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資源・環境政策に関わる行政組織の形成過程

調査研究報告書

寺尾忠能

2017年3月発行

表紙 / 目次  (183KB)

第1章

本論では、中国における環境汚染による健康影響に対する政策形成過程について、比較的初期の過程について検討した。ここで「初期」とは、政策対応の初動から現在行われている政策対応に至る一連の政策発展の過程の中で相対的に初期の段階に相当する時期を指す。具体的には,中国で環境汚染への政策対応が始動し,かつ環境汚染による健康被害が報告されている1970年代初めから,環境汚染への政策対応の組織・制度的基盤の形成が本格化する1980年代にかけての期間を対象とし,中央の環境行政,水利行政,衛生行政等の関連資料及び関係者の著作・発言を参照した。それら資料から,環境汚染による健康影響に関する記述に注目し,その記述が指し示す政策対応の内容や含意について,中国における環境汚染対策の発展過程の文脈からの検討(環境政策史的アプローチ)と日本における公害健康被害対応についての知見からの検討(比較環境政策的アプローチ)を重ねることによって明らかにしていくことを試みた。その結果,中国では環境政策を始動した初期段階にあたる1970年代から1980年代前半にかけて,各地で人々が深刻な環境汚染による健康被害・リスクに直面していたのを受けて,衛生部を中心にモニタリング,基準策定,開発事業の事前評価,健康影響の調査研究を始めていたこと,しかも人々の健康を守ることの必要性は認められ,また先進諸国の歩んだ「先に汚染し,あとで処理をする」という同じ過ちをたどらないことが謳われていたことが明らかになった。しかしながら、発展途上国としての中国の当時の経済・技術的なフィージビリティを重視することで、結果として人々の健康を犠牲にした経済成長システムの作動につながっていったのではないかと指摘した。

第2章

1934年の魚類・野生生物調整法(FWCA)は、ダム建設事業等に係る意思決定過程で、魚類や野生生物の保全への配慮が確保されるよう求めた、「先駆的(forward-looking)」な立法として知られている。本章では、法律の制定背景を調査し、同法がニューディールの施策として突然に現れたわけではなく、過去にモデル的な制定法が存在したことや、魚類や野生生物を保全することへの社会的な意識・需要の高まりがあったこと等を明らかにした。また、法律の条文を分析し、開発官庁に対する資源保全配慮義務として定められたのは省庁間協議要件のみであり、その適用条件も厳格なものであったこと等をも確認したものである。このような事情が存在するがゆえに、1934年のFWCAについては、「先駆的」との形容がなされる一方で、「歯抜け(toothless)」とも酷評され、その後の法改正による強化が不可欠であったという実状が浮かび上がってきた。

第3章

「適者生存 (survival of the fittest)」は、言葉こそ使われなくなったものの、競争に基づく現代の自由主義社会を暗黙のうちにけん引する規範になっている。元来、規範的な含意を伴っていなかった生物世界での概念が、ひとたび人間社会に適用されるようになると、生き残っている者は何らかの意味で優れているという規範に転化する。しかし、難民や環境問題の形で表出する格差と社会不安は、自由競争を勝ち残った者だけでなく、資本主義社会の存続そのものの基盤を脅かし始めた。いま必要なのは、競争や適者生存とは異なる社会秩序のための思想である。筆者は、「相互依存 (inter-dependency)」の概念に着目し、協力とも自立とも異なる社会秩序の規準として提起してみたい。具体的には、ダーウィン以来の相互依存論の系譜をたどると同時に、共生など類似概念との相違を検討し、その特徴を浮き彫りにする。

第4章

水質保全、大気保全と並んで、廃棄物管理は環境政策の早い段階から対策に取り組まれる。台湾では、初めての中央政府レベルの環境法として1974年に水汚染防治法が制定された際、ほぼ並行して廃棄物清理法が制定され、続いて1975年に空気汚染防制法が制定されている。台湾の廃棄物管理政策の形成過程を、初期の一般廃棄物と事業廃棄物の管理を中心に概観する。そして1974年の「廃棄物清理法」の形成過程について検討し、水汚染防治法、空気汚染防制法との比較を試みる。

第1節では台湾の廃棄物管理政策の形成過程を、初期の一般廃棄物と事業廃棄物の管理を中心に概観する。第2節では、廃棄物清理法の制定とその後の改正、制定時の問題点等を説明する。第3節では、1974年の廃棄物清理法の立法過程でどのような議論があったのかを、立法院議事録等を用いて明らかにする。第4節では、廃棄物清除法の立法過程を、同時期に成立した1974年水汚染防治法、1975年空気汚染防制法と比較し、特徴を明らかにする。さらに、初期の環境法制定時の問題点を浮かび上がらせる。

第5章

「開発と環境」とは、経済開発の過程における環境問題の発生、環境政策の形成、それらの展開を、社会科学的枠組みを用いて分析し、問題点を明らかにし、社会変動と政策対応の方向性を示すための研究分野である。本稿では、「開発と環境」の分析枠組みを検討する準備として、「初期」環境政策の形成過程に関わるいくつかの論点を取り上げ、若干の考察を試みる。後発国の環境政策の形成過程に関わる「環境ガバナンス論」、「参加と社会的合意形成」、「後発性」、「初期の形成過程」といった論点のいくつかについて、歴史的な視点から環境政策を分析した先行研究を紹介しながら再検討する。第1節では、日本の環境政策を歴史的視点から分析した、公害史、環境社会学、環境政治学、環境法学等の先行研究を取り上げ、初期環境政策の形成過程がどのようにあつかわれているかを検討する。第2節では、「後発の公共政策」という環境政策の特徴が、その形成過程の初期でどのような問題をもたらすかを中心に、初期の政策形成過程の問題を検討する。第3節では、「後発性」に加えて、経路依存性等の要因が初期の政策形成に与える影響を検討する。第4節では、特に先進国と後発国の初期の政策形成過程の初期条件として重要な、政治体制を取り上げ、その違いが政策形成過程に与える影響を検討する。