資料紹介: OUT OF AFRICA アフリカの奇跡 ——世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介: 佐藤 芳之 著 『OUT OF AFRICA アフリカの奇跡 ——世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語——』
■ 岸 真由美
■ 『アフリカレポート』2013年 No.51、p.96
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アウト・オブ・アフリカ——この言葉を耳にしたことがあるだろうか。映画『愛と哀しみの果て』の原題だが、ケニア産マカダミアナッツの商品名でもある。そして後者の名を知る読者なら「佐藤芳之」の名もご存じかもしれない。佐藤氏は1974年にマカダミアナッツの加工・販売を行う「ケニア・ナッツ・カンパニー」を設立。マカダミアナッツ業界では世界でも五指に入る、ケニア最大の食品会社に育て上げた。本書はそんな著者の自叙伝である。

佐藤氏の会社経営はとてもユニークだ。事業を通じて社会的課題の解決を行うソーシャル・ビジネスをとことん実践している。ケニア・ナッツ・カンパニーは設立計画当初から、生産者主体の農業開発を目指したという。ケニア人を大農場の農場労働者として雇用する当時の欧米式の経営方法ではなく、小規模農家がマカダミアの木を所有し、実ったナッツを会社に販売して現金収入を得て自立できるやり方を採用した。農家には苗木を無料提供せず、安価な値段で購入してもらった。「タダでもらうのと、自分でお金を払って買うのとでは、手に入れたものに対する意識が全然違うはず」と佐藤氏は言う。時に強盗に襲われながらもナッツ集荷時は即金払い、農家に施肥・剪定の指導も行った。

この事業が軌道に乗ると、次はブランド価値を高めるため、小売用商品の開発・販売に力を入れた。この時、商品名に採用したのが「アウト・オブ・アフリカ」だ。そうして会社が得た利益は配当に回さず、再投資、生産者への還元と従業員の福祉に充てた。給与は遅配せず、社会保障制度が整備されていないケニアで、会社が医療費の大部分を負担し、企業年金の仕組みをつくり、住宅ローンや教育ローンを組めるようにした。最初は従業員が遅刻する、職場の清掃ができないなど問題もあったというが、今ではケニア・ナッツ・カンパニーの従業員の質の高さは有名だ。

そして2008年、佐藤氏は大きく育ったケニア・ナッツ・カンパニーをケニア人に譲り渡した。よそ者は役割が終わったら去るべき、大事なのは産業を残すこと、との考えからだ。佐藤氏いわく「吹き渡る風のように」「私は次にやるべきことに向かう」。今度はルワンダで有用微生物を活用した汚水・トイレ処理の新規ビジネスを始めている。ソーシャル・ビジネスの優れた成功事例として、本書をアフリカに限らず開発支援やビジネスに従事するすべての方にぜひお勧めしたい。






岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)