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世界を見る眼

原油高騰 枯渇問題と価格への影響

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049679

 福田 安志

2008年8月

この記事は2008年8月20日にデイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」でオンエアされた『原油につきまとう枯渇という影』(福田安志研究員出演)の内容です。


原油の枯渇問題と価格への影響

今年は原油価格が高騰し、経済や私たちの生活に大きな影響を与えています。価格高騰の原因については、投機資金の動向や、需要と供給の関係などが指摘されています。しかし、中長期的な原油価格の動向には、油田の枯渇問題も重要な役割を果たすものと考えられます。

Question はじめに、世界の原油の生産量を教えてください。また、日本の輸入量はどれくらいでしょうか?

Answer 原油はバレルという単位で量ることが多いです。1バレルは約160リットルです。バレルは「樽」の意味で、昔、樽で原油を運んでいたために用いられている単位です。ドラム缶1本が200リットルですので、それより2割ほど少ない量です。

世界の原油の生産量は、1日単位で計算しますと約8000万バレルです。一人当たりに換算しますと約2リットルになります。平均で、毎日2リットルずつ石油を消費しているわけです。日本の原油の輸入量は約500万バレルです。

Question 油田の枯渇が深刻な産油国はどこか示してください。

Answer 世界の原油資源はあと50年くらいは持つだろうといわれています。しかし、事情は国ごとに異なり、枯渇が進んでいる国がいくつかあります。そのことが、今後の原油価格の動向に大きな影響を与えるものと考えられます。

グラフ:原油可採年数(残り年数)

このグラフ(1)は、いくつかの国の原油の可採年数、つまり、現在のレベルで原油生産を続けるとしたら、あと何年生産することができるかを示したグラフです。最も少ないイギリスで、あと5年しか持たない、アメリカは11年です。枯渇は遠い将来のことではなく、目の前に迫っていることが見て取れます。

Question 枯渇により影響が出る生産量はどのくらいでしょうか?

Answer このグラフ(2)を見てください。ロシアが日量1000万バレル近く、アメリカが約700万バレル近くの原油を生産しています。

グラフ:原油生産量(日量・万バレル)

グラフに示した6カ国合計で約2800万バレルの原油を生産しています。前のグラフと合わせますと、この6カ国だけで、今後20年以内に2800万バレルが消えてしまうことになります。これは、アメリカの消費量の約1.5倍、日本の消費量ですと約5倍にあたります。

世界全体では、枯渇により消える原油の量はもう少し増えるものと考えられます。

Question 枯渇は、どのようなステップを経ていくのでしょうか?

Answerグラフ(3)を見てください。これは、アメリカの生産の歴史を示したものです。1970年代から80年代にかけての時期が生産のピークで、その後生産が減少しているのが見て取れます。

グラフ:アメリカの原油生産の推移(出所:米EIA)

計算上は、アメリカは、現在の生産レベルを続けるとあと11年で枯渇することになっています。しかし、11年後にパタンと枯渇するのではなく、グラフに示したように、年々、少しずつ生産量が減少していきます。

生産のレベルが下がると、埋蔵量の減り具合が弱まりますので、その分だけ枯渇は先に伸びます。ですので、アメリカが実際に枯渇するのは、11年後ではなく、30年くらい先のことになると思われます。その代わり、10年先には、生産量は現在の半分程度になっていると予測されます。そのことは、グラフから見て取れます。

Question枯渇問題は世界の需要と供給にどのような影響を与えるのでしょうか?

Answer このグラフ(4)を見てください。このグラフは将来手当てが必要になる量を、需要増によるものと枯渇に起因するものとに分けて示したものです。下の部分は、油田の枯渇で減少する生産量への埋め合わせ量を示したものです。上の部分は、経済発展や人口増加による需要の増加を予測したものです。

グラフ:将来、手当てが必要な原油(世界)

グラフは、枯渇と需要増加により、2030年までに、合計で3500万b/dの原油を新規に手当てする必要があることを示しています。中でも、油田の枯渇が最も大きな割合を占めています。つまり、原油価格の今後を予測するとき、需要の増加より枯渇による影響の方が大きいことが見て取れます。

省エネなどで工夫して需要の増加を抑えることは可能ですが、枯渇は防ぎようがありません。今後、枯渇の影響が強まっていくのに従い、原油価格への影響も避けられないものと考えられます。

次のグラフ(5)は、将来手当てが必要になる量を国ごとに示したものです。ヨーロッパ、ロシア、アメリカについては、枯渇の影響が大きいです。中国は、需要増加が中心になっています。いずれにしても、22年後までには3500万b/dの原油を手当てしなければならない現実があるわけです。

グラフ:国別:手当てが必要な原油

Question 枯渇問題は将来の原油価格にどのような影響を与えるのでしょうか?

Answer もちろん、新規の油田開発などが進み供給量が増えていきます。しかし、その量はあまり大きくなく、2030年までに、1700万b/d程度の増加しか期待できません。グラフ(6)からは必要量と供給量のギャップが年々拡大していくことが見て取れます。2030年には、必要量とのギャップは1800万b/d程度に拡大します。これは、現在の世界の生産量の約23%に当たり、相当量の不足が生じることになります。

グラフ:原油:ギャップの拡大(出所:作者推定)

このギャップは原油価格を上昇させます。価格が上昇し、需要が減少し、バランスが取れるところまで上昇するものと考えられます。油田の枯渇問題が、今後、油価を押し上げる大きな要因になっていくでしょう。

10日ほど前に、イギリスの王立国際問題研究所が原油価格についてのリポートを出しましたが、その中で、今後5-10年以内に深刻な供給ひっ迫に陥り、1バレル=200ドルを超える可能性があるとの見方が示されています。

7月半ば以降、原油価格は大幅に下落していますが、枯渇問題の影響がしだいに強まっていくことを考えると、かつてのように、1バレル50-60ドルになることはないと見られます。むしろ、中長期的に見ると、相当な高値が予想されます。

Question 今後の、原油価格の動向を占う上でポイントとなるのどのような点でしょうか?

Answer 今後、増産の可能性のある産油国があります。その上位6カ国をグラフ(7)に示しました。例えば、イラクは可採年数が長く、また、未発見の油田もあるといわれていますので、今後、生産を2倍、3倍に増やしていくことが可能です。グラフ(7)からは増産の可能性のある産油国が湾岸地域に集中していることが見て取れます。全体的に見て供給量は十分でないとは言え、湾岸産油国の動向は重要です。

グラフ:原油可採年数の長い上位6カ国

湾岸地域では、イランの核開発問題やイラクの混乱など、不安定な状態が続いています。湾岸地域の安定が、将来の、原油価格に大きな影響を与えるでしょう。今後、注意深く見守っていく必要があるでしょう。