東アジアの国際生産ネットワーク:モノの貿易から「価値」の貿易へ

2011年10月19日(水曜)
政策研究大学院大学(GRIPS) 想海樓ホール
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主催:ジェトロ・アジア経済研究所、世界貿易機関(WTO)
後援:政策研究大学院大学

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報告1 「国際産業連関分析から見た東アジアのサプライチェーン:その歴史的展開と展望」

猪俣哲史 (ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター 国際産業連関分析研究グループ長)

WTOとIDE-JETROは数年間にわたりこのトピックについて共同研究を続けてきた。IDE-JETROは、自ら作成した国際産業連関表を利用して、東アジアにおける生産工程の地理的細分化が国際貿易に与える影響について分析を行った。ここではその要旨を報告する。分析の詳細については報告者を参照されたい。

過去20年間(1985~2005年)を振り返ると、東アジア諸国と米国は時代の流れとともに経済的相互依存を深めてきた。1985年時点では、各国間の相互依存度は弱かったものの、1995年になると日本を中心にその度合いが強まり、2005年には、今度は中国を中心にリンケージがさらに強まっている。

次に、東アジアにおける中間財の供給ネットワークの発展プロセスを俯瞰する。1985年では、主として日本が資源国であるマレーシアやインドネシアからの原材料輸入に依存している構造が見られたが、域内の中間財貿易はそれほど活発ではなかった。1990年になると、日本企業の海外進出が進んだことによって、日本から韓国、台湾、タイへの中間財輸出が増加した。域内貿易は活発化し、そのネットワークは大きく広がった。さらに、1995年には米国がこのネットワークに参入し、日本の中間財はマレーシアとシンガポールでの生産工程を経由して米国へ輸出されるようになった。2000年には、中国とフィリピンが参入し、2005年になると、東アジア諸国で生産された高度な中間財の多くが中国へ輸出され、さらに最終製品へと加工されて欧米市場に輸出されるという、いわゆる「三極貿易」構造が出来上がった。

米中2国間の貿易に注目したとき、米国の多額の対中貿易赤字がしばしば問題視される。確かに、従来の貿易統計によれば、そうした傾向が表れる。しかし、前述したように、中国は他国から技術的に洗練された中間財を大量に輸入し、それを最終製品に加工して輸出している。すなわち、輸出される製品に含まれる中国の貢献部分(付加価値)は比較的小さく、付加価値ベースで貿易額を計算すれば、中国の輸出額は大きく縮小する可能性がある。この付加価値貿易を計算するための強力なツールとして、我々アジア経済研究所が作成してきた国際産業連関表がある。これを使って米国の対中貿易赤字を計算すると、赤字額が従来のものに比べておよそ30%以上も減少することになる。

配布資料 (1.18MB)

猪俣哲史(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター国際産業連関分析研究グループ長)

猪俣哲史
(ジェトロ・アジア経済研究所
開発研究センター
国際産業連関分析研究グループ長)

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