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ペルー情勢レポート 人気が高まるペルーの料理と国内産品

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050885

清水 達也

2011年10月

ここ数年ペルー国内では料理や食材に関する関心が高まっている。いくつかのペルー料理のレストランがラテンアメリカ諸国に進出して各地で高い評価を得ているほか、国外からの観光客の増加に対応するためにホテルやレストランの数が増えており、それらに人材を供給する料理学校も次々に設立されている。また、順調な経済成長が続いていることで都市部を中心に中産階級が拡大しており、より多様で洗練された商品やサービスに対する需要も拡大している。これらを背景として、国内で料理や食に関するさまざまなイベントが行われているが、本報告では2011年9月に行われた2つイベントを紹介する。

1つ目のイベントは、第4回リマ国際料理フェア(IV Feria Gastronómica Internacional de Lima)、通称 MISTURAである(写真1)。リマ国際料理フェアを主催するのはペルー料理協会(Sociedad Peruana de Gastronomía)である。ペルー料理の普及とその国際的知名度の向上を目的に2007年末に設立されたこの協会には、リマの主要レストランのほか、料理関連のジャーナリストや作家などの文化人が名を連ねている。その中心となっているのが、理事長でありペルーで最も有名なシェフであるガストン・アクリオ氏である。ペルー国内では、伝統的なペルー料理を現代風にアレンジした料理を提供するレストランのほか、刺身をレモンでしめたセビチェ、サンドイッチ、バーベキューなどの各種の専門店を経営している。国外ではアルゼンチン、チリ、コロンビア、エクアドル、スペイン、メキシコ、ベネズエラに進出しているほか、最近はセビチェ専門店をニューヨークに開店した。

写真1 第4回リマ国際料理フェアMISTURA

この協会がペルー料理の知名度を国内でも広げるために企画したのがリマ国際料理フェアである。2008年9月の第1回料理フェアは3日間で約2万3000人を集め好評を博した。フェアの規模は毎年拡大し、今年はリマ中心部に近い公園を会場に、9月9日から18日までの10日間開催され、入場料だけでも20ソル、さらに料理は1皿1人前12ソルと比較的高額1にもかかわらず、昨年の20万人弱の2倍を超える約40万人が入場した。フェアでは70を超えるスタンドが料理や飲み物、デザートなどを提供したほか、グラン・メルカドと呼ばれるパビリオンでは170を超える出展者がペルー各地の農牧産品やその加工品を並べて販売した。今年はペルー各地から集められた30種類以上の果物が会場を彩った(写真2)。

筆者は地元のスーパーで前売り券を購入し火曜日の午前11時頃に入場した。午前10時の開場にもかかわらず、グラン・メルカドはペルー各地の産品を試食したり購入したりする人で混雑していた。筆者はアマゾン熱帯低地で自生するビタミンCが豊富な果物、カムカムのジュースや最近国際コンクールで賞を取ったプレミアムコーヒーを試飲した。さらに有機栽培のマラクジャ(パッションフルーツ)のほか、ペルー南部モケグア州で栽培されるオリーブで作ったペーストを購入した。昼時には、今年の招待国である日本コーナーで鶏の竜田揚げのどんぶりを半人前食べた後、ドラム缶で豚肉をいぶしたチャンチョ・アル・シリンドロを試してみた。ただ、このときにはすでに昼食時間にかかっており、豚肉料理を購入するのに1時間も待たされた。ほかのスタンドも同様で、開場のあちこちに長い列ができていた。

写真2 MISTURAの果物紹介コーナー

2つ目のイベントは輸出企業協会ADEXが主催した第3回ペルー食品見本市(Expoalimentaria Peru 2011)である(写真3)。これは農牧水産品などの食料やその加工品、食品産業で使われる機械などの見本市で、540社が出展し、うち140社はラテンアメリカ諸国を中心とする外国企業である。来場者数はまだ明らかにされていないが、国外から1800人のバイヤーが訪れ、主催者の推定によれば約2億ドルの商談が成立したという。

出展品の中でも目立ったのが、果物、穀物、コーヒーなどである。近年アジア向けの輸出が拡大しているブドウなどの果物や、国際的にも高い評価を得ているスペシャリティ・コーヒーなどはもちろんのこと、キヌアなどのアンデス地域の雑穀類や、熱帯低地で生産されるカカオ豆から作ったチョコレートも注目を集めていた。これらの多くは有機農産物の認証を得ているほか、食品加工の品質管理に関する認証であるHACCPを取得したり、生産現場からのトレーサビリティを確保している企業もみられた。このほか、ペルーのアンデス地域の産品輸出を促進する政府機関であるSierra Exportadoraや米国際開発庁(USAID)が出展し、生産者を支援するプロジェクトから生まれた商品を紹介していた。

写真3 第3回ペルー食品見本市

2つのイベントをみて感じたのは、農産物や料理などをはじめとした国内産品に対する関心が、ペルー国民の間で高まっていることである。筆者が2000年代初めにペルーに滞在したときには、多くのリマ市民は輸入産品により興味を持ち、富裕層の間では旅行先はクスコよりマイアミ、という傾向が強かったように感じた。これは1980年代末の経済危機や、1990年代前半まで続いたアンデス山間地域における治安悪化、1990年代の極端な経済自由化による国内製造業の衰退などにより、さまざまな面において国内産品が競争力を失っていたためだと考えられる。

しかし2000年代前半から10年近く継続している経済成長を背景に変化が現れている。まず需要面では、海岸地域の都市部を中心に新興の中産階級が現れ、これらの購買力が向上している。供給面では治安や輸送インフラの改善により、国内観光の機会が増え、地方産品の供給が拡大している。また中小企業やレストランが、自社製品の売り込みのために品質や包装材、サービスの質を向上し、商品の競争力を高めている。このような需要・供給両面の変化が、国内産品に対する関心の高まりにつながっている。

参考
  1. 筆者の勤務するリマ市内ヘススマリア区のレストランでは7ソル程度で昼食の定食が食べられる。