インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析

調査研究報告書

東方 孝之 編

2018年3月発行

表紙 / 目次(300KB)

第1章

本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告である。この章では2010年人口センサスおよび2011年行政村センサス(Podes)の情報を用いて、インドネシアの都市圏の特徴をまとめている。まず、インドネシア統計庁(BPS)の定義による都市データと、本研究会で用いている人口集積に注目した都市圏データとの差異を確認した上で、都市圏がジャワ島に集中していることや、他方で、ジャワ島外の都市圏は数、規模ともに小さくなるものの、平均教育年数でみるならばジャワ島の都市圏を上回る傾向がある、といった特徴を紹介する。また、日本や米国との比較からは、三大都市圏への人口集中という日本と共通した傾向が見いだされるものの、人口規模と順位の関係(Zipf’s Law)の比較からは、日本や米国とは異なり、大規模な都市圏への人口集積が過大となっている可能性を指摘する。次に、人口集積の負の側面を探るべく、2011年行政村センサスの情報と組み合わせて、過去1年間の環境汚染(水質汚染ならびに大気汚染)の状況を確認した上で、最後にこの中間報告書全体の内容を紹介する。

第2章

本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告書である。本研究会は,インドネシアの最小の行政単位であるDesa/Kelurahan(以下,行政村と呼ぶ)レベルの人口と面積データを用いて,都市の地理的な範囲,位置およびその強度を数値化・可視化するとともに,都市の拡大が企業の生産性,農村家計の所得,環境問題等に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。本稿はその中間報告として,行政村レベルのCO2排出量データベースの構築作業の成果および都市化と環境負荷問題に関する暫定的な分析結果を報告する。今回の分析結果に従えば,都市の拡大は都市人口一人当たりのCO2排出量を増大させる傾向にあった。

第3章

本章では、人口センサスおよび地図情報から構築したインドネシアの都市圏データを用いて、人的資本の外部効果を探るとともに、都市圏への移住者の特徴を整理する。まず、都市圏での人的資本の外部効果については、賃金情報を含む家計調査結果(Susenas)と都市圏データとを組み合わせて分析したところ、高卒以上の学歴を有する就業者の占める割合が高い都市圏ほど、中卒水準の就業者の賃金も高くなっているという相関関係が確認された。次に、2010年人口センサスを用いて、都市圏在住者の居住地が地方自治体(kabupaten/kota)レベルでみて5年前と異なる場合に移住者(転入者)と定義してデータをまとめたところ、2000年時点で平均教育水準が高かった都市圏ほど、10年後には転入者の都市圏人口に占める割合が大きくなっており、また、その平均教育年数・移動距離ともに大きく、さらに、(都市圏の労働者全体に占める)無業求職率が高い、という正の相関関係が確認された。なお、本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告であり、本稿で紹介する分析結果は暫定的なものである。

第4章

本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告である。この章では都市化におけるインフラ整備の重要性に鑑み、地方自治体レベルでのインフラ整備に地方分権制度の導入が及ぼした影響についての暫定的な分析結果を紹介する。アジア通貨危機発生後の1998年、インドネシアでは31年続いた中央集権的な開発独裁政権が崩壊して民主化が進んだ。その民主化の一環として地方分権制度の導入も急遽決定され、2001年に県市(kabupaten/kota)地方自治体に大きな権限が委譲されたが、本章では、同制度が導入される前の地域ごとの民族多様性の違いに注目し、この初期条件の違いが、地方分権制度の導入後に地域ごとのインフラ整備状況に及ぼした影響を探っている。この中間報告では、地方自治体レベルで、行政村(desa/kelurahan)の間をつなぐ主要道路がアスファルト舗装されている割合を計算し、1993年から2011年にかけてのその割合の変化をみているが、地方分権制度の実施後、もともと民族多様性が高かった地域ほど、アスファルト舗装率が相対的に低くなっていた可能性が高いことを紹介する。