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アジ研ポリシー・ブリーフ
No.256 育成就労制度と外国人労働者のスキルの「見える化」へ
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- 国際機関の提唱する SMP(Skills Mobility Partnerships)の議論を受け、日本の外国人労働政策は2027年の技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設により人材確保と人材育成を目指す方針へ大きく転換する。
- 技能実習生・特定技能外国人の帰国後のキャリアパスの把握は不十分である。
- 育成就労制度のもとで労働者が長期的なキャリア形成をおこなうために、日本で習得したスキルの「見える化」に向けた議論が必要である。
国際移住機関(IOM)は、移住労働者の送り出し先・送り出し元国双方の人的資本開発と国際労働市場の改善を促進するために、両国の間でSMP(Skills Mobility Partnerships)を締結することを提唱している。SMPのコンセプトは、移住労働者の主要な受け入れ国であるOECD加盟国の移民政策において広く共有されている。
このような国際的な議論を受け、日本政府は2024年6月に可決・成立した「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」により、2027年4月1日に人材育成と労働力確保を目的とした育成就労制度を創設することを決定した。これにともない、人材育成の目的と実態の乖離が国内外で問題視されてきた外国人技能実習制度は廃止される。
本稿は外国人労働者の人材育成と長期的なキャリア形成の観点から、育成就労制度の導入に向けた課題と日本が開発途上国の労働者に選ばれるためのスキル習得支援について提言する。
外国人の受入状況と育成就労の特徴
日本は1990年代から外国人技能実習制度および新設された特定技能制度の枠組みを通して、主にアジアの開発途上国から労働力を受け入れてきた。2024年のアジア主要13カ国からの国際労働力移動は約650万人(フローベース)となっており、日本を含む東アジアは湾岸諸国、アメリカと並び主要な送り出し先のひとつとなっている(ADBI, ILO and OECD, 2025. Labor Migration in Asia: Fair Recruitment, Training, and Development)。近年日本で増加が著しい在留資格は、期限付きの一時的な非熟練労働者(技能実習および特定技能)である。
厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によれば2024年10月時点で日本の就労外国人(ストックベース)は合計230万2587人、技能実習47万725人と専門的・技術的分野の在留資格71万8812人(うち特定技能は20万6995人)で全体の過半数を占める。就労外国人は2024年の日本人就業者数6781万人の3.4%に過ぎないが、若年層(20~30歳代)の担い手不足が深刻な一次産業や製造業における外国人労働力への依存度は高い。
新設される育成就労制度と技能実習制度の主な違いは、就業先の転籍の柔軟化、来日前の日本語の習得要件(N5相当)が課される点である。現行の技能実習制度では比較的容易に特定技能に移行可能であるが、育成就労制度は3年間の実習を通してより実質的に技能を習得し、円滑に特定技能に移行することを目指す。
日本の労働市場の特徴と課題
他のOECD諸国の賃金水準と比較すると、円安の影響もあり日本は魅力的な就業先とは言えない(図1)。2024年の購買力平価換算の日本の平均年収は4万9449ドルで、OECD平均の6万1146ドル、外国人労働力受け入れの競合相手である韓国の5万946ドルを下回っている。
他方、育成就労制度では日本語の習得要件が新たに課される。日本語は学習の難易度が比較的高くかつ国際労働市場において汎用性に乏しい。来日前の研修費用も負担となる。地理的な近さや文化的な親近感で日本に関心を持つアジアの若年層も存在するが、就業先として選ばれるためには相対的に低い賃金、日本語習得の高いコストといったデメリットに見合う実利的なメリットが重要である。日本での就労を通して、長期的に役立つスキルを習得できるかどうかがカギとなるだろう。
図1 主要先進国の平均年収(米ドル、PPP換算)
(出所)OECD data Explorerより作成。
帰国後の就労状況と習得スキルの「見える化」
技能実習生と特定技能外国人の上位出身国はベトナム、インドネシア、フィリピンであるが、世界銀行のWorld Development Indicatorsによれば2024年の15~24歳の若年失業率はそれぞれ6.8%、13.1%、6.6%と比較的高い。各国政府にとり失業対策や海外への送り出しは重要な政策課題であり、人材育成や海外就労支援に積極的である。例えばインドネシア政府は2024年に労働大臣が今後5年間で25万人の日本向け送り出しの目標を掲げ、2025年10月には職業高等学校(SMK)の卒業生50万人を対象に海外就労支援プログラムを打ち出した。ベトナム政府も2026年に年間11万2000人の海外送り出しを目標に掲げており、2025年雇用法により海外就労者の支援を強化した。企業以外にも日本と現地の地方政府や教育機関の連携も増えている。
労働者個人のキャリアパスという視点からみると、技能実習生・特定技能の帰国後の就業状況の把握は十分ではない。外国人技能実習機構が毎年公表しているアンケート調査結果があるが、集計データで調査項目も少ないため詳細を把握することは難しい。優良事例として帰国後に日本での経験を活かし日系企業や送り出し機関に就職する例が紹介されることもあるが、ごく一部とみられる。現地でのヒアリングによれば、学歴を重視するベトナムでは高卒で数年日本に滞在後帰国した元実習生の労働市場での評価は大卒者より低く、就労条件のマッチングがうまくいかない例も多い。
日本企業の雇用慣行は本来人材育成を重視する傾向があるが、習得したスキルは資格などの形で可視化されていない。農業分野の元実習生へのヒアリングによれば、日本語や栽培技術以外にチームワークやコミュニケーション、目標や作業計画の立て方など無形のスキルを学んだという。日本での就労経験を帰国後のキャリア形成に生かすためには、国際相互認証資格などの形で「見える化」する必要がある。しかし現状では、技能実習や特定技能で習得できる低~中レベルの非熟練労働スキルにおいて、溶接などごく一部の分野を除き、日本で取得可能な技術資格の国際相互認証の整備は進んでいない。
まとめ
育成就労制度の創設まで残すところあと1年余りとなった。上述のとおり日本の賃金水準が相対的に低迷するなか、日本側の人材確保の観点からは長期的なキャリア形成を見据えたスキル習得などのメリットの提示が必要となるだろう。SMPが目指す人的資本開発の観点からは、帰国後に母国あるいは第三国で就労する際に有用な国際的に汎用性の高い相互認証資格システムの整備について、送り出し元国の関係者を交えて積極的に議論をすべきである。そのための政策デザインの根拠として、途上国の労働者のキャリアに対する意識や帰国後の就労実態に関する基礎的なデータの整備が急がれる。
(やまだ ななえ/新領域研究センター)
本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません
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