資料紹介:国際的難民保護と負担分担――新たな難民政策の可能性を求めて――

アフリカレポート

No.56

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資料紹介:杉木 明子 著『国際的難民保護と負担分担――新たな難民政策の可能性を求めて――』

■ 資料紹介:杉木 明子 著『国際的難民保護と負担分担――新たな難民政策の可能性を求めて――』
佐藤 千鶴子
■ 『アフリカレポート』2018年 No.56、p.81
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シリア危機によるヨーロッパへの難民流入をきっかけに、国際社会では、難民問題に対してどのように対処すべきかという問題が改めて重要な課題となっている。そもそも国際的な難民の保護には、①迫害を受ける怖れのある国への送還を禁止するノン・ルフールマンと②保護に伴う負担(ないし責任)は国際社会の構成国が分担すべきであるという2つの原則がある。本書は、後者の負担分担原則がこれまでどのように実践されてきたのか、この原則はどれほど遵守されているのかについて、アフリカの難民受入国(ウガンダ、ケニア)と欧米の援助供与・難民受入国(デンマーク、カナダ)の事例をもとに明らかにしている。

負担分担には、難民受入れという形での物理的負担分担と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)への資金供出を通じた財政的負担分担があり、概ね前者は「南」の発展途上国、後者は「北」の国々が担っている。加えて、「南」の難民キャンプから「北」の国々へ移住する「第三国定住」が行われているが、その対象となるのはごく一部に過ぎない。多数の難民を受入れる「南」の国々は、難民発生国に隣接している場合が多く、国境封鎖などを通じて難民の流入を阻止するのは現実的に困難である。対して「北」の国々は、近年、UNHCRへの拠出金の使途を指定することが多く、大量に難民が発生した際の緊急援助には多くの金が集まるが、長期化した難民は忘れ去られ、彼らに係る経費は集まらないという問題がある。よって「南」と「北」の負担分担には、分担方法のみならず必然性の点でも違いがあり、長期滞留難民を抱える「南」の国々の負担は否応なしに高まってしまう。ゆえに著者は、国際的な負担分担を制度化する必要性を強く訴える。

「北」の国々の中には、UNHCRへの拠出金とは別に、「南」の国々に設けられた難民居住地の開発のために援助資金を使う国もあり、その例としてデンマークが本書で紹介されている。他方、ウガンダは、開発援助を利用して、難民受入れに伴う「負担」を難民居住地周辺の地域開発という「恩恵」に変えようとしてきた「南」の代表国である。このような援助に対しては、難民を「南」の国々に封じ込めるものであるとの批判も存在する。だが、難民問題と開発援助をリンクさせることで、国際的な負担分担の平等性を高め、「南」の難民受入国の負担感を減らすことが可能となる。理想論だけでは難民問題は解決しない。著者の明解な主張に賛同しつつも、難民問題の解決策を見つけることは本当に難しい、と改めて思わずにはいられない評者であった。

佐藤 千鶴子(さとう・ちづこ/アジア経済研究所)