途上国における農業経営の変革
調査研究報告書
清水達也 編
2017年3月発行
表紙 / まえがき / 目次 (352KB)
第1章
中国農業の構造調整と新たな担い手の展開 (617KB) / 寳劔久俊
第2章
中国の新たな農業経営モデルの特徴と存立条件(499KB) / 山田七絵
第3章
タイの稲作農業における経営規模分布:機械化と農業サービスの影響(544KB) / 塚田和也
本稿はタイの稲作農業における経営規模分布について、その変化の要因を実証的に分析したものである。分析対象となる期間、タイでは農業サービスを通じた農業機械の利用が急速に進展した。農作業の多くを外部委託する稲作農業の形態が、経営規模分布や農家の土地生産性格差にいかなる影響を与えたかを検証することが課題である。農業センサスの県別データを用いた分析結果によると、農業サービスの普及は大規模経営の土地生産性を相対的に上昇させるわけではないものの、取引費用の削減などを通じて経営規模の拡大を促進することが示された。
第4章
ベトナムにおける農業経営:外部環境変化との接点 (387KB) / 荒神衣美
本章では、ベトナムで農業経営体の大半が家族経営に占められているなか、①企業経営の増加、②家族経営の外部経済への依存傾向、という変化が生じていることを看取したうえで、家族経営の変化を促す要因について検討した。家族経営は市場、産業構造、技術、政策といった外部環境に応じて変化していくと考えられる。本章では、家族経営がどのような主体/制度を介して外部環境の変化に接しているのかという点に注目し、主要な仲介者/制度の実態を概観した。そのなかで、近年さまざまな取引の仲介役として表れているコー(Cò)という存在が、家族経営の変容に重要な影響を与えているという仮説を示した。
第5章
ベトナムにおける農業投資環境と日系農企業の事業戦略の変化――ラムドン省を事例に―― (478KB) / 辻一成
第6章
メキシコにおける農業とそれを取り巻く環境の変化 (928KB) / 谷洋之
メキシコの農業部門は、1990年代以降、きわめて大きな制度的変化を経験した。それは具体的には、所有権制度の確立を目指した農地法制の整備、1980年代に混乱を極めた金融制度の改革、北米自由貿易協定(NAFTA)に象徴される対外自由化、国内規制の緩和などである。これらの制度改革によって、農業部門にも資本主義的ないし新自由主義的な改革がもたらされ、それによって経営規模の拡大、生産の増大、生産物の高付加価値化が目指された。しかしながら、農地所有制度の変更の浸透度には大きな地域差があり、また金融制度の改革にもかかわらず、農業部門はフォーマル金融部門の恩恵には未だ与っていないのが現実である。貿易自由化により野菜・果物類の輸出は増え、それらは企業的な農業生産者によって担われているが、それには国土の南半に存在している低廉な労働力とその背景にある貧困問題の存在が暗黙の前提となっている。企業としての発展もさることながら、それを地域ないし国全体のマクロな経済社会発展に結びつけることができるのかが検討されなければならない。
第7章
拡大するブラジルの穀類生産と企業的家族経営 (742KB) / 清水達也
第8章
最低賃金規制と農業経営 (694KB) / 伊藤成朗
本稿では先行研究を選択的にレビューし、南アフリカでの雇用環境を考察した後に、最低 賃金への雇用者の対応について南アフリカのデータを用いて吟味した。経済理論からは、 労働市場が競争的かどうか、もしくは、平均採用費用の交差微分の符号によって、雇用量 に与える効果が逆になることが示されている。先進国の実証結果は雇用効果が負かゼロか 結果が分かれているが、一部研究では、最低賃金以下での雇用が多いと規制は雇用に負の 影響を与えやすいことが示されている。南アフリカの商業農業調査データを用いて農家粗 所得に与える影響を検討したところ、推計結果は実質賃金上昇率の高い農村部は農家粗所 得は影響を受けず、労働を資本で代替していることと整合的な結果であった。これは最低 賃金以下での雇用が多いことと整合的な結果である。今後は情報を拡充しながら最低賃金 の影響をより詳細に考察していくことが必要である。