資料紹介: アルジェリア戦争 ——フランスの植民地支配と民族の解放——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介: ギー・ペルヴィエ 著 『アルジェリア戦争 ——フランスの植民地支配と民族の解放——』
佐藤 章
■ 『アフリカレポート』2013年 No.51、p.94
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近年、西アフリカのサヘル地帯では過激なイスラーム主義組織の活動が活発化し、この地域の国々の政治情勢や不安定化に大きく作用するようになっている。この動向は、「対テロ戦争」に関心を有する欧米諸国の軍事・警察面での介入も呼び込み、国際的な展開も見せている。2013年1月にフランスがマリ北部に対して行った軍事介入もこの延長上にある。この地域で活動する過激なイスラーム主義組織の筆頭に挙げられるのが、アルジェリア起源の「イスラーム・マグレブ諸国のアル=カーイダ」(AQIM)である。AQIMはアルジェリアが独立以来抱えてきた近代国家とイスラーム主義の相克の中から生まれた。このためAQIMがいかなる思想に則って活動を行い、地域情勢にインパクトを与えようとしているのかを考える上では、AQIM誕生の背景にあるアルジェリア現代史の理解が不可欠となる。アルジェリア現代史における一大事件であったアルジェリア戦争に焦点をあて、コンパクトな新書サイズに豊富な情報を盛り込んだ本書は、このような今日的な問題意識に照らし、時宜にかなったものといえるだろう。

アルジェリア戦争は、アルジェリアの脱植民地化過程で発生した武力対立の複合体であり、そこにはフランス当局とアルジェリアの解放組織の間の武力対立と、「フランスのアルジェリア」の死守を図る立場と独立を容認する立場の間で展開された、フランス人同士の武力対立が含まれていた。フランス人の歴史家である著者は本書で、19世紀に始まるフランスによる植民地化からアルジェリアが独立を遂げた1962年までを視野に収め、緊迫した2つの対立の展開過程とド=ゴールによる収拾過程を分析している。むすびでは、いかなる主体としてこの戦争に関与したかにより、いまなお戦争の認識や評価が鋭く食い違う現状を踏まえ、アルジェリア戦争が本当に「終わったのだろうか」との問題提起がなされる。「史料に基づく客観的分析」(私市正年氏による本書巻末解説)と「切り口の多彩さと叙述の細やかさ」(訳者あとがき)が本書の特長である。

学術的な分業の傾向として、アフリカ研究が主にサハラ以南を対象とし、サハラ以北は中東研究の対象とされてきた現実がある。これは学術研究における一種の「サハラの壁」とでも言えよう。本書のような手に取りやすい良書は、サハラ以南研究者が「サハラを越える」ための格好の導きとなることであろう。




佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)