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フェアトレードが熱い

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049592

佐藤 寛

2008年10月

この記事は2008年10月1日にデイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」でオンエアされた『フェアトレードが熱い』(佐藤寛研究員出演)の内容です。


Question 最近フェアトレードという言葉をよく耳にしますが、フェアトレードとはどういったものなのでしょうか?

Answer 実際店頭で出回っているものには、チョコレート、コーヒー、変わったところではフィリピンのお砂糖、美容用エッセンシャルオイルなどもあります。

また、カタログもあるように、衣料品、ハンディクラフトなどの品揃えも最近は増えています。

そもそもフェアトレードとは何なのか説明しますと、途上国の生産者が、現在よりもより多くの収入を手にすることが出来るように様々な工夫をして、彼らの生活水準の向上を図ってもらおうとする取引のことです。

これは、一方的な寄付、慈善、援助でもなく、かといって冷酷な市場原理による交易でもない。その意味では先進国と途上国の新しいつながりのチャネルとも言えるかもしれません。先進国の消費者が、途上国の生産者の生活背景を尊重しながらビジネスパートナーを目指すという点が新しいですね。

Question 日本ではどの程度認知されているのでしょうか?

Answer 最近大きな都市にはぽつぽつフェアトレードショップもできはじめ、インターネットなどの利用も広がっています。

年間売り上げ推計50億円(2004年)から71億円(2007年)に増加中です。

とはいえ、まだまだ一般の人にはなじみが薄く、昨年行われたインターネット上での調査によれば、ランダムに選んだ約14,000人中、フェアトレードという言葉を聞いたことがあり、それが途上国の貧困や環境問題と関係があると知っていた人はほんの2.9%に過ぎませんでした(412人)。しかも、そのわずかな人々のうち、実際にフェアトレード商品を買ったことのある人はさらに1/3でした。まだまだ一般の人にはなじみがないとはいえ、若い世代を中心に徐々に認知度は上がっていると思います。

Question フェアトレードは具体的にどういった流れで取引が行われているのでしょうか?

Answer そもそもフェアトレードの背景には、途上国の生産者の取り分があまりに少ないという認識があります。日本のコーヒーショップで飲まれているコーヒー一杯が330円として、そのうちのどれだけを生産者が得ているかというと、たったの3~9円、つまり1~3%にすぎないのです。そして生産国の仲買人や輸出業者を合わせて7%くらい、残り90%は日本の輸入業者、流通業者、そしてコーヒーショップの儲けになります。途上国の物価水準が低くても、この程度の収入では、生産者は家族の食糧の確保、子供の教育、病気のときの薬代・治療費を十分にまかなうことは困難です。そこで、生産者の取り分を少し増やそう、というわけです。

また、途上国の収入の少なさ以外にもスエットショップ(搾取工場)の問題があります。以前「サッカーボールがパキスタンの児童労働によって生産されている」という報道があり、このメーカーの商品を消費者がボイコットするという騒ぎがありました。生産者が人間的な環境で労働に従事できるように働きかけ、そうでない商品を拒否するというのもフェアトレードのもうひとつの側面です。これによって最終的には、ブランドイメージの低下が怖い大企業への圧力になり、途上国の労働者の生活環境が改善されることが期待されます。

Question それでは、どのような仕組みを作れば生産者が利益を得られるのでしょうか?

Answer いろいろな方法があるのですが、一般的にはフェアトレードには3つの特徴があります。

1つ目は、買い取り保証価格です。特に農産物は天候、収穫量などによって価格が変動しがちで、せっかく豊作になっても、生産コスト割れの価格で買い叩かれることもあります。これに対して、フェアトレードではあらかじめ市場価格よりも多少高く買い取る保証価格を約束するのです。生産者は安定的な収入が約束され、追加的な収入で生活水準が向上します。

2つ目は、前払い金です。貧しい農民は現金収入の道が少ないので、収穫後にならないと現金を得ることが出来ません。しかし、日々の生活には現金が必要なので高利貸しから借りることもあります。その結果せっかくの生産物を買いたたかれたり、利子が払えずに家や土地を取り上げられたりしてしまいます。そうした事態になることを防ぐために購入者があらかじめ代金の一部を前払いで支払うのです。これによって借金地獄に陥ることを防ぐことが出来ます。

3つ目が、割増金(プレミアム)の支払いです。これは、代金とは別に生活環境の改善のための資金を支援するものです。例えばコーヒーの場合は売り上げ1ポンド当たり0.1ドルです。このお金は生産者が山分けするのではなく、「組合」員が話し合いで学校建設、井戸の補修、村の診療所の整備などに使います。この3つ目のポイントは開発援助的な要素が強くなりますね。

Question そうなると最終的に価格が高くなるのではないですか?

Answer その通りです。フェアトレード商品はこうした、買い取り価格、先払いリスク、割増金などのために通常の取引よりも手間とコストがかかります。その結果最終製品価格は高くなりがちです。その部分を消費者が負担するのがフェアトレードなんです。

Question この事実を承知の上でなぜ購入するのでしょうか?

Answer 一般的なエスニックブームも無関係ではありませんが、食べ物や着る物があふれている日本と、日々の食糧にも事欠く途上国の間の格差について様々な情報が増えてきて、日本人の間に潜在的な罪悪感、贖罪感が広がっているということもあると思います。この構図は、1990年代以降顕著になっていて、特に若い世代には「途上国の貧しい人のために何かしたい」という気持ちがあるのではないでしょうか。

しかし何が出来るのかについては、よく分からない。思いつくのはNGOや国連機関などに寄付すること。他にはNGOのボランティア、青年海外協力隊員などになって途上国に行くという方法もありますが、普通の人にとっては語学の問題もあり、なかなか敷居が高いですね。その点、買い物のついでに貢献できるというのは比較的簡単ですね。

つまり一番気軽な国際協力の方法として、フェアトレードが注目されているということです。「お買い物で国際協力」というキャッチフレーズもあります。

Question 途上国の貧困を救うことが目的だということですが、それ以外でもフェアトレードの意味というものがあるのでしょうか?

Answer より大きな問題として、現在進行中のグローバリゼーション、市場万能主義への反対運動という側面があります。1999年のWTOシアトル会議は10万人のデモによって混乱しました。そのときのスローガンは「不公正な貿易」に抗議するということで、これも「フェアトレード」の源流となっています。

Question まだまだフェアトレードを認知してもらうために、何が今必要とされているのでしょうか?

Answer フェアトレードが先行している欧米に比べると日本の市場規模は小さいのですが、まずは認知度の向上が第一ですね。欧米でのフェアトレードの認知率は50-90%といわれています。次に商品の品質向上・商品に接する機会の増加が必要となっています。具体的には、スーパーやコンビニにおいてあれば良いという声もあります。イオン、スターバックス、ネスレなどの大企業もすでにフェアトレード市場に参入しています。

しかしながら、そもそも大量生産・大量消費に対する異議申し立ての部分もあるフェアトレード商品をスーパー・コンビニで売ることは、フェアトレードの精神にかなうのかという議論もあります。

Question 私たち消費者はどういった意識でフェアトレードと付き合うべきでしょうか?

Answer 我々の消費生活は途上国の生産者とますます強く結びつく時代になっています。生産者の生活状況や、どういう方法で生産されているかに無関心に「安ければよい」といってはすまなくなりつつあります。その意味で、「消費者」の行動原理の変更を求められており、それに対する一つの対応方法がフェアトレードといえるでしょう。

ただ、そうした「高くてもあえて買う」という消費行動は社会運動としては意味があっても、一般の消費者の間に根付くのかという疑問はあります。そこでフェアトレードだからといって能書きをつけず、純粋なビジネスとして勝負するべきだ、と考えて実践している人もいます。

さらに、商品を販売する側の先進国の企業もまた、フェアトレード的な要素を企業の社会的責任(CSR)の一環として取り入れるところも出始めています。例えばミネラルウォーターの売り上げの一部をアフリカの井戸掘りに使う、というCSRを行っている企業があります。

日本と途上国の新しい関係性の構築は今後も続いていくと思いますし、その可能性は多様です。