資料紹介: 西アフリカ・サヘルの砂漠化に挑む ——ごみ活用による緑化と飢餓克服、紛争予防——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:大山 修一 著 『西アフリカ・サヘルの砂漠化に挑む ——ごみ活用による緑化と飢餓克服、紛争予防——』
■ 岸 真由美
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.32
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サハラ砂漠南縁の東西に広がるサヘル地域の国々は、人口増加と砂漠化による貧困や飢餓が大きな問題になっている。本書は、サヘル地域に属するニジェール共和国南部の農村に、15年にわたり住み込んで行った綿密な調査をまとめたものである。

全体の構成としては、まずニジェールの風土や民族、砂漠化が引き起こす干ばつや飢餓などの問題を概観し(第1章、第2章)、続いて、農耕民ハウサの価値観や雨季と乾季の暮らし、牧畜民フルベ、トゥアレグとの共生関係などを説明する(第3章~第6章)。そして、農村の土地荒廃改善のための「ごみ」を活用した住民たちの取り組みと、著者自身による都市ごみを用いた緑化の試みを検証し、土地荒廃が引き起こす農耕民と牧畜民との紛争を予防する策や、人口増加と都市化の進展がもたらす問題への対応のあり方を示唆する(第7章~第11章)。

本書で興味深かったことは、農村住民による「ごみ」を活用した土壌改良である。調査地の農村では10年間で住民数が約1.8倍(人口増加率は年率6.0%)と大きく増加、村周辺の農地が不足し、連作による土地荒廃も発生している。荒廃地修復のため住民たちが採っている対策は二つある。一つは、牧畜民と契約を結び、夜に家畜を畑で野営させ、その間に家畜が落とす糞で土壌に養分を補うこと。もう一つは、生活ごみを「肥やし」として土壌にまくことである。中には都市からごみを運んで散布する者もいる。著者も住民たちと協同で、都市ごみを搬入し緑地化を行う圃場実験で成果を出している。ごみに含まれる野菜くずや糠、料理の食べ残しなどが土壌に有機物を補うほかに、ビニール袋やぼろ布、鍋や皿など、一見、環境に悪影響のありそうなものも、飛んでくる砂を受け止め、土壌侵食を防止する役割を果たすという。もちろん、今後都市化と経済発展が進めばごみの内容物も変わり、環境汚染の危険性がありうることは著者も指摘するところだが、かつて江戸の住民の糞尿を周辺農村が肥料として利用していたのに似て、ごみ活用による緑化はサヘル地域では都市と農村の間の物質循環を作り出しているのである。

これまで評者は短絡的に砂漠化を植林と一括りで考えていたが、本書を読んで、そこに住む住民の考え、暮らしと実践を踏まえ、様々な角度から問題に向かう必要性があることに気づかされた。是非、読者の皆様にも本書を手にとっていただきたい。

岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)