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タイ:中央銀行、短期外資流入規制を発動

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049629

東 茂樹

2006年12月

タイ中央銀行は12月18日、為替相場の投機による上昇を抑制するため短期外資流入規制策を発表した。これを受けて翌19日、タイ証券取引所の株価指数は前日比で約15%下落し、時価総額で約8200億バーツが吹き飛ぶ「ブラックチューズデー」となった。当初導入された取引規制策では、外為銀行が顧客のバーツ購入に際して、投資資金の30%を中央銀行に預託することを義務づけ、1年未満に回収する場合は資金の10%が没収される。しかし株価への影響が甚大であったため、財務相は19日夜に急遽、規制緩和措置を発表し、株式投資目的の為替取引は規制の対象外とした。その結果、20日の株価指数は約11%高と反転し、約5300億バーツの買い越しで、その後1週間は株価指数が680前後で落ちついている。

世界的な過剰流動性とドル安傾向により、タイでは急速な外資の流入が続いていた。とくに投機筋のバーツ買いは凄まじく、12月第1週の流入額は約9.5億ドルに達して、1ドルは35バーツ台前半となり、年初から約14%上昇した。為替取引規制が厳しい周辺国との輸出競争力を考慮すれば、これ以上のバーツ高は、産業界に及ぼす影響が深刻と、タイ中銀は判断したのである。規制策導入後1週間は、1ドル36.4バーツ前後で推移している。

当初の取引規制策は、わずか1日で規制緩和に追い込まれたことで、当局の対応が拙劣であったとの見方がある。ただタイ中銀は、投機筋のバーツ買いに対抗するために、ドル買い市場介入、売りオペによる不胎化を実施しており、そのコストは巨額に上っていた。また12月4日には、外為銀行に対して非居住者との債券売買の為替取引を禁止したが、効果は限られていた。タイ中銀は検討を重ねたうえで、トービン税、チリが1990年代に一時導入した規制策を参考に、今回の短期外資流入規制を導入したと考えられる。しかし株式市場への影響を過小評価した点は否めない。一部の学者からは変動相場制下の金融政策で対応すべきとの意見もあるが、12月13日の金融政策決定会合では、政策金利を5.0%で据え置き、外資流入規制を目的とした利下げは行わないことを明確にした。

また19日夜に急遽策定された規制緩和措置をプリディヤトン財務相(前中銀総裁)が発表したため、中銀の独立性に対する政治介入との批判がある。しかしタリサ中銀総裁は、同日不在で、事態の緊急性に鑑みて、株式、債券市場監督の立場にある財務相が関係機関と調整にあたったためであり、中銀総裁との連携は維持されていた。

1997年のアジア通貨危機から10年になろうとしているが、為替投機の勢いは以前よりも凄まじく、各国の適切な経済運営や地域通貨協力が必要なことを改めて思い起こさせた。