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資料紹介: さまよえる「共存」とマサイ ——ケニアの野生動物保全の現場から——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:目黒 紀夫 著 『さまよえる「共存」とマサイ ——ケニアの野生動物保全の現場から——』
津田 みわ
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.34
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ヒトとヒト以外の動物は共存できるのか/どう共存すべきか。最近では、日本でも和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を残酷だとし中止すべきとする見方が波紋を呼んでいるが、そうしたヒトと野生動物の共存を大テーマに、ケニアにおける野生動物保全の詳細な実態解明に取り組んだのが本書である(本書で「保全」は、隔絶型の自然保護だけでなく、ヒトによる利用が前提の「管理」等も含む広義の用語とされる)。著者による調査は足かけ10年にわたる。調査対象は、現在まで主に「コミュニティ主体の保全」が取り組まれてきたマサイランドの国立公園近縁に居住する、マサイの人びとである。本書によれば、この「コミュニティ主体の保全」というアプローチにおいて住民は、自然の破壊者ではなく、保全活動の中心的な担い手だと想定される。住民たちに期待されるのは、ゾウやライオンなどを殺すことなく同じ場所で共存する暮らしである。

本書を通じて多角的に示されるのは、そうした「野生動物と共存するマサイ」というイメージが、実はロマンチシズムに過ぎない、という点である。そもそも、マサイの人びとの住むサバンナの大部分は、実は彼らが個人や集団で所有する私有地になって久しいという。また「コミュニティ」とされるものの内実も一様ではなく、特定個人の排除などがある。加えて明らかにされるのは、土地所有者でもあるそうしたマサイの人びとが、牧畜より農耕に生業をシフトしつつある近年の実態である。農耕を行う暮らしにとって、たとえば夜行性のゾウは、せっかくの農作物を一夜にして食い荒らす害獣でしかない。ヒトとゾウは同じ場所では生きられず、ゾウを保全するなら隔離しかないことになる。

2011年の博士論文をもとにしたという本書は、広範なレビューに基づく専門性を備えるだけでなく、臨場感あふれる多数の写真、2013年の現地調査で得られた最新情報も盛り込まれ、かつ読みやすい。「殺される危険があるからこそライオンはヒトを恐れる。ライオンとの共存には、ヒトがライオンを殺すことが不可欠」とする住民たちの説明や、長老たちの「法律が禁止していなければマサイはゾウなどすべて殺すだけだ」という叫びなど、紹介される人びとの語りには凄みと説得力がある。アフリカや野生動物保全の専門家はもとより、自然保護に興味がある多くの読者に勧めたい、読み応えと発見に満ちた一冊である。

津田 みわ(つだ・みわ/アジア経済研究所)