レポート・報告書
アジ研ポリシー・ブリーフ
No.257 トランプ2.0の影響:韓国の対米輸出
早川 和伸、白 映旻
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- 対米総輸出の3割弱を占める自動車では、追加関税賦課後に対米輸出が統計的に有意に減少しており、韓国の対米総輸出全体に大きな負の影響を及ぼしている。
- 対米輸出の2割弱を占める追加関税対象外品目では、AI半導体関連製品に対する需要拡大を背景に対米輸出が大幅に増加しており、自動車輸出の減少による影響を一定程度相殺している。
トランプ第1次政権(Trump 1.0)における追加関税は、中国を主たる対象とした限定的な措置であったのに対し、トランプ第2次政権(Trump 2.0)下では、関税引き上げの対象が大幅に拡大し、ほぼ全ての国に及んでいる。関税措置が全面化するなかで、米国市場への依存度が高い国ほど、その影響はより大きくなると考えられる。
本ポリシー・ブリーフでは、Trump 2.0の関税政策が韓国の対米輸出に与えた影響について、実証分析の結果を紹介する。韓国は主要な対米輸出国の一つであり、2024年の米国の国別輸入額では第6位を占めていることから、米国の関税政策の影響を受けやすい国である。韓国側から見ても、2024年の国別輸出において米国向けは総輸出額の19%を占めており、中国向け(20%)に次ぐ重要な輸出先となっている。このため、対米輸出の変化は韓国経済に大きな影響を及ぼしうる。さらに、韓国は産業構造が日本と類似していることから、その経験を分析することは、日本への政策的示唆を得るうえでも有益である。
分析対象
分析には、2023年1月から2025年12月までの月次貿易データを用いる。米国の追加関税の適用状況に基づき、全品目を11の品目グループに分類して分析を行う。具体的には、「自動車」「自動車部品」「トラック」「銅」「鉄鋼(既存)」「鉄鋼(新規)」「鉄鋼(変更)」「木材」「その他課税品」「除外品目」「除外品目(変更)」である。これら各品目グループの定義および関税措置の詳細については、「アジ研ポリシー・ブリーフ No.251」を参照されたい。
表1.2024年における韓国の品目グループ別、対米輸出額シェア(%)
出所)Global Trade Atlasを用いて、筆者らによる計算
表1に示すように、11の品目グループのうち、2024年時点で韓国の対米輸出額が最も大きいのは自動車であり、対米総輸出額の27%を占めている。これに続いて、その他課税品(プラスチック製品等)および除外品目(半導体関連製品等)がそれぞれ2割弱を占め、木材と自動車部品が1割強で続く。以上の5つの品目グループで、韓国の対米総輸出額の約9割を占めていることから、本分析では主としてこれらの品目グループに対する影響に焦点を当てる。
実証分析の結果
実証分析では、2025年の各月を表す月次ダミーと対米輸出ダミーを組み合わせた、イベントスタディ型の重力方程式を推定している。為替レートの変化などが米国向け輸出に与える影響が除去されており、また米国以外の国に輸出先を多様化しようとする行動の影響も制御されている。
以下では、推定結果に基づき、米国の追加関税が韓国の対米輸出に与えた影響について、前節で示した主要品目グループ別に説明する。図1は、各品目グループに関する点推定値を示している。
図1.2025年の月別の影響:点推定値(%)
出所)筆者らによる推定
- 「自動車」では、2025年4月3日に25%の追加関税が課された後、対米輸出は統計的に有意に減少している。その後も年後半にかけて低調な水準が続くが、11月以降には減少幅の縮小が確認される。これは、米韓間で締結された「戦略的投資に関する覚書」に基づき、11月1日を起点として自動車関税が15%へ引き下げられたことで、関税による下押し効果が緩和された可能性を示唆している。
- 「自動車部品」では、2025年5月3日に25%の追加関税が課された後、対米輸出は減少しているものの、その変化は統計的に有意ではない。一方、関税賦課前の1月から4月にかけては、対米輸出が有意に増加しており、追加関税を見越した駆け込み輸出が生じていた可能性がある。
- 「木材」では、追加関税が課される前の2月から8月にかけて対米輸出が増加しており、駆け込み輸出が生じていた可能性が高い。特に6月には300%を超える大幅な増加が確認される。2025年10月に追加関税が課された後、対米輸出は一時的に減少するものの、その影響は持続せず、年末にかけて再び増加に転じている。
- 「その他課税品」では、4月のベースライン関税賦課後および8月の相互関税発動後に輸出の減少が確認されるものの、その影響はいずれも一時的である。全体として、対米輸出の減少幅は小幅にとどまっている。
- 「除外品目」では、追加関税の対象外であることから、従来の輸出競争力が維持され、対米輸出は月次でおおむね50%前後の増加を示している。これは、AI半導体に対する需要の高まりを背景に、メモリー半導体の輸出が拡大していることを反映していると考えられる。
結論
本ポリシー・ブリーフでは、Trump 2.0下における米国の追加関税が、韓国の対米輸出に与えた影響について分析結果を紹介した。とりわけ、対米総輸出の3割弱を占める自動車では、追加関税賦課後に対米輸出が統計的に有意に減少しており、韓国の対米総輸出全体に対して大きな負の影響を及ぼしていた。一方で、対米輸出の2割弱を占める追加関税の対象外品目では、AI半導体関連製品に対する需要拡大を背景に、対米輸出が大幅に増加しており、自動車輸出の減少による影響を一定程度相殺している。したがって、輸出先の多角化だけでなく、輸出品目の高度化・多様化を促進する産業政策の重要性が確認される。
(はやかわ かずのぶ/バンコク研究センター、べく よんみん/東京都立大学)
本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません
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