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資料紹介: 越境する障害者 ——アフリカ熱帯林に暮らす障害者の民族誌——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:戸田 美佳子 著 『越境する障害者 ——アフリカ熱帯林に暮らす障害者の民族誌——』
牧野 久美子
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.68
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「アフリカ障害者の10年」の取り組み(2000年~)、「障害者の権利に関する条約」の発効(2008年)、そして「持続可能な開発目標」(SDGs)における随所での障害への言及(2015年)などに見られるように、障害者の権利保障や開発参加の重要性がアフリカの文脈でも強調されるようになって久しい。こうした潮流は、周辺化され、排除や差別を受け、結果として深刻な貧困に直面してきた障害者の開発過程への包摂を目指すものとして理解されることが多いだろう。しかし、本書の著者は、カメルーンの熱帯林での障害者の暮らしを調査するなかで、心身の機能障害をもつ人々が差別や排除を受けるという、障害研究において自明視されてきた前提に疑問を抱くようになる。著者が出会った障害者たちは、障害ゆえに特別視されることもなく、周囲の人々と豊かな相互行為を織りなし、主体性を遺憾なく発揮しながら、当たり前に日々の暮らしを営んでいたからである。

足かけ9年間にわたるフィールドワークの成果である本書には、調査地において障害者がいかにして生活を成り立たせているかが丁寧に描かれている。本書に出てくる障害者は、畑を所有していたり、現金収入を得たりして、自らが生計の主体となっている。調査地には狩猟採集民と農耕民が混住しているが、障害者はエスニックな境界をも越えて(「越境」して)たえず交渉し、対面的な関係性のなかでケアを実現することで、生活上のさまざまな困難を軽減している。生活のあらゆる場面で手助けを必要とするがゆえに、障害者は非障害者に比べて、周囲の人々とより濃い関係性を築く。そうした障害者の日々の生活実践から浮かび上がってくるのは、社会から排除された障害者ではなく、むしろ高度に社会的な存在としての障害者像である。障害者と周囲の人々との相互行為を「対等性」と「共同性」の2つのキーワードで読み解き、そこに障害を語ることにつきまとう「息苦しさ」を打破する可能性をみいだす終章の議論展開も鮮やかである。

フィールドで出会った障害者の生き方への共感と尊敬に満ちた本書の読後感は爽やかである。障害学やケア学への理論的示唆も大きく、幅広い読者に一読をお勧めしたい。

牧野 久美子(まきの・くみこ/アジア経済研究所)