資料紹介:Joshua Blumenstock, Nathan Eagle, Marcel Fafchamps 'Risk and Reciprocity over the Mobile Phone Network —— Evidence from Rwanda ——'

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介: Joshua Blumenstock, Nathan Eagle, Marcel Fafchamps 'Risk and Reciprocity over the Mobile Phone Network —— Evidence from Rwanda ——'
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2013年 No.51、p.35
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昨今注目される「ビッグデータ」を利用した研究である。アフリカ発祥の携帯電話クレジットを利用した送金サービスは、出稼ぎ先から家族への送金ばかりでなく、互助のネットワークに使われる可能性が容易に考えうる。この論文では、ルワンダの携帯電話会社の通信記録をもとに、2008年にキブ湖で起きた地震の際に、送金サービスが被災者の支援に利用されたかどうかを分析している。送金サービスによるリスクシェアリングについては、少数ながら他にも研究があるが、この論文は、ほぼ独占状態にあった携帯電話会社の全記録を利用していることと、地震という予期できないショックを対象とすることでショックと送金の因果関係が観察しやすいという点に強みがある。

膨大な通信記録を分析した結果、地震発生当日に被災地にいた利用者は、被災を理由に普段より多くの送金を受け取っていることが明らかになっている。その金額は、平均して一人あたり9.5ルワンダ・フランであり、被災した2地域では合計2万8000フランあまり(約56ドル)の送金があった。金額が非常に小さいことに驚くが、当時は送金サービスの利用者が少なかったことが背景にあり、ごく単純な推定であるが、2011年に同様の地震が生じれば、22万~30万ドルの送金になっていたとしている。興味深い点として、所得が多い(と推定される)被災者ほど多くの送金を受け取っており、また、地震以前に多くの送金をしていた被災者は、地震後に多くの送金をその相手から受け取っている。

大量かつ正確な情報にもとづいて、個人の行動の実態が全国的にカバーできる点に、他の情報ソースではなしえないビッグデータの強みがある。統計データの不足しているアフリカでは、特に重要な情報となろう。他方で、利用者の性別、所得、職業など属性に関する情報は乏しいため、送り手と受け手の関係といった重要な情報が抜け落ちており、本論文ではネットワークの実態がイメージできない。大量の情報をどのように研究に利用できるか、今後の展開が注目される。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)