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エジプトの住宅政策――統治・開発・空間秩序――

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研究会成果

一般書

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エジプトの住宅政策――統治・開発・空間秩序――

著者/編者

出版年月

2026年3月

ISBNコード

978-4-258-04675-1

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内容紹介

内容紹介

本書は、2023~2024年度にアジア経済研究所で実施された個人研究「エジプトの新都市開発」の成果をまとめたものである。

エジプトでは、2015年に発表された新行政首都(NAC)構想をはじめ、1970年代末以降、砂漠地帯での新都市開発が繰り返されてきた。過去の多くのプロジェクトが「失敗」と評されてきたにもかかわらず、なぜ歴代政権は新都市開発に固執し続けてきたのか。本書は、この素朴な疑問を出発点として、住宅政策を単なる福祉や都市計画としてではなく、人口配置や空間再編を通じて社会秩序を形成する「国家を形成する政策」として捉え直す。

分析にあたっては、「空間統治」「国家と市場」「開発アクター」という3つの視角を用い、ナセル期から現在に至るまで、約70年にわたる住宅政策の変遷を跡づける。とりわけ現政権下では、軍が土地管理・資金調達・施工を一体的に担い、住宅・都市開発を主導する「統治の結節点」へと変容してきた実態を明らかにする。

公式に計画された新都市と、都市人口の過半数が居住するインフォーマル地区という二元的な空間構造は、エジプトの住宅政策を特徴づけてきた。国家はいかにしてこの2つの空間を「包摂と排除」という論理のもとで統治してきたのか。本書は、「住まい」という身近な視角から、エジプトにおける国家と社会の関係、そして権威主義的支配の仕組みを読み解く。

目次

まえがき

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序章 住まいを通じて問う統治――エジプトの住宅政策と社会秩序の形成――

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第1章 ナセル政権期の住宅政策――国家建設と社会統合――

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第2章 サダト政権期の住宅政策――門戸開放と都市空間の再編――

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第3章 ムバーラク政権期の住宅政策――市場化と階層分断の固定化――

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第4章 スィースィー政権期の住宅政策――メガプロジェクトと軍主導国家資本主義――

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第5章 空間統治としての住宅政策――都市秩序と統治技術の展開――

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第6章 国家と市場の政治経済――制度形成・金融化・包摂の限界――

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第7章 アクターと権力構造――軍を結節点とする政治経済――

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終章 住宅政策を通じた国家形成と統治構造の再編

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補論 人口動態と国家政策の変遷――社会統合と開発戦略の連動――

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まえがき

まえがき

2015年3月、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたエジプト経済開発会議(EEDC)において、アブドゥルファッターフ・スィースィー大統領は新行政首都(NAC)構想を発表した。カイロの過密緩和を掲げ、砂漠に巨大な新都市を開発するという野心的なプロジェクトは、国内外から大きな注目を集めた。しかし、1970年代末から繰り返されてきたエジプト新都市開発の歴史を振り返れば、20を超える新都市が開発されてきたにもかかわらず、その多くが目標定住人口に達せず、広大な未開発地を抱える「失敗プロジェクト」と見なされてきた事実に行き当たる。それにもかかわらず、スィースィー政権はなぜ「砂漠の夢」ともいえる新都市開発を再び打ち出したのか。この素朴な疑問が、本書の出発点である。

本書は、2023~2024年度に日本貿易振興機構アジア経済研究所(IDE-JETRO)で実施した個人研究「エジプトの新都市開発」の成果である。エジプトにおいて住宅は、単なる物理的な「住まい」にとどまらず、歴代政権が支配の正統性を補強し、社会秩序を編成するための統治手段として機能してきた。本書では、ナセル政権から現在のスィースィー政権に至るまで、約70年間にわたる住宅政策の展開をたどりながら、それを単なる社会政策や都市政策としてではなく、「国家を形成する政策」という視点から読み解くことを試みる。

本書の分析を支えるのは、「空間統治」「国家と市場の関係」「開発アクター」という3つのレンズである。第1に、住宅政策がいかに都市空間を再編し、人口を誘導・管理する「空間統治」の技術として機能してきたかを考察する。新行政首都(NAC)開発は、抗議運動などの政治的リスクから行政機能を切り離し、政権の権威を可視化する「統治可能性」を高める試みでもあった。第2に、政府が住宅の「直接供給者」から住宅市場の「制度設計者」へと変容する過程に注目し、土地配分や住宅金融を通じて、いかに「制度的に形成された市場」を構築してきたのかを明らかにする。そこでは、住民の選別がいかに社会的な階層分断を固定化してきたのかが分析される。第3に、住宅政策の担い手であるアクターの変容を検討する。とりわけスィースィー政権下では、軍が施工主体にとどまらず、土地管理、資金調達、規制、さらには開発事業体の所有にまで関与することで、「統治の結節点(governing hub)」として圧倒的な存在感を示すようになった実態を明らかにする。

エジプトの住宅政策を貫く特徴のひとつは、公式な新都市と、都市人口の半数以上が居住する既存都市のインフォーマル住宅とから成る二元的な空間秩序である。政府はインフォーマル住宅を法的には「違法」と位置づけながらも、社会不安の拡大を回避するために黙認し、状況に応じて選択的に介入するという「二元統治」を展開してきた。このような「排除を通じた包摂」という逆説的な構造こそが、エジプトの権威主義的支配を下支えする一方で、深刻な社会的分断を再生産してきたのである。

最後に、本書の発行にあたっては、2名の所内匿名査読者、研究企画委員会、ならびに学術情報センターの編集担当者から多くの有益な助言と支援を賜った。ここに記して深く感謝申し上げたい。また、現地調査において、カイロの喧騒や新都市の静寂のなかでインタビューに応じてくださったエジプトの人々の協力なくして、本書は完成し得なかった。彼らが語った「住まうこと」への切実な願いと、政権が描く「壮大な計画」との乖離こそが、本書の議論の核心をなしている。本書が、住宅政策を通じてエジプトの統治を考えるためのひとつの材料となれば、筆者にとってこれ以上の喜びはない。

2026年1月 筆者