資料紹介: 社会的包摂/排除の人類学 ——開発・難民・福祉——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:内藤 直樹・山北 輝裕 編著 『社会的包摂/排除の人類学 ——開発・難民・福祉——』
津田 みわ
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.70
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国立民族学博物館の共同研究会をもとに編まれた本書は、開発/難民/福祉の3部構成、序章と終章を含めて全14章から成る。日本、ラオス、オーストラリアからアフリカ各国まで、射程は世界規模に広がるが、全体の半分近くはアフリカに関する論考で構成され、本書は隠れた「アフリカ本」にもなっている。

第1章「ケニア牧畜民の伝統社会は開発から逃れられるか」(内藤直樹)は、ある農村で構築された多彩な「よそもの」を包摂するシステムを描く一方で、典型的な伝統的農村に見えたその集落が、実は開発プロジェクトを忌避した移住者によって新設されたものであったことに気づく、調査の道のりをも辿って印象深い。第2章「エチオピア牧畜民に大規模開発は何をもたらすのか」(佐川徹)は、著者によるフィールドワークを通じて、「胃の違い」——各人の感情や考え方の違い——を何より尊重する南部の暮らしを描き出し、開発に批判的な意見だけを強調する一枚岩的理解に鋭い警鐘を鳴らす。第3章「ボツワナの狩猟採集民は『先住民』になることで何を得たのか」(丸山淳子)は、狩猟採集を営むサンの人々が、近年の先住民運動の結果として「伝統的生活」を強いられ、「故地」への帰還という選択肢をめぐって新たな排除にさらされている一方で、社会内部ではそうした問題が解決されつつある様子をあわせて描き、強い印象を残す。本書にはその他、「アフリカの難民収容施設に出口はあるのか」(中山裕美)、「アンゴラ定住難民の生存戦略は持続可能か」(村尾るみこ)がある。

アフリカ関連の論考を中心に紹介したが、それらが日本で生成している「社会的排除/包摂」——「ホームレス」の人々や精神・身体に障害や病気を抱えた人々の暮らし、祖国を逃れ難民など様々なステータスで日本に住む人々の暮らし——の分析と並置する形で提示されていることが本書の最大の強みであろう。「世界を席巻する市場原理主義のゲーム」からこぼれ落ち「様々なタイプの人間ゴミ」となった時、ひとが向き合う「絶望」と「希望」はどのようなものか(p.254)。本書のテーマは私たち自身の生でもあろう。各論考はいずれも、平易な言い回し・適切な用語解説などに注意が払われ、専門外の読者にも分かりやすい。アフリカに関心のある方にはもちろん、社会、福祉にかかわる問題には縁遠いとお考えの読者にも、ぜひお勧めしたい一冊である。

津田 みわ(つだ・みわ/アジア経済研究所)