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インドネシア:インドネシア石油ショックの衝撃

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049596

 佐藤 百合

2008年6月

この記事は2008年6月5日にデイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」でオンエアされた『インドネシア石油ショックの衝撃』(佐藤百合研究員出演)の内容です。


インドネシアはアジアで唯一のOPEC(石油輸出国機構)の加盟国ですが、 実は先月「OPECから脱退」する方針を発表しました。 インドネシアは「石油輸出国」から「純輸入国」に変わりつつあります。 こちらをご覧下さい。

グラフ:原油・石油製品の貿易額バランス

輸出額は減っていませんが、輸入(とくに燃料輸入)が急増しています。 輸出入バランスは、原油はかろうじてまだ輸出超過ですが、 石油燃料を含めれば、2003年から輸入超過、つまり純輸入国になったのです。

《「中進国化」する産油国がたどる石油ショックへの道》

輸入が増えた理由は、ひとことで言えば「国内消費の増加」です。

グラフ:インドネシアの原油生産量と消費量・精製能力の推移  

石油生産が減少する一方で、消費は一本調子で増加。 生産に消費が追いつき追い越してしまった状態で、 これはインドネシアが「産油国」から「消費国」へと 変貌したことを意味しています。

同じ輸入国である日本と同様に、 石油燃料の価格高騰に苦しむことになりますが、その変化の度合いが大きいのが問題です。

グラフ:ガソリン価格の国際比較

こちらは各国のガソリン価格を比べたものですが、 産油国だったインドネシアではこれまで、 国内での価格を非常に低く統制してきました。 石油輸出で得た収入を、石油燃料を安く抑えるための補助金に回してきたのです。

国際石油価格が高騰するにつれ、インドネシア国内の価格との価格差は広がるわけですから、穴埋めすべき補助金の額はますます膨らみます。 補助金の財源は細る一方で、必要額は膨れる。まさにダブルショックです。

そうなると、補助金をカットせざるを得ません。 そこで、インドネシアは石油燃料を値上げせざるを得なくなり、2005年に約2倍の値上げ。そして先月にも30%値上げ。 さらに段階的に国際価格に近づける方針です。

こうした値上げは、マクロ経済的にはインフレを生み、消費の低迷など 経済成長にブレーキをかけますが、社会的にも大きな問題となります。インドネシアでは、庶民は煮炊きに灯油のコンロを使っています。加えて日々の交通費も上がる。 輸送費が上がれば、日用品、食料もみな上がる。 エンゲル係数が高い中下層の人々ほど直撃を受けるわけです。

2億2000万の人口のうちの2割近い貧困層を抱えるインドネシアにとって、 こうした燃料値上げは非常に衝撃が大きく、安い燃料を当たり前だと思ってきた産油国インドネシアが、消費国に移行するにあたって、大きな試練を迎えているのです。

《日本への影響は?》

こうした状況ですから、 インドネシアは、これまでほど先進国に資源を供給する余力がありません。

グラフ:原油輸出量の輸出先構成の推移

日本はインドネシアにとって最大の原油輸出相手国ですが、この5年で輸出量は3割も減少しています。 しかし、実は日本にとってもっと深刻なのが「天然ガス」です。

表:日本のLNG輸入元の国別構成

私達が毎日使う電力のエネルギー源で一番大きいのが、 天然ガスを液化した、液化天然ガスです。日本はその液化天然ガスの世界最大の輸入国です。そのうち3割をインドネシアから輸入しています。

インドネシアも途上国から中進国化して、国内消費が高まっていることを考えると、天然ガスについても輸出余力は低下していくでしょう。

これまでインドネシアは、30年の長期契約で 生産量の6割を日本に輸出してきましが、2010年にはその契約期限が切れます。 その後はどうなるかというと、 インドネシア側は、「大幅に増産できない限り、これまでの量の半量程度しか保証できない」としています。(4分の1と言っていたのを、2分の1まで日本が押し戻しました)。「自国の資源は、自国の発展のために優先的に活用する」 というのがその理由です。

日本への影響について確かなことは、過去30年と同じ量の天然ガスを今後も同様に長期にわたって インドネシアが日本に供給することはない、ということです。

日本は途上国から必要なだけ資源エネルギーを輸入できることが当たり前だと思ってやってきたわけですが、 インドネシアだけでなく、資源を保有する他の途上国が、中進国、新興国になるにつれて、そんな日本にとっての良き時代は過ぎ去ろうとしているといえるでしょう。

つまり、「いつまでも あると思うな 他国(ひと)の資源」。 今後は他国の資源に依存するのではなく、 自力で再生可能なエネルギーを供給できる体制を考えていくことが、 ますます重要になっていくでしょう。