東アジアの国際生産ネットワーク:モノの貿易から「価値」の貿易へ

2011年10月19日(水曜)
政策研究大学院大学(GRIPS) 想海樓ホール
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主催:ジェトロ・アジア経済研究所、世界貿易機関(WTO)
後援:政策研究大学院大学

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基調講演

アレハンドロ・ハラ(世界貿易機関(WTO) 事務次長)

IDE-JETROとWTOの共同研究の成果を皆様にお話することができ、大変うれしく思う。

このたびの成果は日本の技術(スキル)を取り入れたことにより、非常に美しくかつエレガントに仕上げることができた。この共同研究はまさに国際価値連鎖(Global Value Chains: GVCs)そのものであり、関係各位に感謝を申し上げたい。

WTOの優先的課題の一つは、現在、世界的に進みつつある生産工程の細分化(フラグメンテーション)が国際貿易に与える影響を理解することにある。政策当局者は常に適切な統計データを手にしなければならないが、そのためには、今回の出版された本の核心である付加価値貿易(Trade in Value-added)を計測する必要がある。2008年にWTOがこの計測を行うことを公表したとき、IDE-JETROが真先に名乗りを挙げ、その後OECDや世界銀行、欧州委員会が加わり、今日に至っている。

この本は、過去20年の間に国間の分業構造が大きく変化したことを示している。各国はかつて最終製品に特化する傾向があった。しかし、今ではむしろ仕事(あるいは生産工程)に特化するようになった。すなわち、生産工程が一国内で完結せずに、中間財(部品など最終製品を構成する財)と最終製品が異なる国で生産され、国境を越えてそれらが取引されるようになったのである。生産工程間における国際的な供給(または仕事)の連鎖は国際価値連鎖(GVCs)と呼ばれている。

現代の国際貿易はこのような国際的な生産ネットワークの上に成り立っているが、この本の中でも示されているように、それは決して「ゼロサムゲーム」ではない。近年を振り返ると、日本、米国、そしてヨーロッパの先進諸国は、熟練を必要としない仕事を外注し、研究開発やマーケティング活動に集中するようになった。一方、途上国は熟練を必要としない仕事を受け入れることで、生産能力の拡大という利益を享受した。その結果、アジアの途上国は日本に急速にキャッチアップし、また米国にとっても主要な取引相手となった。これは、日本経済の重要性が低下したことを意味しているのではなく、仕事の再分配がアジア地域の中で生じたことを示している。こうした仕事の貿易(Trade in tasks)はゼロサムゲームとはほど遠く、その地域において互いに「win-win」の関係になれることを示唆している。各国の政策当局者やアナリストはこの点を十分に理解する必要がある。

最後に、アジア諸国が「世界の工場」として急成長した要因を強調することによってこの講演を締めくくりたい。第1に、アジア諸国が貿易や外国投資に対して開放政策を採ったことが挙げられる。「脱グローバル化」を唱える人々が言うような自給自足経済や孤立主義は持続可能な選択肢ではない。第2は、国家の役割である。この本でも紹介されているように、アジア諸国の政府は、関税の低減、税関手続きの簡素化、そして輸送インフラの整備などを行うことによって、貿易の促進を図った。グローバル化の利益を得るために、政府と産業界が互いに協力することが重要である。また、製品製造、ビジネスサービス、そして国際的なロジスティクスは互いに密接な関係があり、国際的な生産ネットワークは製造業だけでなくサービス業にも存在することを指摘しておく。

アレハンドロ・ハラ (世界貿易機関(WTO)事務次長)

アレハンドロ・ハラ 
(世界貿易機関(WTO) 事務次長)

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