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アジ研ポリシー・ブリーフ

No.290 日韓経済協力の新たな方向性――戦略的相互依存と「開かれた共同体」の構築

2026年9月10日発行

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  • 日韓経済関係は、従来の垂直的分業から競争と補完が併存する関係へと変化しており、今後は重要鉱物、半導体などの分野で「戦略的相互依存」を構築することが重要である。
  • CPTPPを活用して協力を制度化するとともに、第三国も含めた信頼できるサプライチェーンを形成し、協力すべき分野では戦略的に協力し、競争する分野ではルールに基づいて競争する「開かれた共同体」を目指すことが求められる。

日韓の経済関係は、かつての垂直的な分業関係から、競争と補完が併存する関係へと変化してきた。一方、米中対立や経済安全保障への関心の高まりは、両国にサプライチェーンの強靱化という新たな課題を突きつけている。本ポリシーブリーフでは、日韓経済関係を「戦略的相互依存」という観点から捉え直し、重要鉱物や半導体における協力の可能性、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)を軸とした制度的枠組みを検討し、協力と競争を両立させながら第三国を含む「開かれた共同体」を構築する方向性を考察する。

変化する日韓経済関係

かつての日韓経済関係は、「日本が素材・部品・資本財などの上流財を供給し、韓国がそれらを加工して輸出する」という垂直的な分業が基本であった。しかし、韓国の産業競争力が向上するにつれて、この構造は大きく変化した。現在では、日本の素材・製造装置などと韓国の半導体製造などが相互に結びつく一方、半導体、電池、自動車、鉄鋼などでは両国企業が世界市場で競争する関係にもなっている。

現在の日韓貿易の特徴は、こうした「競争」と「補完」の併存にある。両国の相互依存は完全に対称ではなく、例えば半導体では、日本が材料、製造装置、部品などの上流工程に強みを持つ一方、韓国はメモリー半導体や半導体製造に強みを持っている。このような工程間の相互補完性が、現在の日韓経済関係を支えている。

さらに、世界的な輸出管理規則の強化や米中対立の激化などを背景として、企業は単純なコスト最小化だけではなく、供給途絶リスクや経済安全保障を考慮して調達先を多角化するようになっている。その結果、日韓貿易は単なる比較優位に基づく貿易から、レジリエンスと経済安全保障を含む「戦略的なサプライチェーン関係」へと変化しつつある。

したがって、今後の日韓経済協力では、従来型の自由貿易協定(FTA)のように「関税をどこまで引き下げるか」だけを議論するのでは不十分である。日韓FTAは2003年に交渉が開始されたものの、2004年の第6回交渉以降、交渉は中断しており、現在も再開には至っていない。こうした状況も踏まえれば、今後はFTAによる市場アクセスの改善に加え、相互に依存するサプライチェーンをどのように安定させ、危機時にも機能するものにするかを考える必要がある。

「戦略的自律性」から「戦略的相互依存」へ

こうした協力を考える上で重要なのが、「戦略的自律性」と「戦略的相互依存」の関係である。日本も韓国も、すべての重要製品を国内で生産することを目指せば、サプライチェーンの安全性は高まるかもしれない。しかし、そのためには大きなコストが必要となり、限られた資本や労働力を非効率に利用することにもなる。

むしろ、両国がそれぞれの強みを維持しながら、互いに信頼できるサプライチェーンを構築する「戦略的相互依存」の考え方が現実的である。例えば半導体では、日本の素材・装置と韓国の製造能力を結びつけることで、両国が単独でサプライチェーンを構築するよりも効率的な体制を構築できる。

具体的な協力分野として、まず重要鉱物が挙げられる。日本と韓国はいずれも国内資源が限られ、海外依存度が高い。また、両国とも電池、半導体、自動車などの製造業を有している。このため、共同調達、共同備蓄、第三国の鉱山への共同投資、精錬・加工、リサイクルまで協力を広げる余地が大きい。

半導体については、全面的な「共同産業政策」よりも、協力と競争を組み合わせることが重要である。重要部材の供給確保、サプライチェーン情報の共有、緊急時の相互融通、輸出管理に関する政策対話、研究開発、人材育成などでは協力できる一方、完成品や技術そのものでは競争を維持するという考え方が現実的である。

ただし、日韓協力を過大評価してはならない。半導体、電池、鉄鋼、自動車などでは両国企業が競争しており、中国への依存をどの程度、どのスピードで低下させるかについても立場の違いがある。歴史・政治問題が経済関係に波及するリスクも残っている。したがって、「政治関係が良好だから経済協力を進める」のではなく、「政治関係が悪化しても経済関係が全面的に毀損しない制度を構築する」ことが重要である。

CPTPPによる制度化

韓国のCPTPP加盟は、日韓経済協力を制度化する契機となり得る。日韓FTAのような二国間の枠組みに加えて、CPTPPによって日韓関係をより広い多国間のルール体系の中に位置づけることが重要である。日韓FTAは二国間の政治関係の影響を受けやすいが、CPTPPにはオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、ASEANなども参加しており、日韓関係をより広い制度的枠組みの中に組み込むことができる。その結果、日韓関係が一時的に悪化したとしても、企業活動を支える共通の制度やルールそのものまで簡単には崩れにくくなる。ここで重要なのは、政治問題と経済問題を完全に切り離すことではなく、政治関係の悪化が経済関係全体に波及することを防ぐことである。

また、CPTPPは日韓二国間協力だけでなく、「日韓+第三国」の協力を促すプラットフォームにもなり得る。例えば、日本企業と韓国企業がベトナム、マレーシア、豪州、カナダなどで共同生産・共同調達を行う場合、共通のルール体系は企業活動を支える重要な基盤となる。

「開かれた共同体」へ

今後の日韓経済関係では、「同じ産業を守るための協力」と「異なる強みを組み合わせるための協力」を明確に区別する必要がある。鉄鋼などのように競争が激しい分野では、無条件の協調を目指すのではなく、透明性、比例性、予見可能性のあるルールの下で競争を管理することが重要である。一方、重要鉱物、エネルギー、半導体材料、電池材料など、両国が共通して第三国に依存している分野では、共同調達や共同投資を積極的に進めるべきである。

最終的に目指すべきなのは、日韓が経済的に一体化することではない。米中対立、保護主義、経済的威圧、エネルギー安全保障、重要鉱物、AI・半導体、少子高齢化、低成長など、両国が単独では解決しにくい課題について、共同で市場、サプライチェーン、投資、ルールを形成する制度的枠組みを構築することである。

その意味で、今後の日韓経済協力は、「RCEP(地域的な包括的経済連携協定)による広域的な経済統合」、「CPTPPによる高水準のルールと経済安全保障」、「日韓の機能別協力による具体的なサプライチェーン構築」という三層構造で捉えることができる。これにより、日韓関係を政治関係に依存した協力から、制度と具体的な相互利益によって支えられる「戦略的相互依存」へと転換する。

日韓経済協力の新しいモデルは、「日本と韓国がそれぞれ自立すること」でも、「日韓が一つの経済圏になること」でもない。両国がそれぞれの産業上の強みを維持しながら、第三国も含めた信頼できるサプライチェーンを構築し、危機への共同対応能力を高めることである。これこそが、経済安全保障と成長を両立させる、現在の日韓関係に適した協力の方向性である。

はやかわ かずのぶ/開発研究センター)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

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