「アジアの子どもたちの生活環境」 基礎理論研究会成果報告書
2025年3月発行
序 「アジアの子どもたちの生活環境」を考察するにあたって(580KB) / 寺本 実
新型コロナ感染症禍以降のアジア諸国の子どもたちの生活環境について、本基礎理論研究会では考える。本章では、今回の研究課題発想の出発地点について述べ、先行研究を概観し、取り組みの骨子について記す。アジアの開発途上国の子どもの生活環境のベースには、当該国の子ども関連法制度が存在する。現段階では、考察対象国の関連法制度の内容分析を通して、考察対象国における、「子どもの生活と成長を守るための政策」(以下、子ども政策)の土台を明らかにする必要がある。こうした取り組みは、アジアの開発途上国に関する研究上、未だ十分に明らかにされていない事項を明らかにするという意味で、基礎的かつ学術的な仕事として、位置付けることができると考えられる。
第1章
フィリピンの子どもの権利を守る法制度は、国連の子どもの権利条約(CRC)などに沿った形で整備されており、虐待、搾取、差別から保護されているだけでなく、児童婚の禁止や児童労働の禁止も盛り込まれ、見かけ上は整っているように見える。制度的にも複数の省庁が管掌しており、それら省庁を横断する委員会も設けられている。それにも係わらず、実際の児童保護関連法違犯の摘発は数多いとNGOなどから指摘されている。また障害児教育については、学校教育の制度が未だ不十分という問題があり、非障害児の識字率が高いのに、障害児・者については、非常に低い。こうした状況は彼らの権利の保護という意味でも彼らが脆弱な位置に置かれていることを意味し、より詳しい実態の解明が望まれる。
第2章
ベトナムの子どもたちの生活環境 ――現地資料に基づく理解の試み――(720KB) / 寺本 実
経済開発が進むベトナムでは、障害児教育のよりいっそうの普及等の課題はあるものの、子どもの教育レベルが上昇している。2016年子ども法では、子どもの権利の実行と有事の際の保護に向けた基本的な諸事項が定められている。その一方、日本と同様に、少子高齢化が進む傾向にあり、子どもに対する虐待事件も発生している。こうしたなか、子どもに関する問題に取り組むための中央・地方の国家予算、人員が不足傾向にあることが指摘されており、対応の強化が求められている。
第3章
インドの子どもたちの生活環境――教育政策・児童労働撤廃政策を中心に――(844KB) / 中村まり
インドは、児童労働の減少と並行して、学校教育の普遍化に向けて政策改定や国際条約の批准を行うなど、近年急速な進歩を遂げてきた。世界最大の子ども人口を抱えるインドの子どもたちをめぐる政策の中でも、変化の大きい教育政策と児童労働関連法の変化を中心に検討した。