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「米中冷戦」下における台湾の生存戦略
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内容紹介
内容紹介
本書はアメリカと中国の勢力争いを左右し得る「小さな強国」台湾の生存戦略を論じている。過去の中台の交戦や軍事史の教訓から、小国が大国に抗うための軍事戦略を考えるとともに、軍事力を支える技術や社会的要因(とくに人口)も考慮に入れた台湾の国防戦略、そして外交や経済的手段も考慮に入れた包括的な「大戦略」(国家安全保障政策)にまで議論を進める。台湾の生存を脅かす要因は中国だけでなく、同盟国のアメリカにも存在する。一方、中国のねらいは文字どおりの「統一」(併合)でなく、南シナ海など海洋問題における中台共闘だと考えられる。そして、台湾は「島国」であり、大国間の勢力均衡策を図る「力」を発揮できる可能性がある。台湾が何もせずとも、中国は台湾の軍事力、政治的影響力を恐れている。大国を脅かす「力」をもつことは小国にとって諸刃の剣である。だからこそ、台湾には「小さな強国」として振る舞い続ける必要があるのである。
目次
まえがき
序章 台湾の生存戦略と大国の覇権争い
第1章 台湾の国防戦略と「疑米論」
第2章 中国と台湾の地政学的関係
第3章 台湾の安全保障戦略――信頼できない米中両大国との付き合い方――
第4章 台湾問題と米中対立激化の実態
終章 台湾問題の本質と「台湾有事」の虚実
まえがき
まえがき
小国が存在することには、何か特別な理由がある。第二次大戦後、中台は軍事的に対峙し続けてきた。台湾には「島国」という有利な地政学的条件と、世界有数の空軍力やミサイル戦力があるため、中国は台湾を併合できなかった。また、国力は継戦能力(持久力)に直結するため、国力の乏しい小国は戦争や、危機的事態の長期化を回避する必要がある。それには軍事力の「質」(練度や技術)的な優位と、苛烈な反撃能力を備える「ヤマアラシ」戦略つまり懲罰的抑止戦略が必要である。
米中対立の激化は台湾問題をめぐる挑発の応酬であり、これが「台湾有事」(中国軍の台湾侵攻)や米中軍事衝突に発展することが危惧されている。しかし、中国のねらいは「小さな強国」台湾との戦争でなく、南シナ海での中台共闘である。威嚇は台湾の政権交代を促す手段である。
南シナ海における米中両軍の対峙で最も重要なのは、水面下における潜水艦の追跡戦という「暗闘」である。本来は車の煽り運転と同じで、偶発的衝突を招く危険がある。しかし、潜水艦の「暗闘」では文民の政治家や一般人の情緒、危機感を煽ることが難しい。一方で、台湾という「冷戦の最前線」が出現すれば、軍事経済両面におけるアメリカの対中「封じ込め」に追い風が吹く。
ただし、アメリカは演出された「冷戦の最前線」を必要とするが、中国軍に勝てる「強い台湾」の出現は望んでいない。ロシアに侵攻されたウクライナに対する欧米の限定的な支援は、台湾にも十分な「矛」(戦闘機やミサイル)を与えず、「盾」だけもたせて前線に立たせるのがアメリカの「拒否戦略」なのかという疑いを招き得る。
『孫子』が「彼(敵)を知り、己を知れば、百戦危うからず」と説くように、正しい戦略の立案には正しい認識が必要である。小国が大国に抗うには、大国の「弱み」を握り、自らの「強み」を認識する必要がある。大国も小国の「弱み」を喧伝し、大国の「弱み」を隠蔽する必要がある。しかし、小国の限定的な国力は自明であり、認知戦の効果は意外に小さい。効果的なのは小国と同盟を結ぶ大国との間にある「矛盾」(摩擦)を突き、相互不信を煽る「離間の計」(分断工作)である。
本書の議論は軍事や地政学、政治、経済社会などの分野に及び、地理的には米中台のほか香港問題にも若干触れる。「台湾問題」は米中関係の経緯全体を見直す視点になるが、これについては機会を改めて詳細な分析を行う予定である。また、時代区分としては戦後を中心に議論するが、本書は中台関係の起点を明末清初に求めている。国家生存のための基本方針、大戦略を考えるには、こうした広く浅い議論を行い、各専門分野の議論の矛盾点や見落としを確認しておく必要がある。
本書はアジア経済研究所における2023~2024年度個人研究「米中の大国間競争の下における台湾の生存戦略」の成果である。また、この研究計画の実施前より、筆者は類似する研究課題に取り組んできた。2012年7月から2014年6月までの間、アジア経済研究所の海外派遣員として、台湾の中央研究院台湾史研究所に客員研究員として受け入れていただく形で、台湾の外交政策思想、とくに親中派である中国国民党の対外政策についての研究調査を行った。当時は尖閣諸島をめぐって日台の摩擦が高まった時期であり、中国と台湾の馬英九政権の関係についてさまざまな疑問が浮かんだ。しかし、地政学の視角が不足していたため、疑問を解決することができなかった。南シナ海が中台関係の謎を解く鍵だと考えるようになったのは帰国後であるが、台湾滞在中より南シナ海問題に関する文献収集は若干だが行っていた。とはいえ、一応の完成をみた本書の内容についても間接証拠に基づく推論を含んでいることは、お断りしておきたい。
最後になったが、中央研究院台湾史研究所での受入れにおいてご尽力いただいた呉叡人先生および、アジア経済研究所側でコメンテーターを務めていただいた佐藤幸人氏、また本書について有用なコメントをいただいた匿名の査読者および関係各位に御礼を申し上げたい。
2026年3月
著者
