資料紹介: 隣人が殺人者に変わる時 ——ルワンダ・ジェノサイド生存者たちの証言——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:ジャン・ハッツフェルド 著 ルワンダの学校を支援する会(服部 欧右)訳
■  岸 真由美
■ 『アフリカレポート』2014年 No.52、p.102
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2014年はルワンダで虐殺(ジェノサイド)が起きてからちょうど20年の節目にあたる。この虐殺は1994年に起きた。多数派のフツ族出身の大統領が乗った飛行機が撃墜されたのをきっかけに、フツ過激派と民兵集団が100日あまりの間に少数派ツチ族と穏健派のフツ族80万人以上を殺害したのである。この虐殺では民間人も数多く殺戮に加わっており、このことは当時世界に大きな衝撃を与えた。

本書は、このルワンダ虐殺を扱った三部作の第一巻、生存者たちの証言を集めたルポルタージュ“Dans le nu de la vie”(2000年刊行)の邦訳である。著者はマダガスカル生まれのフランス人ジャーナリスト、ジャン・ハッツフェルド氏である。

本書は14章からなり、各章一人ずつで計14人の虐殺生存者の証言が収められている。それぞれの章は著者による平時の町・村の様子の鮮明な描写で始まり、続いて生存者が自身の経験を語るという構成で、この対比が普段の穏やかな生活と殺戮が行われた時の人々の恐怖や狂気、残酷さを際立たせている。生存者たちは虐殺の後で自分たちの心がいかに変わってしまったかを語る。家族を目の前で無残に殺されたり自らも負傷したりした彼女・彼らは、みな心に深い傷を抱えたままなかなか癒えず、何年経ってもなお虚無感や無気力、孤独感に苛まれている。

証言から分かるのは生存者たちの心の変化だけではない。ツチ虐殺に対して誰も抵抗できない当時の世間の空気の中で、ある者は自ら鉈を手に殺戮を行い、ある者は累が及ぶのを恐れてツチの隣人を脅したり関わりを避けたりしたこと、かつては「隔てなく隣り合って暮らして」(p. 246)いたフツとツチの関係が虐殺後は何かざらついたものに変わってしまった様子が、生存者たちの言葉を通して詳細に語られる。評者自身に戦争経験はないが70年前の日本も似たような状況だったのではないか。条件がそろえば、私たちだってルワンダで起きた悲劇と同じような狂気に囚われることがあるのだと感じた。

ちなみに、ハッツフェルドのルワンダ・ジェノサイド三部作の第二巻(原題“Une saison de machettes”)は、『隣人が殺人者に変わる時 加害者編』(かもがわ出版、2014年)という邦題で刊行されている。残念ながら第三巻(原題“La stratégie des antilopes”)の邦訳はまだない。できるだけ多くの人に本書が読まれるよう、全ての邦訳が早く揃うことを期待する。

岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)