資料紹介: Delivering Sustainable Growth in Africa ——African Farmers and Firms in a Changing World——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:Takahiro Fukunishi, ed. ”Delivering Sustainable Growth in Africa ——African Farmers and Firms in a Changing World——”
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2014年 No.52、p.40
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2000年代後半から始まったサブサハラ・アフリカ諸国の経済成長は、金融危機の影響を受けながらも、すでに10年近く持続している。長く経済活動の停滞を経験したアフリカにおいて、貧困から抜け出す原動力として待ち望まれた経済成長が実現したわけであるが、その効果と持続性は常に懐疑的な評価を受けている。それは、経済成長が原油をはじめとした鉱物資源価格の上昇によってもたらされていると考えられていることにあろう。確かに、鉱業部門は資本集約的で労働者の所得を上昇させる効果が小さく、また、鉱物資源価格は過去に大きく変動しており、懐疑的な見方は不思議ではない。しかし、そこには動学的な視点が抜けている。つまり、現在の経済成長が産業全体の構造的な変化をもたらし、その結果、近い将来に鉱業部門に依存しない発展に結びつく可能性について言及されることが少ない。

本書は、そうした構造的変化の要因として農民や地場企業の生産性の変化に注目している。経済成長によってもたらされる国内市場の成長や外国直接投資の増加にくわえて、援助によるインフラ整備、欧米市場への優遇的なアクセスの提供、ビジネス環境の(緩慢な)改善などの変化は、農民や地場企業が新しい技術、市場、生産物に取り組む機会を与える。本書の著者たちは、独自に収集した生産者レベルの情報を用いて、そのような変化が生じているのかどうかを検討している。取り上げているのは、ガーナのパイナップル生産農家(鈴木綾)、ケニアの花卉生産農家(Jodie Keane)、タンザニアのビール用大麦生産農家(西浦昭雄)、ブルキナファソの建設企業(徳織智美)、マダガスカルの縫製企業(福西隆弘、Herinjatovo Ramiarison)である。

農民や地場企業の変化には当然のことながら多様性があるが、外国企業との関わりのなかで技術を習得し、新しい市場に参入する生産者が少なからず存在しており、かれらが持続的に成長する可能性が見られた。他方、そうした挑戦は成長機会をもたらすとともにリスクもあり、生産者の淘汰が進むと予想される。それは、国際的な生産ネットワークから孤立していたアフリカの生産者が取り込まれる過程でもある。本書の扱う事例は、アフリカの多様性を代表させるにはあまりに少ないが、アフリカの生産者に起きている変化について、観察に基づいた確かな知見を提示できたのではないかと考えている。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)