資料紹介: 現代アフリカ経済論

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:北川 勝彦・高橋 基樹 編著 『現代アフリカ経済論』
牧野 久美子
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.29
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本書は同じ編著者によって10年前に出された『アフリカ経済論』の続編だが、大半の執筆者が入れ替わっており、内容も一新している。

序章でアフリカの地理・自然、言語・民族・宗教の分布といった基本情報が示されたあと、第I部「アフリカ経済と世界史」ではまず、近代以前のアフリカの歴史(第1章)、植民地支配の特徴と独立後の経済に与えた影響(第2章)、独立後の政治体制と経済政策の変遷(第3章)が地域による違いも含めて解説されている。そのうえで第4章では、アフリカ経済の現状に関するさまざまな統計データとともに、産業構成(成長部門の鉱業への偏り)や輸出(単一の一次産品輸出への依存)といった経済の「質」の面での特徴や課題を示している。

第II部「経済のグローバル化とアフリカ」は、グローバル経済とアフリカとの関わりを、貿易(第5章)、企業と直接投資(第6章)、金融(第7章)、地域経済統合(第8章)の各側面から、理論的背景も含めて解説している。企業活動や貿易・投資に関する記述の厚さは旧版の『アフリカ経済論』と比べて最も違いを感じる部分であり、これは近年のアフリカにおける企業活動の活発化や、対アフリカ支援の重点が援助から貿易・投資へとシフトしていることの反映といえるであろう。

第III部「社会の変容とアフリカ経済」では、アフリカ経済と内外の社会的・政治的変動との関係がテーマとなっている。具体的には、人口増加、教育・保健、武力紛争といった「人間の安全保障」に関わる要因(第9章)、人口の40%がイスラーム教徒であるアフリカ大陸におけるイスラーム経済の重要性(第10章)、1990年代の民主化開始以降のアフリカ諸国の政治(第11章)、そしてアフリカ経済に大きな影響を与えてきた開発援助の変遷(第12章)が議論されている。終章では、本書全体の内容がコンパクトにまとめられている。全体的にマクロに俯瞰する記述が多いなか、各章末のコラムが人々の生活の息吹を伝えている。

本書は、世界史のなかのアフリカの位置づけから出発し、植民地時代・独立後の政治経済、そして経済成長や民主化といった近年の動向までバランスよく概説した、アフリカの政治経済を学ぶうえで格好の入門書・教科書である。アフリカに関心をもつ学生のみならず、広く一般に読まれることを期待したい。


牧野 久美子(まきの・くみこ/アジア経済研究所)