革命後のイランにおける特権企業の生成と変貌—モスタズアファーン財団を事例に—

中東レビュー

Volume 3

ケイワン・アブドリ 著
2016年3月発行
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概 要

はじめに
発展途上国における近代企業の発展とその構造は、体制側のイデオロギーと政策、また国家の権力構造に規定を受けるが、イランの場合とりわけその傾向が強かったといえる。イランでは西欧の経済的進出が進む19世紀後半に近代企業と呼ぶべきものが登場するものの、現地企業の発展がみられるようになるのは、国王によって「白色革命」と呼ばれる近代化政策が進められた1960年に至ってからである。その後、国王の開発独裁による発展が目指されたことで、オイルショックの影響も加わって高度経済成長の時代を経験した。

この時代、経済成長を担ったのは政府の強い支援を得た民間資本であり、とりわけ王政との関係が深い一部の企業は、繊維や食品、また自動車産業をコアに事業の多角化をはかり、「コングロマリット化」して急成長を遂げていった。1970年代半ばになると、これら企業は政府の政策に注文を付けることができるほど存在感を増し、政府もこれら企業の意向を無視できないほどに規模を拡大していった。しかし国王が独裁化を強めたことで、企業が政策に強い影響力を及ぼすには至らなかった。

1979年のイラン・イスラーム革命は、この国家と企業の関係を一変させた。革命政府は外国資本を国外へ退去させ、民間の大資本はほぼ例外なく没収され国有化された。その後、革命政権は混乱した移行期を経てイスラーム体制として基盤を固め、革命前の開発独裁に代る政治経済のシステムを確立させていったが、この過程で支配的地位を確立したのが国営企業であった。その一方で新たな政治エリート層を中心に企業家層も登場し、多くの利権を手に入れた。

革命前の資本家は一掃され、国営企業と政治的影響力をもつ民間の企業が成長をはじめたが、この時代をある意味でもっとも特徴づけているのは、多くの特権を付与された「特権複合企業」の出現と発展である。「モスタズアファーン財団」、「イマーム・レザー聖廟財団」、「ハータム・アル・アンビアー」等がそれであり、政府と特別な関係を築くことで特権を得て、急成長した。

これら企業は、強い権限をもつ最高指導者や「革命防衛隊」のような強力な政治力をもつ制度の支配下に置かれ、その分政策に一定の影響力を及ぼすことができた。また外国企業や民間企業がきわめてぜい弱な状況下で競争相手は国営企業しかなく、その政治力を背景にして「特権複合企業」は経済活動の規模を拡大し、市場支配率を高めた。ただこれら「特権複合企業」は政治との関係や経済活動の領域が一様ではなく、これまでそれぞれに固有の軌跡をたどって発展してきた。

本論では、イスラーム共和国体制下で生まれた特権コングロマリット(特権複合企業)がどのように形成され発展してきたのか、またイスラーム共和国体制下の権力構造が時代的に変容するなかで、彼らが体制とどのように関わり権益を守ってきたのかについて、最も規模の大きい「モスタズアファーン財団」に焦点を当てて明らかにする。

第一章では財団が抱える2つの問題、つまり政府との関係を制約している制度的問題と、この財団のもつ性格、「営利企業か慈善団体か」という複合的な性格が特徴づける政府との関係に焦点を当てる。また第二章では、特権複合企業としての財団の経営そのものに焦点を当て、統治の概要を示し、規模が拡大する中での経営戦略の変遷を検証する。