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オバマ新政権と中東政策

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049678

福田 安志

2009年3月

この記事は2009年3月18日にデイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」でオンエアされた『オバマ新政権と中東政策』(福田安志研究員出演)の内容です。


アメリカでは、1月にオバマ大統領が就任し新政権が発足しました。 オバマ新政権はどのような中東政策をとろうとしているのか、 また、政権の誕生によって中東情勢はどのように変化するのだろうかなど、その行方が注目を集めています。まず初めに、 なぜ、オバマ政権の動向が注目を集めているか、 その背景から教えてください。

Answer ご存じの通り、 アメリカはこれまでも中東の情勢に深くかかわってきました。 特に、中東の「政治」「安全保障」などでは アメリカの果たす役割が大きく、期待も大きいです。

例えば、中東和平(イスラエル・パレスチナ紛争)、 イランの核開発問題、イラク問題、アフガニスタンでのテロとの戦い、などなどアメリカは中東の国ではありませんが、主たる当事者となっています。 それが、オバマ政権となって、中東政策に関し、大きな変化が起きました。

  1. 人の変化』――政策の中心にいる大統領が変わり、担当者も変わるポリティカル・アポイントメント(政治任用制度) などもある
  2. 政党・イデオロギーの変化』 ――共和党政権→民主党政権で政策の手法の変化  ブッシュの対決姿勢から→対話路線へ (単独行動主義→スマートパワーへ)
  • ブッシュ政権…イデオロギー的、軍事を多用
  • 新政権…外交・経済・文化・軍事など

多様な手段による影響力・・・米の関わりの強さから、新政権発足でどのような変化が現れるか注目される。

Question オバマ新政権の政策全体の中で、中東はどのような位置を占めているので しょうか。

Answer オバマ政権が重視しているのは、以下の3つといわれています。

まず1つには「アメリカ国内の経済対策」。 金融危機からの経済の立て直しを最優先するなど、経済対策を中心に 国内問題がメインです。

2つめが「石油やエネルギー問題」。ブッシュ政権がエネルギー問題を重視したのに対し、オバマ政権では 原油の重要性が低下。その替わりに環境問題を重視。代替・新エネルギーの開発を提唱しています。

3つめが「外交政策」ですが、G20など、経済面での協力が中心となっています。 こうしたことから現時点では、中東を含めた外交政策のプライオリティが 低下といわれている。

現地の研究者によると、演説では50分のうち“中東はわずか2分”とも 言われています。

Question そうだとすると、「中東軽視」ではないですか?

Answer そうでもないんです。実は執務初日(1月21日)の朝、オルメルト首相、アッバス議長、 エジプトのムバラク大統領、ヨルダンの国王と相次いで電話会談を行い、 中東和平に向けた取組に速やかに着手する方針を伝え、協力要請するなど 中東政策を重視する姿勢が見うけられます。

アメリカには、冒頭でも申し上げたように、 「いやでも中東にかかわらざるを得ない現実」があります。ブッシュ政権から引き継いだ負の遺産の側面もありますから、今後、国内問題に目途が付いて行くのに従って、中東政策の重要性が強まるでしょう。

中島)それでは、オバマ政権の中東政策。どのような特徴が出てくると考えられるでしょうか。

Answerブッシュ政権の中東政策と比較すると、「共通する面」、「対照的な面」の 双方があります。 まず共通する面ですが、こちらをご覧下さい。

表:ブッシュ政権とオバマ政権 共通する中東への姿勢

中東政策の「基本」はブッシュ政権と大きくは変わらないと考えられる。この点は見落としてはいけない点です。さらに、これらには、4年後の大統領選での再選戦略も影を落としています。

表:4年後の大統領選を見据えた再選戦略


Question その一方で、対照的な面は、どのような点でしょうか。

Answer こちらにまとめました。

表:ブッシュ・オバマ両政権の相違点

ブッシュ政権と異なる点は、

(1)イラク、アフガニスタンに関する政策

  • 2011年末までにイラクから完全撤退の方針
  • 一方で、アフガニスタンへは増派
  • 現在3万7000人の米軍を2年間で6万人に増加
  • イラクでの戦争・紛争で受けたダメージからの早期の回復を目指す
  • アル・カーイダなどの過激派の活動を押さえ込む姿勢を鮮明にした
  • アメリカの本土防衛のためもある

(2)は、政策を実現するための手段の相違である

  • ブッシュの対決姿勢→スマートパワー(よりソフトな対応)へ
  • ブッシュ政権…考え方、政策を担った人の面でイデオロギー的影響
  • 「強い個性」を持ち、好き嫌いがはっきりしていた。
  • イスラエルの指導者とは多く会うが、パレスチナ指導者とは会わず。
  • 単独行動主義・・硬直的な対中東政策

「スマートパワー」とは

  • 国務長官となったヒラリー・クリントンがこの言葉を用いた。
  • 外交・経済・文化・軍事など多様な手段を用いた影響力行使
  • 既存の同盟関係・国際機関を重視、国際ルールを尊重、 スマートに、アメリカの国益を追求する
  • お金をかけない政策・・ブッシュ政権は金がかかった
  • 現状を踏まえ、友好国との協力関係を踏まえ、政策を実現
  • 具体的には、対話を重視した(取り入れた)路線

Question おっしゃるとおり、旧政権から大きく転換するオバマ政権の中東政策ですが、どのような人たちによって担われるのでしょうか。

Answer こちらにまとめました。

表:オバマ政権 中東政策関係スタッフ  

表:中東政策遂行の体制

今は、その下の官僚機構を整えているところとされるが、比較的、対話重視に沿った布陣になりつつある。アフガニスタンだけは軍事色。

Question さて、オバマ大統領が就任した1月20日から2カ月がたちましたが、 中東の側でも何か変化は起きているのでしょうか。

Answer 政権発足後に起きた動きとして最も注目されるものとしては、 「アメリカがシリアとの対話を探り始めている」ことです。

  • 2月・・大統領選の民主党候補、ケリー上院外交委員長のシリア訪問
  • 3月・・フェルトマン米国務次官補代理、特使としてシリアを訪問

こうした一連の動きにはこのような意味があります。

表:対シリアへの働きかけ「意味」

この関係改善が実現すれば、特に、中東和平問題に大きな影響があります。ただ、シリアがその動きに応じるかどうかは不明です。

Question また、気になるのがアメリカとイランの対立ですが、 イランとの関係で、新しい動きは見られますか。

Answer イランをめぐる問題では、「核開発疑惑」について、特に神経をとがらせています。オバマ政権は対話を試みるとしているが、動きは鈍いですね。唯一、アフガニスタンに関し動きが表れている。アメリカはアフガニスタンをめぐる会議にイランの参加を求めて、今月12日には、イランも参加を表明しました。しかし、同じ12日に、アメリカはイラン制裁の1年延長を発表。イランに関しては、6月に大統領選挙があり、アメリカは様子見の姿勢です。

Question 今後、どのようになって行くでしょうか。

Answer 初めのところで述べましたが、オバマ政権の中東政策は、 「イスラエル支持」、「イランの核開発への反対姿勢」など、ベーシックなところでは前任のブッシュ政権と大きく変わりません。
しかし、現在、オバマ政権は、中東諸国との対話の可能性を提示することで、事態を良い方向に進展させる道を探ろうとしています。 今後の展開を見通す上では、現時点でカギとなるのは、「シリアの動き」かと思われます。

オバマ政権などはシリアが変わる可能性があるとみて、シリアへの働きかけを行っているものと考えられますが、シリアが政策を転換し穏健な方向に向かえば、アラブ諸国に非常に大きな影響を与えます。 しかし、その可能性は少ないと言わざるを得ません。今後の、動向を注視したいと思います。

ブッシュ政権の時代にアメリカと中東諸国との関係は、国・国民双方とも、悪化し、中東では反発も強くアメリカと距離を置く政権がいくつもできました。オバマ政権が発足して、状況と関係の改善が進むことが期待されます。 29-30日にはカタルのドーハでアラブ首脳会議が開催されますが、 そこで、どのような動きが出てくるか注目されます。