アジア経済

2016年12月 第57巻 第4号

開発途上国に関する和文機関誌—論文、研究ノート、資料、現地報告、書評等を掲載。

■ アジア経済 2016年12月 第57巻 第4号
投稿募集中
■ 2,200円(本体価格 2,000円)
■ B5判
■ 106pp
■ 2016年12月

CONTENTS
論 文

2-40pp.

研究ノート

41-65pp.

現地報告

66-84pp.

書 評

85-88pp.

89-92pp.

93-97pp.

98-102pp.

紹介

103p.

104p.

105-106pp.

要 旨

マニラにおける外貨獲得産業の転換と女性労働へのインパクト——BPO産業の影響を中心に—— / 太田麻希子

本研究ではマニラ首都圏とその周辺における外貨獲得産業と関連する女性労働に注目し,同部門の変容の下で首都圏の低所得層とその労働,世帯,居住形態がどのようなインパクトを被っているのかを行政統計を用いて考察した。低所得女性の雇用機会が郊外化する一方,近年のBPO産業の成長を背景に,都心部で従来の女性雇用とは異質のサービス労働が拡大している。このような雇用機会の空間的立地の変化にともない,所得階層の異なる女性の都市内移動の活発化と単身世帯の増加,低所得の女性の首都圏労働市場からの排除が進行しつつあることを論じた。

現代中国の行政改革の新動向——「大部制」改革の現状について—— / 渡辺直土

本論文では現代中国で展開されている行政改革のうち,その柱となる政府機構改革について,1980年代から30年あまりの推移を政治体制論の視点から包括的に分析することを目的とする。改革開放以降の1980年代前半期を定年制度の整備や臨時機構の削減などを中心とする第一段階,「党—政—企」同時分離を目指した80年代後半を第二段階,「政—企」分離,「党—政」不分離であった90年代から2000年代前半期を第三段階としたうえで,2000年代後半以降の「大部制(大部門制)」改革と呼ばれる改革を第四段階とし,その特徴を分析する。特に広東省の佛山市順徳区や深圳市を中心とした地方レベルでは「党政連動」や「政策の決定権,執行権,監督権の相互制約および相互協調」といった方針の下で,新たなモデルが創出されており,これらの改革がもつ意味を検討する。また,改革開放以降の行政改革が地方レベルで先行して開始され,中央レベルでの改革に接続したことを明らかにしたうえで,現在の地方レベルの改革が(1)党政関係の調整,(2)「正統性原理」へのある種の「権力分立」の編入という,政治体制変容の2つの「入口」に地方レベルにおいて到達したと結論づける。かつ,将来的な政治体制変容の萌芽となりうる可能性について考察する。

ベトナムにおける公的末端医療機関の制度的位置づけ・役割と課題——現場責任者の状況認識に関わる事例研究に基づく一考察—— / 寺本 実

本稿では,ベトナムの地方行政の末端レベルに位置し,住民にとってもっとも身近な医療機関のひとつである「社・坊・市鎮診療所(以下,社レベル診療所)」のベトナム医療における位置づけ・役割と課題について,政府文書,法文の読み解きとフィールド調査に基づいて考察した。前者のアプローチから,専門領域上の組織的位置づけとしては,社レベル診療所は予防医療,HIV/AIDS対策,結核などの社会病対策,出産に関わる健康保護,食品の衛生・安全,健康教育の宣伝を担う県レベル(末端地方行政単位の直接上に位置する行政レベル)の医療センターに属することが確認された。また後者のアプローチから,社レベル診療所の状況について考え,判断する際に留意すべき点として,(1)社レベル診療所と医療施設が整った最寄りの上級病院との間の物理的距離の問題,(2)当該診療所が持つ地理的条件,(3)社レベル診療所の活動に対する診療所側の認識と住民側の認識とのギャップが存在する可能性,の3点が示唆された。そして,調査を実施した社レベル診療所における具体的な職種,職員構成について検討するとともに,医療会計専門家の不在,医療インフラを考える際には医療活動に直接関わるものだけでなく,道の整備状況等,より広い射程で捉える必要があることなど,改善に向けた課題について指摘した。