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アフリカ情勢 踊り場にさしかかったアフリカ経済

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050864

平野 克己

2014年12月
アフリカの経済成長は踊り場

アフリカのGDPはこれまで資源価格に左右されてきた。図1にサブサハラ・アフリカ49カ国のGDP合計と、資源価格を代表して石油価格の推移を重ねて示したが、両者は驚くほど似た動きをしている。ここに入れなかった北アフリカもサブサハラ・アフリカも、いまや総輸出の6割以上は石油と天然ガスで占められている。したがって現在の急激な原油価格下落は輸出収入を減少させ、経済成長率を引き下げて、今後はマイナス成長に落ち込む可能性すら否定できない。

図1.サブサハラ・アフリカのGDPと原油価格

図1.サブサハラ・アフリカのGDPと原油価格

(出所)国連統計より作成。

北アフリカの場合、この10年間、投資と輸出増によって成長してきた。外需主導型の成長といえる。他方サブサハラ・アフリカは外需の貢献がマイナスで、内需中心、それも個人消費主導の成長構図になっている。資源輸出は順調に増えたが、増えた所得を消費に回しているので輸出以上に輸入が増え、貿易収支は赤字基調である。つまり輸入財による消費爆発がおきているのである。投資も同じで、基幹的な生産投資を外資に頼っているうえ、投資機材はほとんどが輸入品だ。したがって、外貨収入がないと消費も投資も支えられないのである。

ところで、アフリカは人口がどんどん増えていくので資源ブームが終わっても内需が成長を牽引するという意見がよく聞かれる。「アフリカの消費爆発を追え」とエクイティー・ファイナンスが投資家マネーを集めているが、危ない橋を渡っているようにみえる。資源収入が少なくなれば輸入依存の消費も維持できないからだ。資源企業の投資も急激に減っている。

アフリカの産業構造は「ものづくり」から離れてマイニングの大陸になってきた。アメリカは原油の輸入先を中東からアフリカにシフトしてきたが、シェールガス革命がおきたことでそれが激減し、ナイジェリアの対米原油輸出は2014年についにゼロになった。アフリカの経済成長は踊り場にさしかかったのである。産油国や鉱物資源国の貿易収支は今年かなり悪化するものと推測されるが、そうなれば財政赤字が拡大する。各国通貨は減価して輸入負担をますます大きくし、債務返済を圧迫するだろう。

経済学では「資源主導で成長すると開発はかえって後退する」というのが定説である。これを「資源の呪い」という。アフリカ経済研究の世界的な権威であるコロンビア大学のジェフリー・サックスとオックスフォード大学のポール・コリアーはアフリカの経済成長に関して、アフリカの社会状況をかえって悪化させたと考えている。資源価格が長期に低迷した前世紀末、アフリカでは極端な貧困化が進行し、開発経済学はそのアフリカを集中的に分析研究することでいちじるしく進展したが、いまアフリカに関心を寄せているのは経営学者である。厳しい環境でも収益を生むビジネスモデルが注目を集めているのである。だが、先進国中最大の石油輸出国で、かつ世界でもっとも社会指標が優れているノルウェーをみれば、「資源の呪い」が普遍的現象でないことが分かる。「資源の呪い」をどう克服するかを考えることが肝心だ。

今年に入ってザンビアとガーナがIMFに支援を要請した。ガーナでは2007年に沖合大油田が発見され、南アフリカを除けばサブサハラで最初にソブリン債を発行した。サブサハラで初めて独立を達成し、先んじて政治的混乱を経験して最初に民主主義を定着させたが、民主主義の弊害においても先行している。ばらまき選挙をやり、公務員給与が倍増して、財政赤字が深刻化しているのである。国際収支の赤字も止まらない。ガーナは先般再びロンドンで国債を発行し10億ドルを調達したが、利回りが8.25%と非常に高い。1980年代の債務地獄と同じ道筋を辿っているようにみえる。

日本とアフリカの貿易関係

高度経済成長期当初、日本にとってアフリカとの経済関係はかなり重要だった。だが、日本の輸出入に占めるアフリカの比重は2000年前後には1%台にまで低落してしまった。これまで両者の経済関係を支えてきたのが自動車産業である。一番重要だったのが、車の排ガス浄化触媒に使うプラチナの輸入だ。世界のプラチナの70%は南アフリカで産出されているため、日本とアフリカの貿易関係はどうしても南アフリカに集中してきた。一方、日本の対アフリカ輸出の6割近くが自動車で、その最大市場も南アフリカだ。

それが東日本大震災で激変した。急速に伸びたのが天然ガス輸入で、おもに赤道ギニアとナイジェリアから購入している。福島原発の事故後、発電燃料輸入によって日本全体の貿易収支が赤字化したが、アフリカとの貿易収支も史上初めて赤字が続いている。いまの日本にはこれを補うだけの輸出力がない。頼みの自動車輸出も停滞している。

中国のアフリカ政策

まったく伸びない日本の輸出を尻目に、対アフリカ輸出は中国の独走状態になっている。対アフリカ輸出ではながくフランスが首位であったが、いまや中国はフランスの倍以上の輸出額をもっており、アフリカの消費爆発を支えているのがおもに中国製品であることがわかる。

中国が原油の純輸入国になった翌年、1996年に江沢民がアフリカに行き、21世紀に向けて中国とアフリカの経済関係強化を謳った。1995年、中国はアフリカ初の資源権益であるスーダンの油田をインド、マレーシアとともに入手している。スーダンの石油開発はこの3カ国によって進められた。また胡錦濤は在任中アフリカに計4回、18カ国を公式訪問した。中国は貿易投資に止まらず農業支援、文化交流、中国語教育、留学生受け入れなど、幅広いアフリカ政策を展開している。BBCがガーナ、ナイジェリア、ケニアで実施した世論調査によれば、いちばん評価されている国はイギリスで次が中国であり、中国に対する評価はドイツ、アメリカ、日本を凌いでいる。

習近平政権の政策は、胡錦濤時代の資源調達中心から、製造業移転へと優先度がシフトしているように思う。中国のアフリカ政策は、日本のかつての対東南アジア援助政策に酷似している。中国企業専用の経済特区を方々につくっているが、インフラ構築に積極的なのは中国企業を移転させようとしているからだろう。中国では国内賃金が上昇して競争力を失いつつある。そこで習近平政権は、製造業、とくに労働集約型産業をアフリカに移転しようとしている。北京大学のジャスティン・リン(林毅夫)は2008年から2012年まで世界銀行のチーフエコノミストを務めたが、彼は世銀在任中に、中国政府・世界銀行共同で350万人の製造業雇用を中国からサブサハラ・アフリカに移転させるという計画を策定した。

中国の援助政策は急速に進化している。最近のめだった動きとしては、マルチの援助を重視するようになった(アフリカ開発銀行への10億ドル拠出、アジア・インフラ投資銀行やBRICS銀行の設立)。中国を「新植民地主義」として批判していたイギリスは、国際開発省(DFID)が中国政府とMOUを結び、対アフリカ援助での共同を謳っている。米中連携も進んでいて、たとえば南スーダンの独立は米中が協同しなければありえない話だった。ハルツーム(スーダン政権)ともっとも強いパイプをもっていたのは中国だったからだ。

オバマ政権は2014年に初めてアフリカ・サミットを開催したが、オバマ政権が打ち出した対アフリカ政策の売りは「パワーアフリカ」(アフリカにおける電源開発と配電計画)で、その先鋒はGE社である。アフリカ・サミットでもGEの存在がめだっていた。コンゴ民主共和国のインガ・グランド・ダム計画は、全アフリカの電力需要を賄ってなお余りあるという途方もない大プロジェクトで、世界銀行やアフリカ開発銀行がFS予算を出している。最初の段階の入札が近々始まるが、中国はアメリカと共同すべく秋波を送っているという。

南アフリカの巨大企業

アパルトヘイト廃止宣言があった1991年以降、南アフリカから他のアフリカ諸国への輸出が急増した。南アフリカ企業が輸出を加速し、アフリカ諸国は輸入先を欧州から南アフリカへシフトした。他方南アフリカは、アフリカ諸国から買うものが原油以外ほとんどなく、アフリカ域内貿易は圧倒的な黒字になっている。この域内黒字で中国やサウジアラビア、ドイツとの赤字を埋めているのである。つまり、典型的な地域大国型の貿易構造になっている。

南アフリカ企業はアフリカでの強みを生かしてグローバル企業になり、一部は日本企業より巨大になった。SABミラーは現在世界第2位のビール会社で、英米で上場している。スタンダード銀行はアフリカ最大の銀行で、中国商工銀行が20%出資している。オールド・ミューチャルはアフリカ最大の保険会社であり、マレー&ロバーツは南アフリカ有数のゼネコンで、ドバイのブルジュ・アル・アラブ・ホテルを建設したことで知られる。ネットケアはアフリカのみならずイギリスでも最大の医療チェーン持ち株会社だ。世界最大の資源メジャーBHPビリトンは、現在はイギリスとオーストラリアが本拠地だが、もともとは南アフリカの会社である。グレンコアとエクストラータの合併は資源業界を驚かせたが、これを推し進めた両社のCEOは二人とも南アフリカ白人だった。

歴史的にアフリカに投資してきたのはフランスで、これをアメリカが追いかけてきた。最近は中国や南アフリカなど新興国が注目されており、インドのアフリカ進出も加速されている。しかし、新興国のなかで一番投資額が多いのは、実はマレーシアである。南アフリカ企業のアフリカ展開は日本でも比較的知られているが、マレーシア企業についても、連携先としてもっと検討されていいと思う。

アフリカの農業

アフリカ最大の欠点、したがって最大の開発課題は農業だ。アフリカの総労働力の約60%はいまだ農村にいる。先進国では総労働力の1%もあれば主食穀物を自給できるが、アフリカでは60%いても40%の都市人口を養えていない。アフリカ農民は自分たちプラス総人口の15%分の食糧しか賄えず、残りの25%は輸入や援助に頼るしかない。都市の購買力が農村に向かわず輸入に回るので、経済成長しても貧困人口が減らないのである。よって農業、とくに国内向け食料の生産性を向上させないかぎり、アフリカの貧困問題は解決しない。

世界最大の穀物輸入国は日本で、年間2500万トンを輸入している。その日本を2009年に、サブサハラ・アフリカ49カ国の合計輸入量が抜いてしまった(図2)。これに北アフリカを足すと7000万トンにもなる。東アジアは5000万トンだ。東アジアは世界一人口密度が高く、コメは自給できても食肉用の飼料穀物をつくりきる面積がない。一方アフリカは人間が食べる食糧穀物の生産性が低すぎて、都市化が進めば進むほど穀物輸入が増える構造だ。世界の穀物貿易は、米国や欧州が輸出して、これを東アジアとアフリカで分け合うという構図になっている。アフリカの穀物輸入増加をどこかで止めないと、東アジアの食料安全保障が脅かされるのである。

農業が未発達だと食糧価格が高くなる。物価が高いと賃金水準に跳ね返る。したがってアフリカの製造業賃金はアジア諸国より高い。1人当たりGDPは遥かに低いが、セネガルの賃金は中国より高いのである。中国の製造業移転計画において成功例とされるエチオピアは、政府が農業開発に熱心であったうえ農業就業比がまだ8割近くあって、幸いなことに穀物輸入が深刻化しておらず、賃金水準も高くないが、都市化が進展している国はベトナムやミャンマー等よりも高賃金である。アフリカの労働力にはアジアのような比較優位が存在しない。このことが産業育成を阻み、資源依存からの脱却を難しくしている。アフリカ最大の開発課題はいまも農業にある。

図2.東アジアとアフリカの穀物輸入

図2.東アジアとアフリカの穀物輸入

(出所)FAO統計より作成。
テロ問題

オバマ大統領の登場当初は米アフリカ関係の進展が大いに期待されが、オバマ政権は国際テロ対策を中心にアフリカとかかわってきた。アメリカはアフリカを、イスラム過激派の兵站基地だと認識している。しかし、アメリカがアフリカで行ってきたオペレーションは「アラブの春」、とくにリビア政変でご破算になった。リビアに蓄蔵されていた兵器が拡散してアフリカの治安状況はいっきに悪化したのである。現在の焦点はサハラ砂漠で、フランスが兵力を送って封じ込め作戦を展開している。沈静化しつつあるソマリアに代わりいま話題になっているナイジェリアのボコ・ハラムも、アルカイダからISISに連携先をのりかえたといわれる。

課題先進国、日本

日本にとって深刻なのは人口問題だ。これほど急速に人口減少がおきるのは人類史上初めてであり、労働力人口が少なくなって海外展開要員もいなくなる。それへの対応として日本企業が進めてきたのがM&Aで、非日本人部隊によって海外ビジネスを拡充してきた。リーマン・ショックで野村証券が手に入れた人材は、アフリカ関連企業のM&Aを水面下で支えたようだ。

欧米は移民によって人口を維持してきたという側面があるが、東アジアでは難しい。欧州各国における外国人人口は10%を超えているが、日本は2%、韓国1%、中国は0.1%にすぎない。東アジアの場合言語や文化の壁が高い。アジア唯一の例外は英語を公用語にしているシンガポールで、40%が外国人だ。

東アジア史からの教訓は元(げん)である。元は漢民族からみれば外国人王朝で、少数のモンゴル人がいろいろな外国人を取り込んで形成した異民族帝国だった。これとは逆に北欧は、独特の言語を有し緊密な共同体意識をもつ。これを背景にして、世界一の租税負担率に耐えながら高度な福祉国家をつくりあげた。日本はこれからさまざまな社会実験を試していくことになるだろう。

JT、NTT、関西ペイント、豊田通商は各分野でアフリカ随一の企業になっている。南アフリカ企業や中国企業という強力なプレーヤーがいるなかで日本企業が上位にいられるのは、これらの日本企業がアフリカのナンバーワン企業を買収したからである。かつての円高メリットを生かし、リスクを積極的にとろうとした企業が、日本のアフリカビジネスや開発途上国でのビジネスを先導している。世界で強い企業はアフリカでも強い。また、アフリカで収益をあげられる企業は世界でも戦える。アフリカでは各社各国の実力が試されるともいえる。今後予想される景気下降のなかでも生き残ることのできるビジネスとはなにか。いま準備しておかなければならないのが、この課題に対する答えである。