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アジ研ポリシー・ブリーフ

No.292 Pre-COP31の成果と限界―太平洋島嶼国の要求とCOP31への課題

鄭 方婷、山田 浩成、中村 敏久

2026年10月27日発行

PDF (487KB)

  • Pre-COP31では、太平洋島嶼国が気候変動を国家存続に関わる問題として訴え、気候資金や気候正義などの課題を国際社会に提起した。
  • 政治宣言の採択や太平洋レジリエンス基金への追加拠出が実現した一方、主要排出国の対応や資金支援の実効性には課題が残る。
  • COP31では、排出削減の強化、気候資金へのアクセス改善、再生可能エネルギーへの移行が具体的に進展するかが焦点となる。

2026年10月5~8日、フィジーとツバルで国連気候変動枠組条約第31回締約国会議(COP31)の閣僚級準備会合(Pre-COP31)が開催された(写真1)。会合は、気候変動を環境問題にとどまらず、太平洋島嶼国の国家存続、海洋安全保障、人間の安全保障に関わる課題として国際社会に訴える機会となった。ただし、こうした政治的関心が温室効果ガスの排出削減や資金支援の具体化につながるかは不透明である。

主な成果と評価

第一に、10月6日に採択された「Taku Pakasoa Declaration(団結の宣言)」では、1.5℃目標の維持、気候資金へのアクセス改善、海洋と気候変動の連関が強調された。島嶼国が国際交渉の議題設定に影響力を示した点は成果といえる。

第二に、太平洋レジリエンス基金(Pacific Resilience Fund: PRF)への追加拠出が表明され、地域主導の適応支援が前進した。ただし、資金規模は目標に届かない。アジア開発銀行(ADB)の神田眞人総裁によれば、太平洋地域における近年の気候変動適応資金は、今後見込まれる年間資金需要の約26%にとどまっている。

第三に、島嶼国の危機を直接訴える機会となった半面、主要排出国の首脳級参加は限定的だった。政治宣言は交渉合意とは異なり、今回の結果は「議題設定の前進と実施の不確実性」と捉えられる。

本会合では、太平洋島嶼国が気候変動を国家存続に関わる安全保障上の脅威として訴えた点も重要である。とりわけ、海面上昇による領土や排他的経済水域への影響、住民移転に伴う文化的アイデンティティの喪失など、従来の排出削減交渉では十分に扱われてこなかった問題が明らかとなった。一方、こうした問題への国際的な関心の高まりを、具体的な制度整備や財政支援にどう結びつけるかが今後の課題となる。

写真1 Pre-COP31開会式

写真1 Pre-COP31開会式

(出所)2026年10月5日、フィジー・ナンディにて鄭方婷撮影。
太平洋島嶼国の要求と主要な争点

島嶼国の要求は、①1.5℃目標の維持と排出削減の加速、②無償資金を中心とする気候資金の拡充、③損失と損害への対応、④海洋生態系と海洋権益の保護、⑤地域社会を中心とする再生可能エネルギーへの公正な移行に集約される。

これらの要求の背景には、気候変動の原因に対する責任と被害の不均衡を問う「気候正義」の視点がある。排出量の少ない島嶼国が海面上昇や生活基盤の喪失に直面する一方、主要排出国の対策は十分とはいえない。また、豪州が気候外交を推進しながら化石燃料開発を継続していることは、経済的利益やエネルギー安全保障の確保と、気候変動対策との間にある政策上の矛盾を浮き彫りにしている。資金面でも、国際的な拠出への合意が地域社会への支援に直結するとは限らない。申請手続きや行政能力の制約が、資金の利用を妨げるためである。

国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見が持つ意義

気候正義をめぐる議論では、国際司法裁判所(International Court of Justice: ICJ)の気候変動に関する2025年7月23日勧告的意見が背景をなす。同意見は、気候変動対策における各国の義務を明確化したものであり、Pre-COP31においても注目を集めていた。背景には、太平洋島嶼国の学生運動(Pacific Islands Students Fighting Climate Change)を発端に、バヌアツ政府の主導で国連総会決議が採択され、ICJへの諮問が実現した経緯がある。同意見に法的拘束力はないものの、太平洋島嶼国の閣僚や交渉担当者から「排出国等に対する『援助のお願い』が、『法的な根拠のある請求』に変化した」という認識を示す発言があった。歴史的、法的意義を確認する発言が相次いだが、同意見をいかに援助枠組みや施策に組み込むか、また交渉をいかに展開するかについては議論が深まらなかった。太平洋島嶼国側でもICJ勧告的意見を踏まえた交渉や行動に向けた検討に着手して間もないと窺われる。

気候資金へのアクセス(Access to Climate Finance)

Pre-COP31では、資金総額に加え、島嶼国が必要な資金を迅速に利用できるかが議論された。気候変動対策は将来的な損失の回避や便益の創出につながる投資との認識も示されるなか、申請・報告手続きの簡素化、迅速な資金拠出、小規模無償資金の拡充、地域機関による直接アクセスなどが改善策として挙げられた。

その背景として、国家計画や優先課題を尊重した柔軟な資金拠出を求める受益国からの声がある。また、コミュニティや現地NGOの資金への直接アクセスを妨げる複雑な手続きへの問題意識も共有された。ただし、行政能力の制約に加え、手続きの簡素化・資金使途の柔軟性と透明性・説明責任の両立が課題となる。

また、太平洋島嶼国間でも、地理的条件や経済構造によって優先課題は異なる。ツバルやキリバスなどの低平な環礁国では、海面上昇と国家存続が喫緊の課題となる一方、フィジーなどでは災害対応、地域社会の移転、インフラ整備が重視される。こうした多様性を踏まえ、各国・地域の実情に応じた支援のあり方が重要となる。

COP31への課題と日本への示唆

11月にトルコ・アンタルヤで開催されるCOP31では、三点に注目する。第一に、主要排出国が1.5℃目標に整合する排出削減策を示すか。第二に、気候資金の増額とアクセス改善が進むか。第三に、化石燃料からの移行と再エネ導入で、進展がみられるかである。

日本はこれまで、太平洋島嶼国で防災インフラ整備や技術協力などを展開してきた。PRFへの拠出、地域主導の適応事業、海洋観測、人材育成の強化は今後の協力課題となる。その際、島嶼国の政策的自律性を尊重し、各国の実情や優先課題を踏まえた協力が重要となる。また、ODAと連携した防災・適応分野では、日本企業の技術やノウハウを活用し、島嶼国のニーズに即した事業展開の余地がある。

さらに、防災、エネルギー、海洋保全、開発協力を横断する取り組みが、地域社会の生活改善や適応力向上に及ぼす効果が評価軸となる。資金投入額や事業件数に加え、住民の意思決定への参加や行政・地域社会の実施能力への影響も、協力の実効性を検討する上で重要である。

Pre-COP31は、島嶼国の発信力と議題設定への影響力を示した。その成果が資金配分、国際ルールの形成、地域社会での政策実施につながるかが、COP31以降の検証課題となる。

参考資料
  1. UNFCCC, Pre-COP 31--The Taku Pakasoa Declaration: Strength in Unity, October 8,2026.
  2. ADB, ADB President Joins Pre-COP31, Calls for Faster Resilience Finance, October 7, 2026.
  3. 西村智朗「気候変動にかかるICJ勧告的意見の評価」国際問題 No.731(2026年6月), 50-59頁。

(ちぇん ふぁんてぃん、やまだ こうせい/新領域研究センター;なかむら としひさ/研究推進部 研究事業開発課)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

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