東アジアの国際生産ネットワーク:モノの貿易から「価値」の貿易へ

2011年10月19日(水曜)
政策研究大学院大学(GRIPS) 想海樓ホール
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主催:ジェトロ・アジア経済研究所、世界貿易機関(WTO)
後援:政策研究大学院大学

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報告2 「国際生産ネットワークの発展と貿易への影響:付加価値貿易の計測に向けて」

クリストフ・ ディギャン (WTO 経済調査統計部上級統計官)

生産工程の国際的な分業化はいくつかの要因によって生じたものである。その発端は先進国の消費パターンの変化(大量生産・大量消費)にあるが、その他の要因として、関税率の低減、インフラ開発と技術進歩、輸出加工区の増加、アウトソーシング/オフショアや海外直接投資(FDI)の拡大などがある。これらの要因が相まって国家間の分業が進み、いわゆる「仕事の貿易(Trade in tasks)」という概念が使われるようになった。「仕事の貿易」に見られる傾向として、第1に、中間財貿易が支配的であること、第2に、企業内貿易が発達していること、そして第3に、加工貿易が増加していることが挙げられる。この本で紹介される「付加価値貿易」とは、このような国際貿易のトレンドに即した貿易概念の一つである。

アジアは中間財貿易が盛んに行われている地域であり、その特徴あるいはトレンドをまとめると以下のようになる。第1に、世界の中間財貿易に占めるアジアのシェアは1990年代末から増大し、2010年には37%を占めている。第2に、アジアの中間財貿易はその大半がアジア域内で行われている。第3に、中間財貿易についてアジアは輸入超過となっている。第4に、日本がその典型例だが、アジア諸国が扱う中間財が高度化(あるいは先進化)しつつある。そして、第5に、アジアの中間財貿易はコンポーネントの数が減少し集中する傾向にある。以上を鑑みると、アジアは世界の工場であり、そのサプライチェーンはアジア域内の市場活性化につながっているといえる。

中間財はいくつかの生産工程を経て最終製品となり、ある国から輸出される。そのときに問題になるのが「原産国」の概念である。例えば、旅客機Boeing 787はMade in USAだが、その旅客機に内在するコンテンツはさまざまな国で生産されている。これを米国製として良いのだろうか。このように、生産チェーンの最後になった国の名前を原産国として表示することはミスリーディングの可能性がある。なぜなら、工業製品は一国内で生産が完結することはほとんどなく、多くの場合、Made in the Worldとなっているからである。

WTOはIDE-JETROと共同で、新しい貿易概念である「付加価値貿易」の計測を行ってきたが、これには以下に示すような特徴あるいはメリットがある。第1に、国際貿易に対するある国の貢献度をより正確に評価することができること。第2に、経済の相互依存関係や保護主義がもたらす負の副産物に光があたること。例えば、Aという国がBoeingに対してアンチダンピング税を導入した場合、Boeingのサプライチェーンに参加しているA国の企業にもダメージが及ぶかもしれない。GVCsは、保護政策が裏目にでる可能性があることを示唆している。第3に、付加価値貿易の計測によって、貿易におけるサービス部門の貢献度を評価することができる点である。従来の貿易統計ではこれが評価できない。そして最後に、猪俣氏の報告でも示されたが、2国間または2地域間のより現実的な貿易収支、すなわち、付加価値ベースの貿易収支を計算することができる点である。

付加価値貿易は従来の貿易統計を代替するものではなく、補完するものである。これらを活用することで、現代の国際貿易をより良く理解することができると信じている。

配布資料 (570KB)

クリストフ・ ディギャン (WTO 経済調査統計部上級統計官)

クリストフ・ ディギャン
(WTO 経済調査統計部上級統計官)

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