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アジ研ポリシー・ブリーフ

No.272 パプアニューギニアにおける気候変動法政策の現状と課題

2026年3月12日発行

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  • パプアニューギニアは気候変動対応法を制定し、緩和・適応策を本格化させるも双方で課題に直面。
  • 緩和策においては農業、林業、気候変動対策を統合する政策に向けた援助・協力が、適応策においては緊急性の高い課題へのリソース集中が求められる。

パプアニューギニアは太平洋島嶼国の中では圧倒的に広大な国土を有する(45.3万㎢、日本の約1.25倍)。海水面上昇による国土の喪失に直面する他の太平洋島嶼国に比べれば、パプアニューギニアはそれほど切迫した危機感を抱いているわけではない。しかしながら、人口の多くが一次産業に従事していたり、自給自足の生活を送っていたりと、気候変動がもたらすさまざまなインパクトに対して脆弱さを抱えた経済社会でもある。こうした事情を念頭に、パプアニューギニアは気候変動の緩和および適応に精力的に取り組んできた。以下では、気候変動対応法の制定(2015年)以降に絞って、気候変動・開発局(CCDA)の活動を概観し、緩和策である森林保護(REDD+)と適応策の主軸となる国家気候変動適応計画(National Adaptation Plan)のそれぞれにおける課題を確認する。

気候変動対応法の制定とCCDAの設立・活動

パプアニューギニアは、2015年に気候変動対応法(Climate Change Management Act)を制定した(2021年、2023年に改正)。同法に基づいて気候変動・開発局(Climate Change and Development Authority, CCDAが設立され、気候変動の緩和・適応政策の実施や国際法遵守などを担うとされた。CCDAは、ADB、UNDPFAOといった国際機関や援助提供国からの資金などを用いて、さまざまな政策、計画、事業を主導している。

ただし、CCDAは気候変動関連の政策を一手に引き受けているわけではなく、隣接する政策領域には分掌が残されている。例えば、気候災害に関しては国家災害センター(National Disaster Centre, NDC)が、食糧生産等へのインパクトについては農業・畜産省(Department of Agriculture and Livestock, DAL)がそれぞれ担当している。

CO2吸収源としての森林保護(REDD+)と課題

パプアニューギニアが特に力を入れてきた気候変動緩和策としてREDD+が挙げられる。REDDとは”Reducing Emissions from Deforestation and Degradation”の略称であり、重要なCO2吸収源である熱帯雨林の保護を目指す国際協力の枠組みを指す。パプアニューギニアは、コスタリカと並ぶREDD+の提唱国であり、国内ではREDD+国家戦略(2017-2027)を策定・実施し、2025年12月にはブルーカーボン・政策ロードマップを公表するなど、森林の保護に取り組んできた。

REDD+は一定の成果を挙げているものの、人の経済的活動による森林の喪失を食い止められていない。Gobal Forest Watchによれば、2001年から2024年までの間にパプアニューギニアの森林全体のうち5%が失われ(基準: 2000年時点での森林面積)、特に原生林の3%が失われた。こうした森林の撹乱・喪失を引き起こしている主な要因は、(1)木材利用のための伐採、(2)農地の拡大、の2つである。

図:パプアニューギニアにおける原生林の喪失面積(データ期間:2001-2024年)

パプアニューギニアにおける原生林の喪失面積

注:図中のダッシュ線(青)は、トレンド(LOESS)を示す。
データ出典:Global Forest Watch

伐採には森林法(Forestry Act, 1991)による規制が行われているが、予算・人員不足のため監視が行き届いていなかったり、事業のための造成と偽って実際には木材利用のための伐採を行う事業者がいたりと、その実効性向上が課題である(パプアニューギニア国立研究所および森林研究所での聞き取り)。

農地の拡大も森林の保護にとっては逆風である。パプアニューギニアでは生産規模や交通インフラ整備の制約から、農産物の多くが自家消費されるか、または極めて狭い地域で流通するにとどまる。しかし、近年政府は作物の流通促進策や農業の大規模化・機械化を推進している(国立農業研究所での聞き取り)。人口増加の勢いも衰えておらず、2011年時点での約727万人から、2024年には約1020万人へと増加しており(National Population Census, 2025)、人口と食糧生産の増大による森林への圧力は当面続くと予測される。

気候変動適応における課題

一方の適応策にはいかなる課題があるだろうか。国家気候変動適応計画(NAP)によれば、パプアニューギニアでは、すでに熱波、地すべり、サイクロン、洪水の頻度・規模の増大に加えて、感染症や干ばつの増加といった事態が生じつつある。

パプアニューギニアにおける適応策の難しさは、地理・社会的条件と開発の遅れが、気候変動による被害・損失を増大させうる点である。例えば、同国の人口は農村・山岳地帯に分散しており、道路等交通インフラ整備の遅れが医療アクセスや商取引を制限している。NAPはこうした開発課題と気候変動が複合して生じるさまざまな問題(感染症リスクの増大や経済活動の鈍化)を明確に捉えており、セクターごとの適応策を策定し、対処していく方針を示した。

しかし、適応策の実施のために必要なリソースの確保が大きな課題として残されている。トランプ政権下のアメリカは2025年にUSAIDを廃止、2026年内に気候変動枠組み条約から脱退すると見られる。NAPUSAIDGreen Climate Fundの支援を受けて策定されており、実施段階でもおそらく支援を期待していたと推察される。将来にわたって外部からの資金が得にくい国際情勢が続くと見込まれる中、適応策実施のためにどれほどリソースを確保できるかが懸念される。

まとめ・政策的含意

パプアニューギニアでは、気候変動対応法の制定とCCDAの設立によって、国家レベルでの気候変動緩和・適応への取り組みが本格化した。CCDAを筆頭に各分野での政策・事業を推進してきたが、緩和策においては人口の増加と農地面積の拡大にどう立ち向かうかが鍵となる。一方、適応策においては開発課題と気候変動への対処に取り組む計画だが、今後の実施段階でリソース確保が困難になると見込まれる。

国際機関や日本を含む援助提供国には、これまでの援助・協力を継続するにとどまらず、(1)農業・林業・気候変動対策を統合した視点からの援助・協力、(2)アメリカの脱退を踏まえて、気候変動分野での途上国支援戦略を見直すこと、(3)緊急性の高い課題(気候災害へのレジリエンス構築や医療アクセス改善等)へのリソースの集中、が求められている。

参考資料
  • Climate Change and Development Authority of Papua New Guinea. “PNG REDD+.” Accessed January 15, 2026. https://pngreddplus.org/.
  • National Statistical Office of Papua New Guinea. “2024 National Population Census”, 2025.
  • Climate Change & Development Authority. Papua New Guinea National Adaptation Plan. Climate Change & Development Authority, 2023.

やまだ こうせい/新領域研究センター)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

©2026 山田 浩成