アジア経済

2015年12月 第56巻 第4号

開発途上国に関する和文機関誌—論文、研究ノート、資料、現地報告、書評等を掲載。

■ アジア経済 2015年12月 第56巻 第4号
投稿募集中
■ 2,200円(本体価格 2,000円)
■ B5判
■ 150pp
■ 2015年12月

CONTENTS
論 文

2-27pp.

28-56pp.

57-87pp.

研究ノート

88-118pp.

書 評

119-122pp.

123-127pp.

128-131pp.

132-135pp.

136-139pp.

140-143pp.

英文要旨 (480KB)

144-147pp.

148-150pp.<br>

要 旨

イスラム銀行利用者による金融商品の利用動機と継続的取引の決定要因——ヨルダンの事例から—— / 上山 一 ・ 臼杵 悠

本研究の目的は,イスラム銀行利用者による金融商品の利用動機およびイスラム銀行との継続的取引を対象とし,2010年にヨルダンで実施された聞き取り調査から得られたデータを基に,その決定要因を検証することである。検証結果から,ヨルダンのイスラム銀行利用者は,イスラム銀行の代表的な金融商品の利用に際して宗教的な動機を重視し,意思決定を行っていることが明らかとなった。ただし,ムラーバハの利用者は,手続きの簡便性を重視し,意思決定を行っているとの結果も得られ,このことは,イスラム銀行の利用者が宗教的な動機のほかにもイスラム銀行を利用する動機をもっていることを示している。その一方,イスラム銀行と継続的に取引を行う利用者は,価格面での経済合理性よりも,むしろイスラム法的な適格性に対する評価を重視し,意思決定を行っているという,先行研究にはない新たな知見が得られた。

日本占領下の中国山西省における上水道建設 / 徳永 智

本稿は,近代都市経営に不可欠である上水道の建設が日本の中国占領地政策においてどのように実行されたかを,山西省の事例をもとに考察する。山西省における上水道の建設は,同地を支配する軍閥の閻錫山が計画していたが,着手に至る前に日中戦争が勃発し,中断を余儀なくされた。その後,1938年に北京で成立した親日派政権は,華北の諸都市に対する都市計画を立案し,上水道の建設も予定したが,実際に山西省で上水道の建設を主導したのは現地の日本軍であった。直接のきっかけは軍による水環境の調査で,この調査に参加していた古賀久治という人物の熱意が,閻錫山帰順工作の流れと合致して実現に至った。日中戦争の打開を図るという戦略上の要請と,山西省独自の低物価政策を財源とする機密費の存在が上水道建設を支えた。山西省における上水道建設は,市民の福利厚生だけが目的ではなかったが,建設された施設は結果として半世紀近くにわたり稼働し,市民への良水供給という役割を果たした。この点については中国側も一定の評価を与えている。

ブラジルにおける大豆生産と契約栽培——ルッカスドリオベルジ市の事例研究—— / 佐野聖香

ブラジルでは,世界の食料需要増加により,アグリビジネスによる垂直的統合がさまざまな作物で進展している。その代表例が大豆コンプレックスであり,大豆生産の主生産地域の中西部の大豆農家は契約栽培によって生産面で包摂されている。本稿では,中西部マットグロッソ州ルッカスドリオベルジ市を事例に,ブラジルの大豆生産における契約栽培が進展している要因を検討した。農家は,契約栽培に包摂されることによって,大豆価格や投入財価格のリスクの一部を軽減することにより収益の不確実性を減少させ,また運転資金や販売にかかわる費用を節約することが可能となっている。一方,企業においても,価格リスクの一部を負担することで,安定的な量および均一的な品質の大豆の確保が可能となっていることが明らかになった。さらに,中西部で契約栽培が普及しているのは,その地域の農業規模に対する公的農村融資制度が欠如しているためである。したがって,ブラジルをはじめとする新興諸国や開発途上国では,先進国に比して市場やそれを支える制度が十分に機能していないという各国の国内環境の問題に目を向けることも重要となってくる。

チリの生鮮果物輸出産業における生産構造の地域的特質とその制度的規定要因——北部産地コキンボ州の事例を中心に—— / 村瀬幸代

チリの輸出向けアグリビジネスを代表する事例である生鮮果物輸出産業においては,輸出企業—生産農家間の契約による垂直的調整と,輸出企業による土地所有を伴う垂直的統合とが共存している。本稿は,そういった産業構造におけるサブ・ナショナルなレベルでの地域差という観点から,生鮮輸出向け果樹栽培地域のなかでも特に企業による果樹園所有と垂直的統合が進んでいる北部の産地コキンボ州に焦点を当て,その産業構造を制度的要因から説明するものである。同州における果樹栽培拡大の初期条件は,条件不利地域であった同州に特有の土地所有制度として存続してきた農業共同体の存在と近代農業の担い手の不在によって特徴づけられ,そのことが輸出拡大過程のなかで企業による土地集積を容易にしてきたことが明らかにされる。