資料紹介: マリ近現代史

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:内藤 陽介 著 『マリ近現代史』
■ 岸 真由美
■ 『アフリカレポート』2014年 No.52、p.38
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2013年1月、日本人10名を含む39名が亡くなったアルジェリア人質拘束事件が起き、その結果、かつては黄金郷トンブクトゥとの関わりでしか話題にならなかったマリ共和国への関心が、日本で急速に高まった。本書はそんな2013年に刊行されたマリ共和国の通史である。

本書は6つの章で構成される。第I章は植民地化以前にトンブクトゥを中心に栄えたガーナ王国、マリ帝国、ソンガイ帝国の興亡を描く。第II章は17~18世紀の奴隷貿易と、その後フランスの植民地として支配されていく時代、第III章はマリ連邦の成立からマリ共和国の独立初期を扱う。第IV章は軍事独裁政権時代とその後の民政復帰過程、第V章は1990年代以降の民主化とトゥアレグ人による分離独立運動、そして最後の第VI章は2012年のクーデター、イスラム勢力の北部支配とフランスの軍事介入について説明している。

一読してまず感じたのは、マリ共和国成立までの歴史的経緯や第VI章で扱われる時事・情勢が複雑で、織り込まれた関連エピソードも多いため、文章を追うだけでは内容把握が難しいということである。評者の西アフリカに関する地理的・歴史的な基礎知識が不足しているせいもあろうが、年表や地図、人物相関図などがあれば読者の理解の助けになったのではないかと思う。

上記の点を除けば、本書はマリ共和国に関するおそらくは本邦初の通史であり、マリに関心を持つ読者なら一読の価値がある。が、マリに関心がなくても、切手に興味のある方なら是非とも一度は手に取ってほしい。従来の通史と違って、本書はマリに関係する切手や絵はがき、写真を満載した珍しい本なのである。一例を挙げよう。1960年2月に独立したマリ連邦(現在のマリとセネガル)はわずか2カ月でセネガルが脱退したため、同年9月に現在のマリ共和国として改めて独立した。本書には意匠が全く同じにもかかわらず、一方にはマリ連邦、もう一方にはこの連邦名を塗り潰し、マリ共和国の名をその下に印刷した2枚の切手が掲載されている(p. 70 図8)。

実は著者はマリ共和国をもっぱらの研究対象とするわけではなく、専門は切手などの郵便資料から国や地域を読み解く「郵便学」である。本書はその著者の専門性が発揮された、これまであまりなかったタイプの通史である。

岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)