている。

著者の視点は地元住民に向けられているが、問題の背景を丁寧に説明することによって、ほかの人々の立場について考える手がかりを与えている。子供たちに対して問題の多面性を示すことに評者は大いに賛成であるが、理解させることは難しい。本書は、読みやすい脚注を活用して専門的な説明を補い、読者の年齢に応じて理解が深まるような工夫が行われている。投げられかける論点をもとに様々な議論が可能であり、教材として利用したいと感じた。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)