Oi! do ブラジル—リオデジャネイロから徒然なるままに 2005年8月 半年が過ぎ、これからが勝負!

ブラジル現地報告

ブラジル

海外派遣員 近田 亮平

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2005年8月

8月が終わり、私がブラジルに来て半年。今回のブラジル滞在は2年間の予定なので、4分の1が経過。この半年で果たしてどれだけのことを吸収でき、ブラジル研究に関してどれだけ前に進めてきたのだろうか。う~ん、まだ今の段階では非常に疑問かも。正直、生活を落ち着けるのに(特に精神的に?)苦労したこと、ヘルニアに苛まれたこと、大学院での学習に関して悩み続けたこと等々から、自分自身の研究に関しては遅ればせながらようやく少しずつ何かが見え始めたかな、といったところ。そんな感じで、まさに残された4分の3の時間、これからが勝負!といった感じ(大丈夫・・・かな?(汗))。

あと、蛇足ではあるが、半年も過ぎたのに現地でのIDがいまだに手元に届いていない。日本なら外国人登録証は役所に行って30分もしないでもらえるのに・・・。

そんな今月の半ば、聴講生となった今、大学院での最後のタスクとなるであろうプレゼンを行うことに。お題は「ブラジルの青少年期妊娠問題について」。このプレゼン、人口統計学のゼミの課題で、受講者一人一人に個別のテーマといくつかの課題文献が課され、そのテーマについて発表するというもの。くじ引きでたまたま私に課されたのは地域研究的関心からして、まあ面白そうなテーマ。

内容をかいつまんで説明すると、次のような感じ。近年のブラジルでは都市化や近代化に起因する社会経済的生活環境の変化とともに、人々の“家族”に対する考え方にも変化が起こり、以前のような子供の多い大家族は少なくなる傾向に。つまり、年々出生率が低下し、人口ピラミッドの底辺が狭まる傾向にある。そんな中、15-19歳の女性の平均出産率、特に1990年代のそれが、低下傾向にある他の年代の出産率とは異なり、上昇傾向にあるというもの。そして、この青少年期の出産率の高さは、ブラジルの貧困問題と深く関連しており、若年出産の女性を社会経済的に不利な状況に追い込んでいるというもの。

このテーマ自体は、私自身の研究テーマとはほとんど関連するものではなかったが、ブラジル社会の現状を知る上で、非常に有意義だったと思う。ポルトガル語でのプレゼンの勉強にもなったし。ただ、これまたブラジル的かも、と思ったのは、学会とかならまだしも、大学院のゼミでのプレゼンなのに、発表者はみ~んな様々な工夫を凝らしたパワーポイントを使ってプレゼンを行うということ。要は、5月の現地報告「 今月の独り言 」でも書いたように、ブラジルの人はやっぱり“見かけが大事!”なのかなぁと。ただ単にPower Pointを使うのではなく、アニメーション機能を使って、矢印やらグラフやらが(派手に?)登場したりする。私も負けじに!と思ったが、プレゼン自体の準備が精一杯でアニメーションまでは手が回らず・・・。それでも招き猫や達磨などのデザインを使ったら、結構好評を博したりして(笑)。

この(華やかな?)プレゼン方法について、私の指導教官に聞いてみたところ「Power Pointを使えばペーパー・レスで、森林資源の省エネになるじゃないか。日本は紙でプレゼンしてるから、アジアの森林を破壊してるんじゃないの?」とのこと。う~ん、確かに一理あり、と思わず納得。多少手間隙がかかっても、ペーパー・レスなプレゼンの方が確かに環境にやさしいはず。ただ、こうも環境重視の発言をされると「アマゾンの森林破壊をしてるのは一体誰?」と、聞き返したくなったのは私だけであろうか・・・。

今月のブラジル 経済

8月の貿易収支は、就業日が23日間と多かったこともあり、輸出額が2ヶ月連続でU$110億を突破し、過去最高のU$113.48億(前月比2.6%、前年同月比25.3%増)となった。輸入額も初めてU$70億を超え、過去最高のU$76.76億(前月比26.9%、前年同月比36.5%増)を記録した。この結果、貿易収支の黒字額はU$36.72億となり、前月比▲26.7%の減少、前年同月比6.9%の増加となった。しかし、この貿易黒字額も8月としては過去最高であるとともに、今年3月以降U$30億を維持しており、ブラジルの経済の好調さを表すものとなった。

また、2005年第2四半期のGDP(暫定値)が発表され、前期比1.4%、前年同期比3.9%、過去1年間では4.3%となり、低調だった第1四半期に比べ高い伸びとなった。この要因としては、前期マイナスだった固定資本形成が▲3.6%→4.5%と投資が大幅に増加したこと、家計消費支出も▲0.2%→0.9%とプラスに転じたこと、政府消費支出も前期比0.3%→1.1%と増加したことが挙げられる(グラフ1)。部門別では、特に前期マイナスだった工業(前期比3.0%、前年同期比5.5%)が好調で、農業(同1.1%、3.2%)とサービス(同1.2%、2.5%)を牽引するかたちとなった(グラフ2)。

グラフ1 四半期GDPの内訳別推移

グラフ1 四半期GDPの内訳別推移
(出所)IBGE

グラフ2 四半期GDPの部門別推移

グラフ2 四半期GDPの部門別推移
(出所)IBGE

更に、2005年上半期のGDP(暫定値)も発表され、前年同期比で3.4%の伸びとなり、ブラジル経済の好調さを裏付けるものとなった(グラフ4)。主に固定資本形成が7.5%→3.1%と投資が減少したことが影響し、昨年の数値4.6%には及ばなかったものの、輸出入の好調さに加え、家計消費支出が2.9%→3.1%と個人消費が堅調であり、政府消費支出が▲0.3%→2.1%へとプラスに転じたことから、良好な数値となった。また、各部門の数値は工業4.4%、農業2.9%、サービス2.9%の増加であり、工業部門が現在の経済成長の中心となっていることがわかる。中でも、鉱物採掘業の伸びが10.6%(前年同期は2.1%増)と突出しており、石油や鉄鉱石関連の産業が非常に好調であることが伺える。

グラフ3 GDP半期ごとの推移

グラフ3 GDP半期ごとの推移
(出所)IBGE

先月末に政治危機不安を反映し一時ドル高レアル安に振れた為替相場は、今月の前半は好調な貿易収支や金利高の影響から再びドル安レアル高傾向が強まり、8月10日には2002年4月以来のU$1=R$2.27台に突入した。しかし、この時点で中銀が介入を行ったことからドルの下落に一応の歯止めがかかり、その後は政治危機の深刻化に伴い、徐々にドル高レアル安傾向へと触れた。ただし、月末に発表されたGDPが好調だったことなどもあり、再びレアルが買われる流れとなった。

また、今月発表された7月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.25%となり、前月のマイナス値(▲0.02%)から再びプラス値に転じたが、昨年同月値の0.91%よりも低く、前月がマイナス値だった一昨年同月値の0.20%に次ぐ低い数値となった。この結果、年初からの累計値は昨年同月時点の4.42%を下回る3.42%となった。この要因として、電話料金をはじめ燃料の価格が上昇する一方、前月同様に主要な食料品価格が下落するとともに、公共料金が安定していたことが挙げられている。なお、Selic金利(短期金利誘導目標)は3ヶ月連続で今月も19.75%のまま据え置かれた。

政治

今月もまた、ブラジルの政治はPTを取り巻く汚職疑惑事件一色の月となった。現在までに、事態はPTによる政治的な支持取り付けの議員買収疑惑に留まらず、過去の選挙の際にPTが巨額の不正資金を使用していた可能性が明らかとなるまでにいたった。つまり、郵政公社に端を発した汚職疑惑が、政権党であるPT自体の存続の問題、そして更には、ルーラ大統領の弾劾裁判の可能性までもが取りざたされるところまで発展したのである。

このような事態の更なる悪化の引き金のひとつとなったのが、PT関連の広告代理業者Mendoncaによる告発である。Mendoncaは、PTが “Caixa dois” といわれる裏金口座の不正資金R$2500万(約U$1000万強)を、ルーラ大統領の選挙戦を含めた5つの選挙の際に使用していたことを認めた。しかも、この巨額の不正選挙資金はカリブのバハマなどにある海外の口座を経由しており、その出所を隠蔽するマネーロンダリングの可能性があるだけでなく、ブラジルの政党法で禁じられている海外から政治資金受領に触れる可能性も高まっている。また更に、この海外からの不正資金の出所についても、他国の干渉の可能性など様々な憶測が取りざたされている。

そして、このPTの裏金口座を通じた不正資金ルートは、現在までに連立与党の党首を含む多数の議員買収疑惑にも使われていたとされる。つまり、ブラジル現地のRural銀行やBMG銀行からの融資によるR$5500万(約U$2300万)もの巨額の不正資金が、PTの裏金口座と海外を経由することにより浄化され、出所が不明となった“きれいなおカネ”がValerioの会社を通じて月々の賄賂(mensalao)として各議員に支払われていたというものである。

また、これら大本であるPTの汚職疑惑との直接的なつながりは今のところないとされるものの、好調なブラジル経済の舵取り役であるPalocci大蔵大臣についに汚職疑惑が持ち上がった。この疑惑は主に、Palocci大蔵大臣がサンパウロ州のRibeirao Preto市の市長時代(1993-96年)に、同市のゴミ業者入札の際に月々R$50万(U$2万強)もの賄賂を受け取っていたというものである。現在のところPalocci大蔵大臣は、この疑惑に関する事実関係を否定している。

更に、2001年から2002年にかけ、サンパウロ州においてPTのSanto Andre 市Celso Daniel市長(当時)、Campinas市Antonio da Costa Santos市長(当時)が殺害され、他のPTの市長も脅迫に逢うという事件が起きており、これらの事件と今回の汚職疑惑事件との関連性がにわかに指摘されている。これら次から次へと続出する疑惑とその規模のあまりの大きさから、PTに対しては政党としての存続の危機さえ取りざたされるようになった。

このように日に日に悪化するPT及び政府の汚職疑惑に対し、今月16日、ブラジリアにおいて、学生、労組、農業労働者などによるルーラ大統領を支持するデモ集会が開催された。今回の汚職疑惑発覚後に同問題を焦点としたデモ集会が開催されるのは今回が初めてで、約1万人が参加したとされる。また、その一方で17日には反ルーラ大統領の抗議集会が開催され、同様に約1万人が参加した(警察の発表ではルーラ支持のデモ集会よりも参加者は多かったとされる)。更に、このようなルーラ政権に対する支持または抗議デモは、サンパウロやリオなどの他の主要都市でも行われた。このようにブラジルにおける政府の政治危機に関し、国民がデモ行動に訴えるまでに事態が発展したのは、1992年のコーロル元大統領弾劾の時以来であり、今回の抗議行動には政治危機に対する国民の関心の高さが表れているといえる。

この深まる一方の政治危機に直面し、ルーラ大統領が国民向けに、今回の汚職疑惑事件に関し大統領自らも裏切られた思いであり憤慨していると述べるとともに、謝罪の意を表明し、疑惑解明のための調査の徹底を約束した。しかし、一連の汚職疑惑に対する政府及び大統領への国民の不信感は高まっており、今月に入りルーラ政権の支持率は低下することとなった(グラフ4、5参照)。ルーラ政権及びルーラ大統領個人に対する評価は、汚職事件発覚後も先月までは大きな変化がなかったものの、今月に入り低下し、政権発足以降初めて不支持率が支持率を上回った。

ルーラ政権に対する評価が低下するとともに、ルーラ大統領の弾劾裁判の可能性、及び来年の大統領選挙での再選問題が浮上してきた。弾劾裁判に関しては、過去にブラジルがコーロル元大統領の弾劾裁判時に国際社会における政治経済的な信用を大きく損なったこと、また、もし弾劾裁判が成立してしまった場合、大統領就任第1順位のAlencar副大統領(PL)にも汚職疑惑が取りざたされていること、第2順位のCavalcanti(PP)下院議員議長は国民の人気が低いことなどから、実際にルーラ大統領の弾劾裁判が実現するという見方はあまりされていない。しかし、汚職疑惑事件勃発前まではルーラ大統領の再選が確実視されていた来年の大統領選挙に関しては、事態は混沌としてきたといえよう。国民のルーラ離れが顕著になってきているだけでなく、PTの中にもルーラを来年の大統領候補に指名すべきではないという動きが見られている。このことに対してルーラ大統領本人は、来年の大統領選挙に関する話をするのは時期尚早であり、今は政治危機を乗り越えることに全力を注ぐことが先決であると述べている。

また、マスコミにおいても、PT及びルーラ政権に対して批判的な報道が多くなってきている。テレビでは、あからさまにPTとルーラ政権を攻撃するような宣伝が頻繁に放送されている。報道の公共性や政治的中立性という点から考えると日本では考えられないことである。今回の一連の汚職事件を暴露し、糾弾してきたのがマスコミであり、その功績は評価に値するが、このような扇動的に政権を中傷するようなブラジルのマスコミの態度には疑問を抱かざるを得ない。今回と同様に、ブラジルでは過去にも選挙などの際にマスコミが政治的な世論形成に多大な影響を及ぼしてきた。そして、この多大な影響力を持つマスコミを巧みに操作してきたのが一部の権力エリート層だと言われている。しかも、この一部の権力エリート層とは国内だけにとどまらず、海外の権力構造とも深い関係を持つとされている。今回のブラジルの政治危機とマスコミの報道姿勢を見る限り、ブラジルにおけるマスコミと権力エリート層との癒着関係が依然として存在している可能性が高いことが伺える。

グラフ4 ルーラ政権に対する評価の推移

グラフ4 ルーラ政権に対する評価の推移
(出所)IBOPE
(注)2005年6月以前は3ヶ月、それ以降は1ヵ月毎の数値。

グラフ5 ルーラ大統領に対する評価の推移

グラフ5 ルーラ大統領に対する評価の推移
(出所)IBOPE
(注)2005年6月以前は3ヶ月、それ以降は1ヵ月毎の数値。
社会

今月8日、セアラ州の州都フォルタレーザにあるブラジル中央銀行の支店から、約R$1億6470万(約US$6900万強)もの大金が盗まれる事件が発生した。この盗難額はブラジル史上最高額であるのに加え、窃盗団は中央銀行支店まで約78mものトンネルを掘り金庫の中へ進入するという、まるで映画のような事件が起きた。事件発生後、ミナスジェライス州などで犯人の一味が捕まり、盗難金の一部(ただし合計額のわずか3%にあたるR$500万のみ)が発見されたものの、依然として犯人グループのうちの4人は逃走中で、残りの盗難金は見つかっていない。

また、今月24日、リオのコパカバーナ地区に住む80歳のお年寄りの女性が、自分のアパートに隣接するファヴェーラで行われていた麻薬や武器の密売と使用の現場を撮影したビデオを警察に持ち込んだことから、警官2名を含む15名もの麻薬関係者が逮捕された。このお年寄りの女性は、以前から自宅のすぐ隣のファヴェーラで起きる犯罪騒動に悩まされており、警察に訴えても聞き入れてもらえず、犯罪者に直接抗議を行うたびに危険な目に遭っていた。そこで、分割払いでビデオ撮影機を購入し、窓の隙間やカーテンに開けた穴から犯罪現場を撮影していたというもの。さすがの警察もここまでの物的証拠を突きつけられたことからついに重い腰を上げ、ファヴェーラの掃討作戦を実施するにいたった。現在、この女性は実名を伏せ、政府の管理の下に別の安全な場所に移り住んでいるとのこと。

今月の独り言— リオの平和で普通の日常

前項の社会欄でも書いたように、残念ながら、リオの“治安の悪さ”は日本だけでなく、ブラジルの中でも有名。実際、毎日のようにリオのどこかで発砲や殺人、窃盗などの事件が起きている。何でも、観光シーズンである昨年12月中のリオ市内の強盗事件総数は8,866件。1日平均、何と286件!にも上っているとのこと(リオの治安情報の詳細に関しては、在リオ日本総領事館サイト( http://www.rio.br.emb-japan.go.jp/nihongo/ をご参照)。そんなリオに住み始めて半年が過ぎた私も、今まで身の危険を感じることはなかったものの、ビーチで置き引きにあってしまった(私の不注意と言えばそれまでだが・・・)。

このように決して安全とはいえないのが、リオの現実。でも、市内だけでも約600万人もの人々が毎日、日々の生活を送っているこの街には、もちろん人々の“平和~な”営みがあるのも、これまたリオの現実。そんな“平和~な”リオを感じたのが、今月15日のグロリア教会へのお参り。

毎年8月15日はリオのグロリア教会の“Dia de Nossa Senhora da Gloria(聖母グロリアの日)”のお祭り。グロリア教会はリオのセントロ(中心街)にほど近い、海に面した小高い丘に建てられた由緒ある教会(建立は1714年に開始されたとか)。8月15日という日付がたまたま日本のお盆&終戦記念日と重なっていることから、日系人の友人に誘われ、グロリア教会にお参りに行くことに(宗教ごっちゃ交ぜで、信心深いといえるかどうか微妙だが・・・(汗))。

私が教会を訪れたのは土曜日の夜。リオの夜空に明るく照らされた外観美しい教会では、多くの人が参列する中ミサが行われ、夜店が開かれた教会周辺では家族連れなどの人々が楽しそうに週末の夜を過ごし。これってまさに、まるで日本のお盆の夏祭りを連想させるような“平和~な”光景。しかも、教会のある丘からはリオの美しい夜景が一面に見渡すことができ。

今頃日本は夏祭りシーズン真っ盛り。時と場所、宗教が変わっても、こういう“平和~な”時間や空間って万国共通なんだなぁと、ひとり考えにふけってみたり。そして更に、この万国共通な平和さが危な~いリオの街にも、もちろん“普通の日常”として存在するんだよなぁと、やはりまた考えにふけってみたり。

リオの人々の“平和で普通の日常”を垣間見れたとともに、自分もリオの一住民に少し近づけたような、そんな気がした一日であった。



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