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アジ研ポリシー・ブリーフ

No.251 トランプ関税が対米輸出に与えた影響:2025年11月まで

2026年2月9日発行

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  • トランプ関税が課せられた後も、低所得国の対米輸出は、ほとんど減少していない。
  • 一部の製品グループでは、より高い追加関税が課されている中国を代替することで、低所得国の対米輸出はむしろ増加している。
  • これに対して、高所得国は多くの製品グループにおいて対米輸出を減少させている。

トランプ第2次政権(Trump 2.0)の発足以降、米国の関税政策は大きく転換した。Trump 1.0期の関税措置が主として中国や一部の国・品目に限定されていたのに対し、Trump 2.0では、ほぼすべての国を対象に、ほぼ全品目に関税引き上げが及ぶ点が大きな特徴である。本ポリシー・ブリーフでは、こうしたTrump 2.0下の関税措置が各国の対米輸出に与えた影響を整理・検討する。

分析対象

2023年1月から2025年11月までの月次データを用い、中国・香港、その他31カ国(以下、「その他諸国」)からの対米輸出の変化を検証する。これら31カ国には、日本を含む先進国のほか、ASEAN諸国、ラテン・アメリカ諸国、南アフリカなどの途上国、いわゆるグローバル・サウス諸国が含まれる(カナダ、メキシコは除く)。

以下では、2025年11月までに米国がその他諸国に対して課した追加関税の状況を整理する。

  • 3月12日:鉄鋼・アルミ製品に対する25%の追加関税。ただし、トランプ1.0時から追加関税が課せられていた「鉄鋼(既存)」と、今回初めて課せられた「鉄鋼(新規)」がある。
  • 4月3日:自動車に対する25%の追加関税(「自動車」)。
  • 4月5日:「その他課税品」に対する10%の追加関税(ベースライン関税)。
  • 5月3日:自動車部品に対する25%の追加関税(「自動車部品」)。
  • 6月:鉄鋼・アルミ製品に対する追加関税を50%まで引き上げ、また対象製品を拡大(「鉄鋼(変更)」)。
  • 8月1日:銅製品に対する50%の追加関税(「銅製品」)。
  • 8月7日:「その他課税品」に対して相互関税発動。
  • 8月18日:鉄鋼・アルミ関税の対象製品を拡大(「鉄鋼(変更)」)。
  • 9月5日:「その他課税品」の一部が追加関税対象から除外(「除外品目(変更)」)。
  • 10月14日:木材製品に対する10-25%の追加関税(「木材製品」)。
  • 11月1日:トラックに対する10-25%の追加関税(「トラック」)。
  • 11月13日:「その他課税品」の一部が追加関税対象から除外(「除外品目(変更)」)
その他諸国向けには、「その他課税品」にも該当せず、2025年11月時点において追加関税の対象となっていない品目が存在する。以下では、こうした品目を「除外品目」と呼ぶことにする。したがって、本分析では製品を次の11つの製品グループに分類する。すなわち、「鉄鋼(既存)」「鉄鋼(新規)」「鉄鋼(変更)」「自動車」「自動車部品」「トラック」「銅製品」「木材製品」「その他課税品」「除外品目」「除外品目(変更)」である。
米国による追加関税の影響:理論的考察

実証分析の結果を提示する前に、米国による追加関税が対米輸出に及ぼす影響を、三つの段階に分けて整理する。

第一段階は、追加関税が賦課される以前の時期である。この局面では、将来的な関税引き上げを見越し、関税回避を目的とした駆け込み輸出が発生する可能性がある。

第二段階は、ベースライン関税や品目別関税が賦課された後の時期である。この段階では、少なくとも三つの効果が同時に作用すると考えられる。第一に、関税引き上げに伴う標準的な負の効果であり、その大きさは需要の価格弾力性に依存する。第二に、中国には全品目を対象とした20%の追加関税(フェンタニル関税)が別途課されているため、中国に代わってその他諸国からの対米輸出が増加するという、正の貿易転換効果が生じ得る。第三に、より高い追加関税率である相互関税が将来的に導入されることを見越し、対米輸出を前倒しで拡大させる期待効果(正)である。

第三段階は、相互関税が実際に発動された後の時期である。この局面では、第二段階でみられた期待効果は消失する一方、関税引き上げによる負の効果および中国からの貿易転換効果は引き続き作用すると考えられる。さらに、相互関税は国別に異なるため、関税率の高い国から低い国へと対米輸出がシフトする、新たな貿易転換効果が生じる可能性がある。

以上のように、関税導入後の対米輸出に対する純効果は理論的に一義的ではなく、輸出が増加する可能性も否定できない。したがって、その最終的な純効果を明らかにするためには、実際のデータを用いた実証分析が不可欠である。

米国による追加関税の影響:実証分析の結果

実証分析では、2025年の各月を表す月次ダミーと対米輸出ダミーを組み合わせた、イベントスタディ型の重力方程式を推定している。この推定結果から、以下の6点が明らかになった。

  1. その他諸国の対米輸出は、追加関税の発動直後から、自動車、自動車部品、トラック、鉄鋼(既存)、木材製品において統計的に有意な減少を示した。とくに自動車およびトラック、木材で減少幅が大きく、これらの産業では需要の価格弾力性が相対的に高いことが一因であろう。
  2. その他諸国によるその他課税品の対米輸出では、ベースライン関税(10%)導入前に有意な駆け込み輸出が確認された。ベースライン関税の導入後、平年並みの水準に戻ったが、8月の相互関税導入後には、輸出が有意に減少している。とくに、相互関税率の高い国ほど対米輸出を縮小させている。
  3. 除外品目についても、その他諸国の対米輸出は、4月に免除対象が明らかになるまで有意な増加を示したが、4月以降は概ね平年並みの水準に戻っている。
  4. 中国の対米輸出は、追加関税の発動直後から、ほとんどの製品グループで有意に減少した。中国には全品目を対象とした20%の追加関税(フェンタニル関税)が課されているため、除外品目グループにおいても対米輸出が大きく減少している。
  5. その他諸国のうち、グローバル・サウス諸国を含む低所得国では、多くの製品グループで有意な対米輸出減少は確認されなかった。むしろ、鉄鋼(新規)や除外品目では有意な輸出増加が観察されている。これらの製品グループでは中国の対米輸出が大きく減少していることから、低所得国が中国の代替供給者として米国市場でシェアを拡大した可能性が高い。
  6. 高所得国では、多くの製品グループで有意な対米輸出減少が確認された。低所得国と比べて高所得国に対する負の影響が大きい背景には、高所得国の製品が品質面で米国製品と近く、米国市場において競争がより激しいことがあると考えられる。
結論と含意

Trump 2.0下の関税政策は、全体としては米国向け輸出を抑制する効果を持つ一方で、国や所得水準、品目によっては、中国からの貿易転換を通じた正の効果をもたらしている。したがって、11月10日に中国に対するフェンタニル関税が20%から10%へ引き下げられたことは、これまで低所得国に生じていた貿易転換効果を弱め、低所得国からの対米輸出が減少に転じる可能性がある。

はやかわ かずのぶ/バンコク研究センター)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

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