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発展途上国における経済のデジタル化――アフリカ・東南アジア・ラテンアメリカの事例から考える――

一般書

CC BY-ND

発展途上国における経済のデジタル化――アフリカ・東南アジア・ラテンアメリカの事例から考える――

著者/編者

出版年月

2024年1月

ISBNコード

978-4-258-04660-7

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内容紹介

内容紹介

コロナ禍を経て、途上国、先進国かかわらず世界中のどの国においてもデジタル化が急速かつ同時代的に進展している。なかでもインフラや各種経済社会制度の未整備が開発の障害となってきた途上国では、それらの問題をデジタル技術によって克服し、大きな発展が実現する状況(リープフロッグ)が注目される。先行する中国で花開いた経済のデジタル化は、ほかの途上国ではどのような広がりをみせているのか。途上国において先進企業ではなく一般の人々が、日常の生活や仕事でデジタル技術やサービスをどのように使い、どのような恩恵を受けているのか、またどのような問題があるのか。本書では、ラテンアメリカ、東南アジア、アフリカの3つの地域からペルー、ベネズエラ、インドネシア、ベトナム、ケニアの5カ国をとりあげ、デジタル化の実態にせまる。

目次

序章 発展途上国のデジタル化を考える

筆者:濱田 美紀

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第1章 ペルーにおけるデジタル技術の利用――都市と農村の格差――

筆者:清水 達也

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第2章 都市インフォーマルセクターにおけるオンラインマーケティングの普及――ナイロビの事例――

筆者:福西 隆弘、井上 直美

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第3章 インドネシアにおける金融のデジタル化――電子マネーと中小零細企業――

筆者:濱田 美紀

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第4章 アグリプラットフォームの使われ方――ケニアの小規模農家の事例から――

筆者:井上 直美

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第5章 ベトナムにおけるデジタルサービス企業――誰が起業しどのように成長しているのか――

筆者:藤田 麻衣

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第6章 発展途上国と暗号通貨――ベネズエラにおける法定通貨の機能不全と暗号通貨――

筆者:坂口 安紀

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まえがき

まえがき

気がつけばここ数年で私たちの生活はずいぶんと便利になった。コロナ禍を経たこともあるが、少し前までほとんどなかったテレワークが普通の作業風景になり、オンライン会議やオンラインセミナーのおかげで、時差の問題は残るものの遠い国の人たちと話ができるようになった。調べごとはスマホに問いかけるといろいろな選択肢を与えてくれ、最近は生成AIがより明確な答えを瞬時に出してくれるまでになった。私たちの生活はこれほど大きく変わったが、デジタル技術の進展はますます加速を続けている。

本書は、2021〜2022年度に実施されたアジア経済研究所「デジタル化と発展途上国:デジタル化で変わるもの、変わらないもの」研究会の2年間の研究成果をまとめたものである。これに先立つ2019年度には、準備作業として1年間の基礎理論研究会「途上国におけるデジタル経済の萌芽と進展」を実施した。研究会のスタート時には、中国経済の専門家で途上国のデジタル化に詳しい伊藤亞聖氏(東京大学)に貴重なインプットと刺激をいただきながら活動をスタートした。この場をお借りして心より感謝を申し上げたい。

この研究会を計画した2018年当時は、中国のデジタル化が目を見張る勢いで進み、それにともない世界各地でデジタル技術を使った新たなビジネスが生まれ、その様子が伝わってくるようになっていた。一方、すでに充実したインフラや制度があり、あらゆるサービスが行き届いた日本では、配車アプリやQRコード決済などのサービスの必要性があまり感じられず、世界のデジタル化に対する熱量と日本のそれとの間には開きがあった。その後コロナ禍がそのギャップをいくらか埋めたように思われるものの、デジタル技術の進展は、各地で進んでおり、それはおそらく日本のものとは大きく異なると思われる。

アジア経済研究所は発展途上国・地域の経済、政治、社会について研究を行う研究所である。設立から60年以上にわたり発展途上国が時々の国際状況のなかで各々の発展レベルに応じながら経済発展をめざす姿を追ってきた。しかし、工業化プロセスなどと異なり、途上国が先進国のあとを追うのではなく、途上国も先進国も世界中で同様の技術を手にして同じ方向に向かい、同時に進んでいくという状況をみるのは、デジタル化が初めてではないだろうか。さらに「リープフロッグ」という言葉が示すように、制度の整っていない途上国でこそデジタル化の恩恵は大きく、思いがけない発展につながっていくのかもしれない。

途上国におけるデジタル化に関しては成功例が注目されがちだが、本書では、注目されるサービスを追いかけるのではなく、途上国の人々が日常の生活や仕事においてどのようにデジタル技術を使い、どのような恩恵を受けているのか、彼らの日常のデジタル化に焦点をあてた。とりあげたのは、ラテンアメリカ、東南アジア、アフリカの3つの異なる地域からペルー、ベネズエラ、インドネシア、ベトナム、ケニアの5カ国である。具体的にながめてみると、それらの国においてデジタル技術を使ったサービスが急速に普及していること、その一方でデジタル技術・サービスとの付き合い方はそれぞれの国や社会で異なり、問題や課題も多くあるということがわかった。

いうまでもなく、本書でみた事柄はほんの一例でしかなく、日進月歩のデジタル化のなかではすぐに過去のものとなるだろう。しかし本書で取り上げた事例からは、デジタル技術と付き合い始めた人々の様子を伺い知ることができる。デジタル化と人々の生活の間には、必ず人間の好みや工夫、知恵といった人間臭さが介在すること、そのため地域や国の個性が反映されていることが浮かび上がってきた。デジタル化が、途上国でどのように人々の生活に関わってきているのか、本書でその様子を垣間見ていただくことができれば幸いである。

編 者