アジア経済

2014年12月 第55巻 第4号

開発途上国に関する和文機関誌—論文、研究ノート、資料、現地報告、書評等を掲載。

■ アジア経済 2014年12月 第55巻 第4号
投稿募集中
■ 2,200円(本体価格 2,000円)
■ B5判
■ 139pp
■ 2014年12月

CONTENTS
特 集  キャッチアップ再考

特集にあたって (706KB) / 佐藤幸人

2-7pp.

論 文

8-38pp.

39-63pp.

研究ノート

64-98pp.

書 評

99-102pp.

103-107pp.

108-111pp.

112-116pp.

117-121pp.

122-126pp.

127-130pp.

131-134pp.

英文要旨 (463KB)

『アジア経済』総目次 2014年 

——第55巻第1号~第4号——

要 旨
キャッチアップ型工業化論と鉄鋼業——「ガーシェンクロン vs. ハーシュマン」をめぐって—— / 佐藤 創

ガーシェンクロンは,鉄鋼業を例に挙げて技術的に最先端の部門から後発国の工業化が大発進する可能性を思い描き,ハーシュマンは,鉄鋼業に注力して工業化を始めようとするほど後発国は愚かではあるまいと考えた。彼らの議論からおよそ半世紀がたち,キャッチアップ型工業化論のなかで鉄鋼業については,韓国を念頭に最新鋭の技術を備え事業規模の大きい臨海型高炉一貫製法を導入する戦略の成功例に関心が集まってきた。少なくとも鉄鋼業に関する限りはガーシェンクロンに軍配を挙げるべきだろうか。本稿は,両者の見解の違いがどのように生じたかを掘り下げ,アジア諸国における鉄鋼業の発展プロセスを検討することを通じて,両者のアプローチが相補的であり,後発国の工業化を考える上で依然として重要でありうることを示す。

発展途上国のキャッチダウン型技術進捗 / 丸川知雄

発展途上国が国民経済レベルでのキャッチアップを実現するためには資本の蓄積と技術進歩が必要であるが,発展途上国で技術進歩が起きるということは,必ずしも産業ないし企業のレベルでも先進国の産業や企業に技術面で近づくことを意味しない。むしろ途上国の産業や企業が先進国の産業・企業とは異なる技術進歩の道を歩むことがその産業や企業の経済的成功をもたらし,途上国の経済成長に貢献することもある。本稿では,こうしたタイプの技術進歩をキャッチダウン型技術進歩と呼ぶ。これと似たアイデアは1970年代に中間技術や適正技術という言葉によって提案されていたが,そこでは先進国で生まれた技術を発展途上国の要素賦存,労働力の状況,産業のレベルなど生産側の条件に適応させる必要性が強調されていた。近年,中国やインドの企業が消費者の所得の低さ,固有の需要や社会環境など需要側の条件に適応した独特の技術を発展させる動きを見せ,商業的にも成功している。本稿では従来の中間技術・適正技術およびこうした技術進歩を合わせてキャッチダウン型技術進歩と呼び,発展途上国にとっての意義を考える。

2000年代以降の韓国の産業発展の深化——半導体・LCDの部材・製造装置産業の形成—— / 吉岡英美

1960年代後半以降,韓国は急速な経済発展を実現するとともに,産業構造の高度化を成し遂げ,先進工業国の到達した技術水準に相当程度追いつくことにも成功した。従来の議論では,主導的産業における開発能力の低さと部品・製造装置の輸入依存という点で,韓国の産業発展の経験は先進国のそれとは大きく異なるものとみなされた。だが,半導体・LCD産業に代表されるように,1990年代末以降,韓国でも開発能力を高めて技術革新を遂行する事例が現れるようになった。この点を踏まえて,本稿では,先進国への追いつき過程で確立された韓国の産業発展のあり方がどのように変化したかという問題を解明するため,半導体・LCDを事例に,その開発・生産活動を支える部材・製造装置産業の形成について分析することを課題とした。本稿の分析の結果,主導的産業の技術発展にともなって,韓国企業の台頭と日本企業の対韓投資によって部材・製造装置の形成が進み,産業発展のあり方が変化しつつあることが明らかになった。