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自動車配車サービスをめぐるフィリピンの荒れ模様:東南アジアの一事例

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050413

2018年6月

近年のフィリピンの成長と発展への勢いは引き続き高まっている様相だ。2年前、当時のフィリピン国家経済開発庁(NEDA)長官で、自身も農業経済学・開発経済学分野においてフィリピンを代表する経済学者の一人でもあるアルセニオ・バリサカン氏は、もしもフィリピンが今見られる好調な経済成長を引き続き維持できれば、早ければ2022年までには世銀による分類でいうところの「上位中所得国」カテゴリー入りを目指せるだろうと太鼓判を押していた(現在は下位中位所得国)。すでに言い古された感が否めないが「消費の拡大」「中間層の台頭」「今後しばらく持続が期待される人口ボーナス」といった肯定的なフレーズが現在のフィリピン経済を形容している。

まだまだ絶対的貧困にあえぐ層が相当数おり、さらには相対的貧困という分配上の問題もあり、社会経済課題にまったく楽観視はできないものの、確かに成長の恩恵が奏功してかマニラ首都圏や都市部を中心として、自動車や耐久消費財、そして電子機器の普及は着実かつ急速に進んできたように思われる。今回は、自動車、それも東南アジアはもとより現在、世界大で普及している「自動車配車アプリ」をめぐる直近の事情について報告したい。

引き続く渋滞問題と移動するコスト
交通渋滞のひどさはアジア各国の共通課題である。他の東南アジア諸国と同様、フィリピンの交通渋滞はひどい。殊にマニラ首都圏についていえばそのひどさは際立っていて、常にフィリピンの不名誉なイメージとして定着してきた。特にマニラ首都圏内の大動脈はロハス大通りとEDSA大通りという2つの幹線道路であるが、全体として東京都23区かそれよりやや大きい面積に相当する広さを持ちながら、各市を縦断する道路はこの2本だけである。この2本から無数に派生する通りから、朝夕は行けど行けどもこの2本に自動車がどんどん合流するので、進めば進むほど悪化することこそあれ、まったく渋滞が解消する気配がない。混雑する時間帯の移動は避けるのが賢明ということになるが、混雑するということはそれだけ人びとが移動する必要性のある時間帯だということ。通勤・通学にも関わるので、そんな非現実的な悠長なことは言っていられない。

写真:マニラ首都圏ケソン市内の夕方帰宅時間帯の標準的な光景

マニラ首都圏ケソン市内の夕方帰宅時間帯の標準的な光景。
右下ではマニラ首都圏開発庁(MMDA)の 職員と警官が懸命に交通整理の仕事に精を出す(筆者撮影)。

これだけ渋滞がひどくなってきた背景は、従前から様々に指摘されているように道路網や鉄道といった交通インフラの貧弱さもさることながら、冒頭に述べた経済発展や消費拡大も手伝って近年急速に自動車保有世帯が増えたことにより、公道に出る自動車数が年々増えてきていることもある。もともと、道路も先述の通り限定的であり、鉄道はLRT・MRTという高架鉄道と国鉄があるがいずれも頼りないと言わざるを得ない。高架鉄道の稼働線数・距離も少ないし、スピードも遅い。連結する車両数も少ないため、恒常的に車内が混雑している。車内どころかホームにもおびただしい人にあふれ、常夏の暑さの中、高架鉄道に乗って移動するだけでも体力を消耗しストレスフルである。国鉄も南北に走るものの、国鉄が走る地域一帯は線路脇にスクオッター(不法占拠居住区)が広がり、これまた車両はスピードや本数に制約を抱えている。庶民の足であるジープニーやバスも混雑時間帯は人が殺到し、乗り切れずに何台もやりすごすことも日常茶飯事である。またこれらの交通機関は常に盗難など犯罪のリスクもある。落ち着いて移動できないのであるが、それは途上国ならどこも同じだろうか。マニラの朝夕の移動もご多分に漏れずサバイバルである。

諦観にも近いが、「フィリピノ・タイム」ということばがある。日本人がフィリピン人と知り合った場合、あるいは日系企業がフィリピン人を現地雇用した際にしばしばカルチャーショックとして直面するのがこのフィリピノ・タイムをめぐるさまざまなドラマである。約束した時間を守らない、他人を待たせても「エクスキュース・ポ~」(申し訳ありませ~ん)と謝ればそれでなんとか許される。しかしそれでいて、自分が待たされるのだけは御免である。先に着いたからには、しきりに携帯のSMSやメッセンジャーで「サーン・カ・ナ?」(いまどこ?)と相手に尋ねる。だから、時間については、フィリピン人と約束した時刻からプラスでかなりゆるやかに考えておく必要があると人びとは言う。思うに、このようなフィリピノ・タイムという免罪符を出現させているのは、国民の気質といった文化的側面もさることながら、一方には渋滞・交通網のひどさがあるのではないか。本人がどうしようもないところで遅れが発生してしまうという御し難い事実をみなが共有しているからかもしれない。日本のように発車時刻を1–2分でも遅れると、運転手がお詫びの放送を流すような国からやってくると、とにかく面喰らうのである。

交通問題の救世主:2つのTNCs
そんな状況にあって、現在世界大で普及しているTNCs(輸送ネットワーク会社、Transportation Network Companies)による自動車配車サービスは、交通問題に悩むフィリピン人にとっても救世主たる存在である。このような事情は多かれ少なかれ途上国・新興国では共通しているようでもある。携帯電話等にTNCsのアプリをダウンロードし利用登録を済ませておけば、あとは乗車地と目的地を入力するだけで、料金や予想所要時間、そしてドライバーの顔写真や名前、過去の顧客満足度に至るまでプロフィールが表示される。料金は一般交通手段よりかなり割高であるが、そこは消費主義と中間層の旺盛なフィリピンである。利用客数は軒並み増え続け、今では学生までもが気軽に使用するようになっている。一般タクシーの評判が他の交通手段に輪をかけて悪いなかで、TNCsの配車サービスは、「安心」と「確実性」を保証し、フィリピン都市部のさまざまな人々がこれまで抱え続けてきた「不安」と「不確実性」、そして不便や不満を一気に解決しうるサービス内容を誇っている。特にこの点が現地で高く評価されたのだろう。

写真:信号のない交差点が多く、渋滞をさらに悪化させている

信号のない交差点が多く、渋滞をさらに悪化させている(筆者撮影)。

フィリピンで首都・都市部を中心に操業してきたのはGrab社とUber社という2つのTNCsであった。Grabは東南アジアに軸足を置き、この地域に根差したサービスの発信を続けているという評判が特徴的である。他方、Uberは東南アジアに限定せず、世界的に展開しつつある。それぞれに独自の特徴があり、例えばGrab社は現地の人びとが大好きな「プロモ」を上手に利用してきたように筆者は感じている。プロモは、日本でいうクーポンのようなもので、利用期間限定で値引きするコードを配信し、一日限定何名様まで、とあらかじめ指定し、需要を駆り立てる。利用者は値引き期間中にこのコードを入力して割引が得られる。忘れたころになるとまたコードが送られてくるのでまたGrabを利用する。段々とGrabのサービスを知るようになり、愛着が湧くユーザーを醸成している。自動車配車以外にもデリバリーなどサービスのバリエーションもある。

他方、ケース・バス・ケースであるが、 Uberは基本料金がGrabよりやや割安であった。特に、「相乗り」である「Uber Pool」というシェアライド・サービスは、似通った乗車地・目的地の組をもつ利用者ペアをマッチングさせることで、シェアライドと引き換えにかなりの割安価格を提供してきた。もともとフィリピンの人びとは、ジープニーやトライシクルで他人と同乗するシーンに慣れている。誰かが乗ってくるかもしれない、なんてことはあまり気にせず、むしろそれだけで安くなるなら歓迎だという気風すらある。Uber Poolを用いると、筆者の体感では4割近く価格が安くなるという印象であった。Grabにも同様のシェアライド・サービス「GrabShare」があるが値下がり幅はUberのほうが数段大きいようである。つまり、相対的に言えば、Grabはプライベート・タクシー路線、Uberは同乗サービス路線をそれぞれ戦略的に取ってきたのであり、それぞれの特徴やメリットを利用者が選択することもできた。

なにより、同時に両社のアプリを起動させ、価格を比較することができた効用が大きい。価格に敏感な利用者は、常に2つの価格を参照し、安いほうを選択できる。実際には両社の戦略や特徴の相対的な違いよりは、瞬間的な価格の高低で利用者はどちらを利用するか判断する。片方の値段が上がっていれば(サージといって需要が供給に対して大きくなると価格が波のように一時的につり上がり、また戻っていく)、もう片方に利用者は逃げることもできる。そして、需要の過熱を冷却し、あわせて自動的に時間とともに価格のつり上がりを抑えることもできたのである。

Uber社の東南アジア撤退表明

そんな状況は3月末に終わりを大々的に宣告された。3月26日、Uber社から利用者に対して「Important Notice」と題する一斉メールが送られてきた。内容は、同社は4月9日付で東南アジア事業から撤退し、同部門はGrab社に売却するというものであった。さらに、同日以降、Uberは使えなくなるので、Grabユーザーでない者は4月8日までに早めにGrabアプリをダウンロードし利用登録を済ませるように、とも勧奨されていた。

筆者もこの通達にはショックを受けた。マニラの生活で「不可欠」とまではいわないものの、UberもGrabも、あれば確実に「便利」なサービスである。確かに、ジープニーや鉄道、さらには一般タクシーよりも運賃は高いが、例えば、初めて行く場所が目的地の場合、行ったことはあるけれど不案内な場合、突然の大雨に両手には荷物といった場合などには本当に重宝する。そんななかにあって、筆者が住む地域一帯ではUberの価格の方が安い傾向にあったことから、Uberの存在は大きかった。

しかし、それ以上に動揺を隠せなかったはまぎれもなく現地の人びとであった。いったん便利さを覚えてしまえば、人はそこから離れると大きな精神的労苦を感じるものである。Uberの撤退は、「Grab社が自動車配車サービス市場を独占する」という懸念を世間に広げた。当時から続く懸念として、

  • 価格設定:競合相手がいなくなり、価格は自社に有利な上昇傾向をたどるのではないか。プロモ配信が減るのではないか。
  • 選別問題:ドライバーが乗客を選別するようになるのではないか(Grabアプリ特有の問題)
  • 過少供給(超過需要):価格設定に加えて、ドライバー数(供給量)が追い付かないのではないか

といった内容が報じられていた。一点目と三点目は似ているようだが、一点目は経済学でお馴染みの独占市場における価格影響力という論点であろう。経済学の言葉でいえば、独占市場では市場全体で死荷重が発生し、競争市場均衡より資源配分が非効率的になるという余剰分析の含意がある。独占的状況では競争相手がいないので、基本的には1社が単独で価格を決定できる。利用者たちはこの点を心配していたのである。他方、三点目は、ドライバーの移籍問題の方が大きい。Uber社は利用者のみならずドライバーたちにもGrabへの移籍を促したが、Grab社は、十分な数のドライバーの移籍がなされていないと説明していた。例えば、利用者の需要量はUberが撤退することで7割ほど増加が見込まれるのに対し、ドライバーの登録者数は4割程度しか増加していないということであった。

当局からもついに「マッタ」?

Uber社の撤退はフィリピンにとどまらず東南アジア全域が対象であり、一国の問題ではない。さらに、一般的に、企業には言うまでもなくその経営方針を決定する権利があり、その採算や将来性など各種指標に照らして進出・撤退を決定する自由がある。いくら政府当局の権限が強くても、私企業の事業縮小や拡大にまで口は出せないはずである。しかし、交通分野という公共性が高い分野での1社への事業統合でもあったため、4月に入り当局が「マッタ」をかけたのである。フィリピンにも日本でいう公正取引委員会に相当するPhilippine Competition Committee(フィリピン競争委員会、以下PCC)という競争当局がある。このPCCがUber社のGrab社への事業統合に異議を唱えた。PCCは、競争市場環境と公共利益の維持・拡大を図る監視団体である。

冒頭で登場したフィリピン経済の見通しに太鼓判を押していた当時の経済開発庁長官でもあったバリサカン氏が委員長を務めるPCCは、Uber社が決定した撤退日の4月9日以降も同社に対して営業を続けるように勧告したのである。PCCは、両社による1社への事業統合により、同サービス市場における競争的環境が損なわれることの公共の不利益が大きい点を憂慮していた。そこで、真に両社の事業統合が市場にとってハームフルでないかどうかの審査をPCCが実施している間(審理されるまでの間)は、Uber社は撤退日を超えてもなお営業し続けよと主張したのである。

「マッタ」に「マッタ」?
これにより、予定に反し、4月9日を過ぎてもUber社のアプリは停止せずに機能していた。筆者を含めた利用者たちは、「ひょっとして今まで通り2社体制が続くかもしれない?」と一縷の期待を寄せた。しかし、今度はこの状況に「マッタ」を唱えた当局があった。それがLand Transportation Franchising and Regulatory Board(陸上運輸営業許可規制委員会、以下LTFRB)である。LTFRBは、TNCsはもちろん、ジープニーやバス、タクシー、鉄道などの交通機関の営業許認可と各種の提言・是正勧告を行う。LTFRBのリサーダ委員長は、4月9日以降、Uberアプリが引き続き利用できる状況について憂慮していると述べた。その最大の理由は、PCCの通達によって利用が延長されているとはいえ、実質的にUber社はGrab社に東南アジア事業を売却済みであり、その後は有力株主としての地位を得たとはいえ、資金的にも人員的にもその直接的な営業実態はもはや無くなっていたことにある。Uberアプリの継続維持にかかる費用はそれ以降Grab社が負担していたが、Uber社によるサポート体制はすでに無くなっていた。もし、万が一、Uber利用中にトラブルや事故があったとしても、Uber社側のサポート体制は4月9日以降存在していない。空洞化したサポート体制と、潜在的な事故・トラブルのリスクから、LTFRBはUberアプリの利用を危険視したのであった。競争市場を監督するPCCと、言わば文字通り「道」の上の安全を監督するLTFRBでは着眼点が異なったわけである。
その後現時点までの途中経過

その後、1週間が経過した4月16日、結局Uberアプリは利用停止された。今では画面を開いても「お客様のエリアでは残念ながらUberは現在利用できません」という画面が出るだけである。一度は、停止日を生きながらえたUberも結局、その幕を閉じた(いや、思い返せばさらに2017年の夏、当時はLTFRBの命令事項違反を理由に制裁を受け、Uberは1か月間操業停止を命じられたことがあった。Grab一頭体制・独占を世間が警戒するのは、その期間の価格高騰を忘れられないからでもある)。Uberが東南アジア諸国から撤退する中で、フィリピンに加えて、シンガポールでも似たようなことが起きたようである。

PCCは、通告より早い4月16日にUberアプリが利用停止となった点については少なからず不快感を示した。特に、競争的観点から審理を完了するまで2か月ほど期間を必要としたい、と発表しており、この後に結論を出す、としていたPCCからしてみれば、面子を傷つけられた感が否めない。しかし、陸上輸送にかかわる事故やトラブルの監督はLFTRPが担当するわけで、PCCの審理中にサポート体制をもはや失ったUberの自動車が何か問題を起こしたら、そして利用者がサポートを受けられないとすれば、LTFRBとしては看過できないのもうなずけよう。

利用者も、Grab社そのものもかなり政府当局の判断の不一致に翻弄された1か月間であったように思う。しかし、肝心要の「競争性」の確保については、LTFRBは早々に許認可申請をしてきた数社に許認可を与える動きを速めることで見通しが立つとする。PCCの着眼点は、Uber社に固執しているわけでも同社に事業を継続させることでもなく、あくまで市場の競争性確保である点には留意されたい。Grab社は一貫して独占を否定し、常にライバルの参入を歓迎したいと各種ヒアリングや報道インタビューで明らかにしてきた。とはいえ、暫時、Grabの一頭体制が自動車配車市場で継続することになるし、参入予定の数社の今後も未知数なところが大きい。なにより、交通という公共性の高い分野を民間配車サービスに大きく依存せざるを得ない現状そのものが社会的に大きな問題であり、解決すべき公的課題である。

そんな中で一つ光明となりうる事例を挙げて本稿を閉じたい。同じく4月に入り、フィリピン大学の目の前を走るコモンウェルス通りに突然、バリケードが登場した。MRTの延伸工事が着手されたのである。これはMRT-7とかブラカン線(仮称)と呼ばれていて、MRTが新たにマニラ首都圏の北に隣接するブラカン州という郊外地域と都心をつなぐ。2008年に契約の署名は済んでいたが、構想、構想ばかりで、実際には動きがなかなかなく、常に「マガバル・アン・グビェルノ」(政府の仕事は遅い)と人びとに揶揄されてきたなかで「やっとか」の印象も強い。この延伸工事は、距離は近いものの現在は直接には接続されていないLRT-1の最北端「ルーズベルト駅」とMRTの最北端「ノース・アベニュー駅」(ともにケソン市内)を結ぶところまでつなげていくとも期待されている。

Uberにはまさに「今までありがとう」、Grabには「今後ともよろしく」であるが、それと並行して、このような公共部門による事業着手、そしてその展開こそがフィリピン社会の待望だったのではないだろうか。また最近は、現政権にとって最重要プロジェクトの一つであり、日本の援助を受ける予定のマニラ地下鉄構想の動向にも関心が高まっている。政府が出資もせずに、民間の私企業がまるでその国の公共インフラであるかのように長期的に居続けてくれる保証もそんな公共性・慈善性もない。その意味で、「緒についた」新たなインフラ整備の公的な動きに注目が集まっていく。

——Wala na kasi si Uber. (もうウーバーさんはいないのだから。)

追記
  1. 本稿執筆現在(4月23日)、Grabは通常通り稼働している。個人的な印象としては、 TNCsによる配車アプリの存在・恩恵は大きい。マニラ首都圏や一部の地方都市では、日本からみれば数段も安い金額で「Door-to-Door」移動が可能である。事前に金額も確定し、面倒な道案内や価格交渉の必要性は皆無となった。さらに、現在の政権下で治安も安定化しつつあるように思う。TNCsの操業以前に比べ、移動の利便性は確実に上がったのは現在でも事実である。もちろん油断は禁物で移動の安全には細心の注意が常に必要であることは言を俟たないが、特に旅行客やフィリピンへ進出する企業関係者にとって、引き続き有り難い存在であることに変わりない。
  2. 本稿ではTNCsの利用者(需要サイド)を中心としたが、今一つ、途上国・新興国経済であれば特に重要となる論点としてドライバー(供給サイド)がある。特に、一日の中で仕事がない時間帯、車を使わない時間帯は、その言わば人的・物的資産は遊休資産でもある。必ずしも新規投資を必要とせずとも、その遊休の人的・物的資産を活用する=「資源」化するという着想は、有限な資源の効率的利用という理念と、雇用・所得獲得機会の創出にも大いにつながる。この供給サイドからみても、安定的な利用者・価格の確保・維持は切実な問題である。特に価格の影響は、Grab社のみならずドライバーにもわたっているからである。

(2018年4月23日脱稿)

著者プロフィール

岡部正義(おかべまさよし)。ジェトロ・アジア経済研究所 海外研究員、フィリピン大学ディリマン校労働産業関係学研究科 客員研究員、フィリピン大学ディリマン校教育学研究科修士課程教育行政学専攻 講師(兼任)。開発経済学、教育経済学、家族経済学、国際教育開発学、フィリピン研究。主な著作に、"Gender-preferential Intergenerational Patterns in Primary Education Attainment" (International Journal of Educational Development, Vol. 46, 2016)、「フィリピン・ミンダナオ農村部における教育需要の持続性に関する社会経済分析」(『アジア研究』63巻1号、2017年)など。