アジア経済

2015年6月 第56巻 第2号

開発途上国に関する和文機関誌—論文、研究ノート、資料、現地報告、書評等を掲載。

■ アジア経済 2015年6月 第56巻 第2号
投稿募集中
■ 2,200円(本体価格 2,000円)
■ B5判
■ 142pp
■ 2015年6月

CONTENTS
論 文

2-40pp.

41-71pp.

研究ノート

72-105pp.

書 評

106-109pp.

110-113pp.

114-116pp.

117-121pp.

122-125pp.

126-129pp.

130-133pp.

134-137pp.

紹 介

138pp.

英文要旨 (464KB)


要 旨
メコン広域開発協力をめぐる国際関係の重層的展開 / 青木まき

メコン地域では,1990年代からインフラ整備を中心に広域開発事業が行われてきた。多くの国が関心を寄せ相次いで開発枠組みを提唱した結果,メコン地域では現在複数の広域開発協力枠組みが重複しながら併存している。こうした状況を,先行研究は相互調整が不十分なまま関係国が利益を追求した帰結として説明してきた。その理解に基づき関係諸国の広域開発戦略を整理した文献も多いが,各国の地域外交分析に終始するものが多い。本稿はメコン広域開発をめぐる国際関係構造を俯瞰して重層的な協力枠組み成立の条件を探ることを目指し,視座として「ヘッジ戦略」概念を援用した。ヘッジ戦略とは,先行き不透明な国際環境の下でリスク回避のために本来相反する「包摂・関与」と「封じ込め・均衡」という2つの戦略を併用する外交行動を指す。本稿では,1990年代を通じ不透明な国際環境下にあったメコン地域で主に中小国が相互にヘッジ戦略を展開した結果,現在ある重層的な協力枠組みが構築されたという仮説に基づき,各国の地域枠組みの背景を探る。

マレーシア・パーム油産業の発展と資源利用型キャッチアップ工業化 / 小井川広志

パーム油産業は,マレーシアが世界屈指の国際競争力を有する産業である。1970年代以降,この産業は約40年にわたり世界生産および輸出シェアで首位を維持し,現在でもインドネシアに次いで世界第2位のシェアを堅持している。パーム油およびその関連産業は,マレーシア総輸出額の約7パーセント,GNIでも約8パーセントを占め,マレーシア経済に大きく貢献している。この産業は,初期には未精製のパーム原油を輸出する状態から出発したが,マレーシア政府の巧みな貿易政策,外資導入政策が奏功し,原材料供給国の地位から脱して関連産業の多角化,高付加価値化に成功した。パーム油生産に適した自然条件を効果的に活用し,外来の技術と資本を効果的に招き入れて産業発展に成功したという意味で,これはキャッチアップ工業化の成功例のひとつとして認識できる。本論文では,この産業発展の諸要因とメカニズムを検証し,資源利用型キャッチアップ工業化モデルとして定式化を試みる。

「華南銀行」の迷走と変容——金融的「南進」の理想と現実:1919~1945—— / 久末亮一

本稿は,1919年に日本植民地下の台北で,大正期における南進の理想を金融的に具現化するべく,日本と華僑の合弁によって創設された「華南銀行」の経営を考察する。そこからは大正から昭和において,ほぼ一貫して「南進」という文脈のなかで活動した特徴ある日系金融機関でありながらも,経済環境の悪化だけでなく,設立時からの構造的問題やずさんな経営内容によって長期間の迷走を続け,変容していった様相が浮かび上がる。具体的には,⑴1919年の創設から数年の拡張期,⑵経営不調から1924年と1927年に実施された第一次・第二次整理の内容,⑶1920年代末から南洋邦人事業向け融資に深入りする背景と顛末,⑷1930年代の第三次整理案が錯綜して迷走を続けたまま1940年代の終焉に向かった姿,などをたどる。