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アジ研ポリシー・ブリーフ

No.255 新興国の成長パターン:再考のための視点

2026年2月13日発行

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  • サービス主導の成長のカギは、プロセス・イノベーションとプロダクト・イノベーション
  • 製造業とICTサービス業は、イノベーションの面で似るが、雇用の面で違いも
  • 成長パターンが多様化するなか、その展望には国際比較が必要
1.はじめに

新興国の経済は、どのような成長パターンを歩むのだろうか? 21世紀初頭までは、経済の重心が農業から製造業、次いでサービス業へ移動するという傾向が(ペティ=クラークの法則)、先進国の成長過程で観察されたり、戦後の多くの新興国で目標になったりした。つまり、工業化や、経済成長にともなう企業向け・消費者向け双方のサービス拡大に注目することは、各国の成長過程や到達点を理解する助けになった。  

しかし、20世紀末以降のグローバル化や技術変化によって、成長パターンは多様化する傾向にある(参考文献①)。第一に、グローバル化の下、新興国のなかでも中国のように、工業製品の輸出を急増させた国がある一方で、アフリカやラテンアメリカのいくつかの国のように、天然資源や農産品の輸出を急増させた国もある。また、インドのように、下記のICT(情報通信技術)の発展によって、ソフトウェアやシステム等のICTサービス輸出を急増させた国もある。各国で似通っている面も多いが、違いも目立ってきた。第二に、技術変化、とくにICTの発展によって、多くの生産活動が情報やデータを軸に組織されるようになった。その結果、多くの新興国は工業化も重視するものの、サービス主導の成長への期待が高まったり、ICTサービス業が急速に発展するようになったりした。

そこで本稿は、グローバル化と技術変化の下、新興国がさらなる成長を実現するため、どのような課題に直面しているのかを、産業構造変化の見方から整理する。これによって、新興国の成長パターンを再考するための視点を示したい。

2.サービス主導の成長は可能か?

ICTの発展の下、サービス業におけるイノベーションの活発化と利用の期待が高まっている(参考文献②)。多くの新興国でもサービス業は、GDP(国内総生産)や全就業者数の大きな割合を占めるようになったため、成長エンジンとなる力を秘めている。実現のカギは、イノベーションの見方によってはきれいに二分できないこともあるが、プロセス・イノベーションとプロダクト・イノベーション双方への注力にある。

プロセス・イノベーションとは、プロダクトの生産方法を改善することである。とくに、経営資源の投入に対する成果を増やす、という生産性の底上げが、より多くの就業者のより長期的な所得向上の実現を可能にする。たとえば、マッチング・プラットフォームやセルフレジ、AI(人工知能)、ロボット等の活用がある。労働集約的なサービス業では、生産性の向上が限定的であることも多いため(ボーモルのコスト病)、事業のかたちを見直しながら新しいツールを柔軟に取り入れていくことが重要となる。ただし、AIやロボット等の活用が今後、業種によっては雇用を大幅に削減する可能性もあるため、所得向上への影響はトータルで見なければならない。

また、プロセス・イノベーションに加えて、プロダクト・イノベーションも必要となる。これは、消費者に新しい価値を提供できるようなプロダクトを開発することを指す。同業者も同様のプロセス・イノベーションを実施・導入し、生産性を向上させた場合、産出量は同じで投入量が減ることもあり得るが、投入量は同じで産出量が増える可能性も高い。その場合、生産性向上や競争激化による価格下落は、市場拡大を引き起こすことも多い一方で、それも限界を迎えれば、企業の収益性が悪化する。そのため、新しいツールや、サービスの提供を通じて収集したデータ等を用いて、新サービスの開発に取り組む必要が出てくる。農産品は一般に、所得の増加とともに食料品支出の割合が減少するため(エンゲルの法則)、農業の生産性が向上すると、就業者が製造業やサービス業へ移動する。一方、工業製品やサービスへの支出割合は、所得の増加とともに増える傾向にある。したがって、新サービス創出は、リスクも大きいが、その余地も大きい。そして、プロダクト・イノベーションに成功すれば、新サービスのプロセス・イノベーションを起こす余地も生まれる可能性がある。また、製造業はAIやロボットの活用で、労働集約型の業種・工程が資本集約型のそれに変化しているため、労働集約的なサービス業の所得向上は一層重要になっている。

さらに、新サービスが、同業者間の差別化を超えて、クラウド・サービス業やフィンテック業等のように、新業種創出にまでつながるなら、サービス業主導の成長を加速することになる。工業化の過程を振り返ってみても、軽工業(繊維工業、食料品工業)から重化学工業(金属工業、化学工業、機械工業)やハイテク製造業(機械工業のなかのICT製造業等)へ展開してきた。つまり、工業化と一言で言っても、その重心は不断に変化してきた。サービス業に関しても、新業種の不断の創出は、サービス業全体の収益性の維持・向上に欠かすことができない。

3.ICTサービス業は製造業を代替するか?

ICTの発展は、また、ハードウェアをコントロールするソフトウェアやシステムの開発を盛んにした。その結果、製造業は変化し、サービス業ではICTサービス業が急速に発展した。

まず、製造業は、ソフトウェアの活用が1990年代以降、サービス化が2010年代以降、本格化した。ソフトウェアの活用とは、製品の機能をハードウェアのみならず、ソフトウェアでも実現することである。その結果、メーカーであっても、ハードウェアのエンジニアのみならず、ソフトウェアのエンジニアも多数雇用するようになった。つぎに、サービス化とは、製品の価値を製品の販売のみで提供するのではなく、販売後のサービスでも提供することである。ICTの発展との関係では、製品が収集したデータやその分析結果等も提供することを意味する。これらによって、工業製品のあり方が変化した。

ICTサービス業はサービス業のひとつだが、イノベーションの成果をプログラム等に残したり、他者と共有したりすることができるため、その他のサービス業と比べて、製造業のようにイノベーションを蓄積しやすい特徴がある。さらに、付加価値額に対するR&D(研究開発)支出額の割合も相対的に高いため、サービス主導の成長を促進することができる(参考文献②)。

その結果、製造業とICTサービス業の境界は、イノベーションの点で大きく融解したが、新興国の成長過程から見ると、雇用の点での違いは大きい。まず、ソフトウェアやシステムは同じものであれば複製できるため、先進国企業や新興国の先発企業が市場を占有してしまう可能性がある。また、ICTサービス業は、高スキル人材の雇用が多いため、新興国での雇用の受け皿としては制約が大きい(参考文献②)。したがって、製造業とICTサービス業の異同を整理しながら、経済成長への役割を評価する必要がある。

4.おわりに

グローバル化と技術変化の下、新興国の成長パターンは多様化する傾向にある。高所得国になるまでの成長過程を見なければ、成長パターン全体の評価はできないが、前二節で述べた通り、少なくとも21世紀初頭までの成長パターンで各国の成長を理解することは難しくなった。その一方で、全世界への多様な需要に向けて、多くの技術変化を活用することもできるようになったため、各国の比較優位を活かすことができる余地も増した。したがって、成長パターンの多様化の行方を展望するには、各国の歴史的・地理的背景を整理した上で、その成長過程を国際比較することが必要となる。これによって、成長パターンがどのような要因で多様化しているのかを理解することができるようになる。

参考文献
  1. 木村公一朗(2025)「技術変化が変える新興国の産業構造変化」アジ研ポリシー・ブリーフNo. 205。
  2. Nayyar, G., M. Hallward-Driemeier, and E. Davies (2021) At Your Service? The Promise of Services-Led Development, Washington, DC: The World Bank.

きむら こういちろう/開発研究センター)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

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