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ペルー情勢レポート スーパーのアンデス地域進出と調達網の構築

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050899

清水 達也

2013年3月

ペルーの中部山間地域に位置するフニン州ワンカヨ市において、2013年3月農産物流通に関する調査を行った。新しい地域に進出する際、スーパーマーケットはどのようにして調達網を構築するか、ジャガイモを例にスーパーの購買担当者や供給業者に対して聞き取り調査を行った。以下にこの調査で明らかになった点について報告する。

スーパーの地方進出

ペルーでは近年、スーパーマーケットの地方都市への出店が増えている。地元紙の報道によれば、2012年末時点のスーパーの数は全国190店、うちリマ首都圏が134店、それ以外が56店となっている(La Republica 紙、2012年12月25日)。全国チェーンのスーパーは、2007年になって初めてリマ以外の地方都市に出店した。それからわずか数年の間に、経済的に豊かな海岸部地域(コスタ)の主要都市には複数のスーパーが既に出店したほか、アンデスの山間地域(シエラ)の主要都市への出店も始まった。今回訪問したフニン州ワンカヨ市もそのうちのひとつで、2008年に新設されたショッピングセンター内に大手スーパーのひとつPlaza Veaが開店した。同スーパーは市内に2つめの店舗をオープンしたほか、2012年には別のスーパーチェーンがMetroを開店した。

なお、Plaza Veaは国内大手銀行Interbankグループに属するSupermercados Peruanosが展開するスーパーのひとつで、Plaza Veaのほか、リマの高所得者向けにVivandaを出店している。Metroはチリ資本のCencosud が展開するスーパーのひとつで、Wongが高所得者層向け、Metroが中所得者層向けの店舗である。

スーパーが地方都市に進出する場合、主に2つの方法で商品を調達する。ひとつはリマにある流通センターからの調達、もうひとつは店舗が進出した地元での調達である。石けんや洗剤などの日用品のほか、清涼飲料水、お菓子、スナック類などの加工食品などは、基本的にはスーパーチェーンがメーカーなどから仕入れてリマの流通センターに集め、そこからリマ市内や他の都市の店舗に配送する。しかし生鮮の野菜や果物などについては、鮮度を維持するためにも、可能であれば地元で調達することが望ましい。しかし地方都市の場合、サプライヤーとしてスーパーに納入した実績がある流通業者がいないため、店舗の進出に際しては同時にサプライヤーを育成する必要がある。

今回聞き取り調査を行ったスーパーのうち、Metroの担当者は「商品は全量をリマから調達している」と答えた。このMetroは、日常品や食品のみを扱う比較的小規模の店舗で、2012年12月のオープンから3カ月しか経っておらず、併設するいくつかの専門店もまだ開業していない。担当者の話では店舗の従業員の研修を進めている段階で、地元での調達の態勢はまだ整っていないという。

地元卸売商からの調達

これに対して2008年にワンカヨ市に進出したPlaza Veaは、ワンカヨ市の店舗に調達の専任者を配し、主要な野菜などは地元業者から調達している。同スーパーは現在、ショッピングセンター内の店舗で家電なども扱うハイパーマーケットと、食品を中心に扱うスーパーマーケットの2店を市内で営業している。

調達担当者の話では、ワンカヨ市におけるPlaza Veaのジャガイモ調達は大きく2つに分けられる。ひとつはワンカヨ市内の2店舗向けの調達である。ジャガイモの主要3品種(白色種のCanchanとYungay、黄色種のTumbay)を中心に、毎週2トン弱を仕入れており、地元のサプライヤーが選果・洗浄・分類・ネット詰めをして、スーパーのプラスチック・ケージ(ひとつ約18kg入り)に入れた商品を店舗へ納入している。

もうひとつはリマの店舗向けジャガイモ調達で、地元の卸売商人が主要2品種(Canchan、Tumbay)を供給している。これについては卸売商人が生産者から調達したジャガイモを、圃場で選果して約60kg入りの袋に詰め、商品のトラックや運送業者に依頼して、リマにあるジャガイモ加工場まで輸送する。ジャガイモはここで再選果・洗浄・分類・ネット詰めされ、プラスチック・ケージ入れられ、リマの流通センターに運ばれる。ここで店舗ごとに分けられ、他の商品と一緒にリマ市内の店舗に配送される。

サプライヤーの育成

スーパーの担当者が卸売市場から直接商品を調達することは少ない。それは、卸売市場で取引されている商品形態とスーパーの店頭に並ぶ商品形態が大きく異なっているからである。ジャガイモの場合、卸売市場で取引されるのは100~120kg入りの袋である。圃場である程度の選果はされているものの、泥がついていたり、大きさがそろっていなかったり、傷ついたり、腐ったジャガイモが混じっているのが一般的である。このジャガイモを袋から出して選果、洗浄、分類、ネット詰めを行い、スーパー専用のケージに入れてスーパーの流通センターや店頭に納入するサービスを行うサプライヤーが必要になる。

リマの場合、主要スーパーはそれぞれ流通センターを設けている。それぞれの品目に特化したサプライヤーが存在し、産地や卸売市場などから調達した野菜や果物を、自らの作業場でスーパー向けの商品に仕立て上げて流通センターに供給している。

ワンカヨ市の場合、Plaza Veaが進出した当初はそのようなサプライヤーが存在しなかった。そこでPlaza Veaの調達担当者は地元の卸売市場に出向き、卸売業者に声をかけてサプライヤーを募った。しかしワンカヨ市内の青果卸売市場で、Plaza Veaのサプライヤーになったのは3業者程度にとどまっている。サプライヤーになるには、いくつかの条件を満たす必要があるからである。

まず第1はスーパーの発注に応じた納品である。スーパーが定めた仕様を満たす商品を、納期までに確実に納品する必要がある。卸売なら問題にならないような大きさの違いや傷みも、スーパーの場合には納品できないことがある。さらに確実に商品を納品できるように、常に供給を確保する必要がある。第2はスーパーが求める取引慣習に従うことである。そのひとつが、フォーマルな取引を行うことである。サプライヤーは個人事業者または法人として税務登録されている必要があり、取引に際しては納品書や請求書の発行が求められる。決済は請求書をスーパーに提出してから1週間程度後に銀行口座へ支払われる。このような取引では、税務当局がサプライヤーの販売実績を補足することが可能になるので、サプライヤーは販売に伴って納税収める必要がある。地方の卸売商の多くは、税務登録を行っておらず、かつ現金決済を基本としており、税金を払っていない場合も多い。そのため、スーパーが求めるフォーマルな取引に対応する会計管理能力がない、またはフォーマルな取引を行いたくない場合は、スーパーと取引ができない。Plaza Veaの調達担当者によると、卸売業者に向けて税務登録や会計処理の指導を行っているものの、多くの卸売業者がサプライヤーになるところまでたどり着けないという。スーパーが指定した条件を満たした業者については、リマの本部でサプライヤー登録を行い、それによって発行されたサプライヤー・コードを利用して取引を行う。

リマの場合は1品目あたりの販売量が多いため、サプライヤーは特定の品目(ジャガイモの場合は特定の品種や白色・黄色などの商品グループ)に特化して納入することが多い。しかしワンカヨ市のPlaza Veaは2店舗しかないため、サプライヤーは卸売商品として売買実績のある複数の野菜や、カットやフィルムによる包装など同じような加工を必要とする品目を数種類まとめて納入するサプライヤーが一般的である。

生産者組織との取引

スーパーチェーンのPlaza Veaが現在進めているのが、生産者組織から調達した在来種ジャガイモの販売である。ペルーのアンデス地域はジャガイモの原産地であるが、スーパーで販売されているのは商業生産用に改良された品種がほとんどである。しかしワンカヨ市に近いアンデス高地では、零細小規模生産者が現在も在来種を生産しており、昨今のグルメブームのなか、注目を集めている。白いジャガイモの中央に紫や赤の色素が混じった在来種は、大手食品メーカーが近年売り出したポテトチップスにも利用されている。

Plaza Veaはこのような在来種のジャガイモのスーパーでの販売を手がけている。フニン州で零細小農支援・農村開発に取り組んでいるNGOであるFOVIDAの支援を受けた生産者組織が、在来種のジャガイモを生産する生産者組織を支援し、直径3cm程度で中が紫色のLEONA(スペイン語で雌のライオン)種のジャガイモの商品化を進めている。現段階では税務登録などの点で生産者組織がサプライヤーの条件を満たすことは難しいため、支援しているFOVIDAがサプライヤーとして、Plaza Veaへ試験的に納入を始めている。しかしこのジャガイモは収穫量が限られているうえ、収穫期が2~3カ月に限られているため、現在はワンカヨ店のみへの供給となっている。FOVIDAによれば、最終的には生産者組織地震がサプライヤーとなり、Plaza Veaへ直接納入できるようにすることを目指している。