資料紹介: 誰が差別をつくるのか ——エチオピアに生きるカファとマンジョの関係誌——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:吉田 早悠里 著 『誰が差別をつくるのか ——エチオピアに生きるカファとマンジョの関係誌——』
児玉 由佳
■ 『アフリカレポート』2014年 No.52、p.101
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本書は、著者が2004年よりフィールド調査を行ってきたエチオピア南西部に居住するカファとマンジョというエスニック・グループに関する民族誌である。2011年に名古屋大学大学院文学研究科に提出された博士学位論文を改稿したものである。

本書では、カファとマンジョの関係の歴史的な変遷をたどることで、カファによるマンジョへの畏敬の念も含んだ古くからある「忌避」関係が、「差別」という文脈で語られることによって、マンジョがカファや政府にその関係に対して異議申し立てを行うに至る過程を具体的な事例とともに明らかにしている。国内の政治的変化や、ミッションや国際NGOのような国外からの介入によって、政治的経済的な目に見える変化だけでなく、カファとマンジョの関係に関する人々の理解にも変化が起きることになる。本書では、カファのマンジョに対する「差別」という言説が、両者が共生する社会にどのように現れ、再生産されていくのかに焦点をあてて分析を進めている。

本書は、序章と終章を含めて10章で構成されている。序章に続いて、第2章でカファ地方の概観を提示し、第3章ではこの地方の歴史をまとめている。第4章で調査村の概観を説明したのち、第5章で聞き取り調査をもとにマンジョとカファの関係性を明らかにしている。第6章では差別の形成における宗教の役割を指摘し、第7章では1997年に始まった民族としての権利保障を求めたマンジョの政府への請願活動の経過を分析している。第8章では2002年に起きたマンジョのカファへの襲撃事件を取り上げ、この事件がもたらした両者の関係の変化を考察している。第9章と第10章は、カファとマンジョの関係の歴史的な変遷を総括した章である。

本書は、支配/被支配関係にある人々の慣習的な関係の分析に終わることなく、差別や民族の権利といった新たな概念の登場で、その関係が流動的に変化していくことを明らかにしている。本書の白眉は、カファとマンジョの関係の変化を検討している6章以降であろう。差別の形成というデリケートな問題に関する分析を行うためには、詳細な歴史的経緯についての情報や調査地の社会関係に関する理解が不可欠であることを、本書から読み取ることができる。これらがそろって初めて「差別」の実態が明らかにできるのである。本書は、世界中の社会に存在する「差別」がどのように形成されるのかを考えるための、貴重な道筋を示してくれているといえよう。

児玉 由佳(こだま・ゆか/アジア経済研究所)