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世界を見る眼

朝鮮の世界観におけるロシア支援

Support for Russia in the DPRK's Worldview

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/0002001290

2025年3月

(5,575字)

ウクライナ戦争における朝鮮のロシア支援

ウクライナ戦争で朝鮮がロシアに軍部隊を送ったことが確実となった。2024年10月に朝鮮が軍部隊をロシアに派兵したことをウクライナが発表し、韓国や米国、NATOが次々に確認した。2022年から始まったとされる武器支援に続く、朝鮮によるロシア支援である。ロシアも朝鮮もまだ両国間の軍事協力について公表していない。しかし、朝鮮から派遣された兵士がウクライナ軍の捕虜になったことから、朝鮮が軍部隊をロシアに送ったことは揺るがない事実となった。

朝鮮がロシアに軍事支援を送っているという疑惑は、2022年秋に始まった一連の報道から始まる。2022年9月7日にホワイトハウスのジョン・カービー国家安全保障会議戦略広報調整官が、ロシアがウクライナとの戦闘継続のために朝鮮から数百万発のロケットと砲弾を購入する過程にあると発表した。しかし、21日に朝鮮国防省は、ロシアに武器や弾薬を輸出したことはなく、今後もそのような計画はないと言明した。11月2日にカービーは、朝鮮がロシアに対して砲弾を中東やアフリカ経由で供給していることを示す情報があると発言したが、4日にアレクサンドル・マツェゴラ駐朝ロシア大使、7日には朝鮮国防省も同様にこれを否定した。しかし、日本の『東京新聞』の城内康伸・編集委員が11月20日に朝鮮がロシアに砲弾など軍需物資を鉄道で輸送していたと12月22日に報道した1。同日に、カービーが、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が朝鮮から武器を購入したと発表した。

この疑惑は2023年には衛星写真などでほぼ事実と考えられるようになった。2023年9月12日から17日まで朝鮮の最高指導者である金正恩が、軍幹部を随行して極東ロシアを訪問し、ロシア大統領であるプーチンと会談したことで、さらに朝鮮がロシアに武器を輸出していることについて懸念が高まった2。カービーは、10月13日に朝鮮が9月から10月にコンテナ1000基以上の軍事装備品を引き渡したと発表した。それに対して、10月17日にロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、朝鮮がロシアに武器を供与しているとの主張について、証拠に基づいていないとして否定した。

米国やウクライナが朝鮮のロシア支援を発表して、ロシアや朝鮮が否定する図式はそのまま続いている。この図式は、過去の朝鮮の海外軍事支援でも見られた。1973年の第4次中東戦争では、イスラエルが朝鮮の派兵を報道すると、朝鮮側ではすぐに否定した3。西側諸国に海外派兵を知られたら、否定か黙秘を貫くのが通例であった。朝鮮では、軍部隊の作戦行動を知られないようにするために、海外派兵を公表しないことになっているためである。

なぜ朝鮮はロシアを支援するのか?

朝鮮がロシアに軍事支援を送っているのは、朝鮮がウクライナに侵攻するロシアを支持しているからである。朝鮮は、ウクライナ戦争が勃発して以来、ロシアを支持し続けている数少ない国の一つである。2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、3月2日に国連総会緊急特別会合が開催され、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議を賛成多数で採択した。5カ国のみが反対したが、その一つが朝鮮であった。ロシア軍が占領しているウクライナ東部において親ロシア派が独立を宣言していたドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を、朝鮮は7月13日に国家承認した。これはロシア、シリアに続いて三番目である。同日にウクライナから断交されたが、朝鮮はこれを逆に批判した。

2022年10月5日にロシアがウクライナの東部・南部四州を併合する手続きを完了したと一方的に発表すると、国連総会は10月12日、ウクライナ情勢を協議する緊急特別会合で、ロシアによる併合を違法だとする非難決議案を賛成多数で採択した。しかし、ここでも朝鮮を含む5カ国が反対した。ロシアが手続きの完了を発表する前日である10月4日に、朝鮮はロシアによる東部・南部四州での住民投票を正当とする見解をすでに出していたので、既定路線であった。

なぜ朝鮮は、ここまでロシアを支持するのであろうか。経済的利益では朝鮮のロシア支持は説明できない。朝鮮とロシアの貿易は、新型コロナ対策に伴う朝鮮の国境封鎖のために2020年10月以来、皆無に等しい状態がウクライナ戦争勃発まで続いていた。にもかかわらず、朝鮮はロシアによるウクライナ侵攻を最初から支持したのである。

ロシアとの貿易とロシアに対する朝鮮の支持に相関関係がないことは、14年前の出来事からも分かる。2008年にロシアがジョージアからの独立を認めた南オセチア共和国・アラニヤ国とアブハジア共和国を朝鮮は国家承認しなかった。当時の朝鮮とロシアの貿易額はウクライナ戦争が始まる直前と比べるとはるかに高かったにもかかわらず、六者会合における朝鮮半島の非核化問題をめぐって米国に協力するロシアに対して朝鮮は不信感を抱いていたためと考えられる。

貿易で利益があるかないかは、ロシアに対する支持の決め手ではない。朝鮮がロシアに武器を輸出したとみられるのは戦争が勃発してから約半年後であり、軍隊を送ったとみられるのは約2年半後のことである。しかも、利益が出ているかどうかは分からない。朝鮮は過去に数多くの国々に武器や軍隊を送ったが、無償支援であることが多かったため、経済的な利益を見込んで武器や軍隊を送ったとは限らないからである。

では、いつから朝鮮は、ロシアを支持するようになったのであろうか。少なくとも2021年1月に開催された朝鮮労働党第八回大会で金正恩は、友好国として中国、ロシア、キューバ、ベトナムの4カ国の名を挙げたので、この頃にはウクライナ戦争でロシアを支持する下地ができていたことになる4

これらの友好国は、それまで金正恩が首脳会談をした国々でもある。反面、首脳会談をしたとはいえ、米国や韓国、シンガポールは友好国には入らなかった。第八回党大会では、金正恩が「対外政治活動を我々の革命発展の基本的な障害であり、最大の敵である米国を制圧し、屈服させることに焦点を合わせ、方向づけるべきである」と語っており、米国を敵とする方針が定まった5。シンガポールや韓国は米国の友好国であるから、朝鮮の敵となる。米国と対立するロシアは朝鮮が支持すべき友好国であり、米国が支援するウクライナは敵なのである。

2025年の朝鮮の世界観

朝鮮が海外に武器や軍隊を送ったのはロシアが初めてではない。朝鮮は金日成が存命中である1945~94年に53カ国に対して軍事支援を行ったことを公表したことがある。53カ国は世界の約4分の1である。その53カ国のほとんどは貧しい新興国であり、軍事支援もほとんど無償に近かった。朝鮮がロシアに軍事支援を送ったのは確認できる限り初めてであるが、ロシアへの軍事支援は朝鮮が長年にわたって続けてきた海外軍事支援の延長線上にある。その朝鮮の海外軍事支援の目的は、米国など自由主義陣営の国々と対立したり、戦争したりしていた国々を支援することにあった。ただし、冷戦後の米一極支配の時代には海外軍事支援も急減し、1994年以降に軍部隊も送る大きな派兵はシリア内戦以外ではほとんど情報がなかった。そのためにロシアに対する軍事支援は、世界を驚かせたかもしれない。

朝鮮は過去に一貫してソ連やロシアを支持していたわけではない。1960年代前半に朝鮮は中国とともにソ連を批判していた。1980年代のイラン・イラク戦争では、ソ連がイラクを支援したのに対して、朝鮮はイランを支援した。先に述べたように2008年には、ロシアがジョージアからの独立を認めた南オセチア共和国アラニヤ国とアブハジア共和国を朝鮮は国家承認しなかった。

2018年と2019年に米国や韓国との首脳会談に臨んだ朝鮮は、両国に対する不信感をより募らせ、2019年末には核兵器と長距離弾道ミサイルの再開発を宣言した。2021年の第八回党大会で、金正恩は「米国で誰が政権をにぎっても、米国という実体と対朝政策の本心は決して変わらないと指摘し、対外事業部門で対米戦略を戦略的に樹立し、反帝国主義勢力との連帯を拡大し続けることを強調した」という6。朝鮮では2021年以来、米国を最大の敵とし、米国を中心とした帝国主義勢力に反対する勢力との連帯を拡大する方針を定めていたのである。

2021年以来の朝鮮の世界観では、世界は帝国主義勢力と反帝国主義勢力の対立で成り立っている。これは冷戦時代以来の朝鮮の世界観でもあったが、米朝首脳会談が開催されている時期は控えられていた。米国は帝国主義勢力の代表格であり、朝鮮は反帝国主義勢力のメンバーだというのである。したがって、朝鮮がロシアを支持するのは、ロシアを反帝国主義勢力と見たからである。朝鮮にとってウクライナ戦争は、帝国主義勢力と反帝国主義勢力の対立の図式で成り立っている。

では、朝鮮の見方では反帝国主義勢力とはどの国々を意味するのであろうか。それに近いものは、おそらく金正恩が毎年正月に友好国の首脳に送っている年賀状の宛先である。これは金正恩が重要な友好国と認めており、かつ年賀状を届けるルートがある国々である。2025年は、以下のとおりであった。ロシア連邦大統領、中国共産党中央委員会総書記である中華人民共和国主席、ベトナム共産党中央委員会総書記、ベトナム社会主義共和国主席、モンゴル大統領、タジキスタン共和国大統領、トルクメニスタン共和国大統領、インドネシア共和国大統領、ベラルーシ共和国大統領、セルビア共和国大統領、アルジェリア民主人民共和国大統領、インド共和国首相である7

2021年から2024年まで年賀状の宛先序列の上位を占めていたのは中国、ロシア、キューバ、ラオス、ベトナム、シリアの6カ国であった。特に、2021年から23年の新型コロナによる国境封鎖期間では、多くの外国大使が帰国したために、この6カ国の首脳のみに年賀状を送っていた。

ところが、2025年になって、キューバとラオス、シリアが外された。キューバ大統領であるミゲル・ディアス=カネルは、平壌を訪問して金正恩と首脳会談をした間柄でもあるにもかかわらず、である。キューバは、おそらく2024年2月14日に朝鮮の敵国である韓国と国交を樹立したことが影響していると思われる。シリアは、朝鮮が支援していたバッシャール・アサド政権が2024年12月8日に崩壊したことが原因であると思われる。ラオスは分からない。

2025年の朝鮮にとって、ロシア、中国、ベトナムが米国と戦うための反帝国主義勢力で最も重要な国家である。ウクライナ戦争でロシアが敗北することは、朝鮮が米国に敗北することと等しい。そのために朝鮮はロシアが敗北しないように、ロシアを支援しているのである。

近年に朝鮮は対外政策を大きく変えた。朝鮮は2023年12月末に韓国を別の国家として、統一政策も放棄したのである。朝鮮半島は1つの国家に朝鮮と韓国の2つの政府が並存する分断国家というのが、それまでの国際的な認識であった。南北朝鮮は、いずれは統一国家を実現することを共通の目的としていた。しかし、2023年末に朝鮮は「朝鮮半島の2つの国家」を方針として出した。12月26日から30日まで朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議が開催され、金正恩が南北朝鮮を「同族関係、同質関係ではない敵対的な両国関係、戦争中にある両交戦国関係」と定義した8。朝鮮では、朝鮮と韓国は敵対する別国家となったのである。2024年1月15日に最高人民会議第14期第10回会議で行った施政演説で、金正恩は「最高人民会議ではほぼ80年間の北南関係史に終止符を打ち、朝鮮半島に並存する2つの国家を認めたことに基づいて、我が共和国の対南政策を新しく法制化した」と語った9

韓国は、朝鮮と敵対する米国の傀儡であることには変わりないが、朝鮮の同族ではなく、統一の対象ではなくなった。朝鮮はロシアや中国と共に、帝国主義勢力である米国や韓国と対立する反帝国主義勢力の国家なのである。帝国主義勢力である韓国とは同族であってはならないのである。

おわりに

朝鮮は、ウクライナ戦争が勃発する以前からロシアを重要な友好国としていた。ウクライナ戦争が勃発する前には貿易額はほぼ皆無であったにもかかわらず、ウクライナ戦争が勃発してもロシアに対する支持を表明していた。そのために、朝鮮がロシアを軍事支援するのは経済利益を求めてのことではない。

ウクライナ戦争で朝鮮がロシアを支援するのは、経済的な利益よりも、彼らの世界観から来る使命感のようなものである。2021年の朝鮮労働党第八回大会では、帝国主義勢力と反帝国主義勢力が対立しているという世界観を示していた。米国が支持するウクライナと戦うロシアは、朝鮮が支援すべき反帝国主義勢力のメンバーであるから支援しているのである。

朝鮮の世界観では、韓国も帝国主義勢力であった。そのため韓国を「同族関係、同質関係ではない敵対的な両国関係、戦争中にある両交戦国関係」と定義し、分断国家としての統一政策を放棄した。朝鮮は帝国主義勢力と全く関係を持ってはいけないのである。

もし、朝鮮が友好国と認めた国々が、帝国主義勢力のメンバーと戦争になれば、朝鮮は再びそれらの国々を支援するであろう。ウクライナ戦争における朝鮮のロシア支援は、朝鮮の海外軍事支援の初めての事例ではなく、また最後でもないだろう。朝鮮が反帝国主義勢力の旗幟を掲げ、国力の許す限り、朝鮮の海外軍事支援はこれからも続くことになると考えられる。

金正恩国務委員長とプーチン大統領(ウラジオストク、2019年)

金正恩国務委員長とプーチン大統領(ウラジオストク、2019年)
※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • Kremlin.ru(photo by Alexei Nikolsky, The Presidential Press and Information Office)(CC BY 4.0
著者プロフィール

宮本悟(みやもとさとる) 聖学院大学政治経済学部教授。博士(政治学)。専門は国際政治学、政軍関係論、比較政治学、朝鮮半島研究。おもな著作に、『北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか? 政軍関係論で読み解く軍隊統制と対外軍事支援』潮書房光人社(単著、2013年)、『独裁主義の国際比較』ミネルヴァ書房(共著、2024年)。


  1. 『東京新聞』2022年12月22日。
  2. 2023年9月13日から18日までの『労働新聞』を参照。
  3. 『労働新聞』1973年8月21日。
  4. 『労働新聞』2021年1月9日。
  5. 『労働新聞』2021年1月9日。
  6. 『労働新聞』2021年1月9日。
  7. 『労働新聞』2025年1月18日。
  8. 『労働新聞』2023年12月31日。
  9. 『労働新聞』2024年1月16日。