ユドヨノ政権の10年と2014年の選挙

調査研究報告書

川村 晃一  編

2014年3月発行

この報告書は中間報告書です。最終成果は
川村 晃一 編『 新興民主主義大国インドネシア——ユドヨノ政権の10年とジョコウィ大統領の誕生—— 』アジ研選書No.40、2015年11月30日発行
です。

第1章
2014年総選挙の意義と制度 (632KB) / 川村 晃一
本稿は、2014年4月に実施される議会選挙と7月に実施される大統領選挙を分析するための準備作業として、2014年の一連の選挙の意義を確認するとともに、それらの選挙がどのような制度の下で実施されるのかを整理した。また、それぞれの選挙制度がなぜ選択されたのか、どのような政治的帰結をもたらすのかを分析した。2014年の選挙は、政治的安定を土台に本格的な経済成長の軌道に乗って新興経済大国として台頭してきたインドネシアが、新しい時代に入るための新しい指導者を選出する重要な選挙である。これまで選挙の度に修正が加えられてきた選挙制度は、今回は小幅な改正にとどまったが、議会による立法だけでなく、憲法裁判所による違憲審査で変更が加えられる傾向がさらに強まった。

第2章
ポスト・ユドヨノ時代のインドネシアはどのような人たちが舵取りをしていくのか。とくに大統領にはどのような人物が就任するのか。国際社会が見守るなか、2014年7月に大統領選挙が予定されている。どのような候補者が大統領選挙に出馬する可能性があるのか。彼らの強みと弱みはなにか。選挙政治にはどのような力学があるのか。大統領候補者を擁立する政党の内部で、どのような権力政治が働いているのか。それらを理解することで、2014年選挙のダイナミズムと新政権誕生後の展望が明らかになってくる。ただ、本稿は中間報告であり、今後の選挙政治の展開によって、最終報告の分析・議論は大きく変わる可能性があることを断っておきたい。

第3章
イスラームと政治および社会の関係をめぐって、この10年ないし15年あまりの期間において顕著なのは、相反するような印象を与える現象である。すなわちイスラームの規範が社会の隅々に浸透し、より敬虔あるいは保守的な人々が増えているように見える一方で、既存宗教組織や指導者の政治的動員の限界が露呈し、イスラーム政党は停滞していることである。代わって都市部を中心に既存の組織に囚われない新たな集団や指導者が現れている。本稿はインドネシアにおける1998年以降の宗教市場および政治市場を分析し、ジョコ・ウィドド大統領候補台頭の背景を明らかにするとともに、2014年選挙を分析するための枠組みを示す。なお、本稿はアジア経済研究所「インドネシア選挙研究会」の中間報告書である。

第4章
ユドヨノ政権は2013年末までの9年間に平均して年約6%の経済成長を達成している。このユドヨノ政権期経済の分析・評価のため、今回の中間報告ではスハルト政権末期(1990年~1996年)、ワヒド=メガワティ政権期(1999年~2004年)、ユドヨノ政権期(2005年~2013年)といった歴代の政権間で時系列比較を行うべく、資料の収集・整理を行った。資料収集にあたっては、支出項目別の経済成長率への寄与度の比較からはユドヨノ政権期には純輸出と投資がワヒド=メガワティ政権期よりも高かったため、その要因や背景を探ることに重点を置いた。資料をもとに暫定的に分析結果を4点まとめると、(1)純輸出増にもかかわらず交易条件が悪化しているため、実質国内総所得が実質国内総生産から大きく乖離しはじめている、(2)政策金利の引き下げに伴う実質利子率の低下傾向と実質投資(GDP比)の上昇との相関関係が確認できる、(3)失業率の低下には実質賃金の上昇が止まったことの影響も大きい、(4)ジニ係数の増加傾向の一因として、高等教育者への賃金プレミアム増の可能性がある。

第5章
本稿は、「2014年インドネシアの選挙——ユドヨノ政権の10年と新政権の成立」研究会の1年目の成果として、アジア通貨危機発生直後の1998年から2013年までの間制定されたインドネシア法律、政令、規則に関する分析作業の途中経過を中間報告としてまとめたものである。インドネシアの経済構造は、アジア通貨危機以降大きく変容している。インドネシア経済制度がどのように変化してきたかについて、危機以降に制定された経済関連法令をまとめながら経済制度の発展を検証するための視点および方法について検討する。

第6章
民主化・分権化後のインドネシアでは汚職が大きな問題となっており、日々、マスメディアを騒がせている。本稿では、その中でも派手なスキャンダルとして注目を浴びたバンテン州の州知事一族の汚職に着目する。その一族が地方政治経済を牛耳った過程を振り返ったあと、汚職撲滅委員会が州知事と弟を逮捕した過程、彼らによる汚職の実態を明らかにする。そして、司法機関が機能不全に陥っている中で、地元のNGOの地道な活動と汚職撲滅委員会の高度な自立性が彼らの逮捕につながったことを示す。

第7章
ユドヨノ政権の外交戦略 —ハッサン・ウィラユダ外相とASEAN、国会に焦点をあてて— / 相沢 伸広