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アジ研ポリシー・ブリーフ

No.254 森林破壊防止規則(EUDR)への対応と課題:インドネシア産パーム油を事例に

道田 悦代、東方 孝之

2026年2月13日発行

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  • 森林破壊防止規則(EUDR)は日本にとってもパーム油などの調達リスク上昇を意味する。
  • インドネシアのリアウ州におけるパーム油の事例からは、作付面積の4割を占める小規模農家におけるEUDRへの対応の遅れが確認される。
  • 調達リスクの軽減には現地小規模農家への支援が考えられる一方、現地での追加的コストの抑制を念頭に、複数の制度間でのデータ構造の標準化といった事前の調整が求められる。

2015年の気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にてパリ協定が採択されて以降、世界各国で温室効果ガスのネット排出量ゼロに向けた取り組みが進んできた。こうした取り組みのひとつとして注目されるのは、欧州連合(EU)による森林破壊防止規則(EUDR)である。現時点では2026年12月30日から大企業が、2027年6月30日から中小企業が適用の対象とされ、導入後は、アブラヤシやゴムなどの7品目とそれらの派生製品(パーム油やタイヤなど)については、森林減少を引き起こしていない製品であることの証明が求められることになる。

EU域外の国であっても、EUへ輸出している多国籍企業のサプライチェーンに組み込まれている場合には、EUDRの規制対象となる。また、EUDR規制の下、認証済み産品の国際的な獲得競争に巻き込まれた場合、調達リスクが上昇する可能性もある。そのため、パーム油や天然ゴムといった原材料を輸入に依存する日本にとっても、規制対応済みの調達先の確保や、調達コストの上昇に備えることは不可欠となっている。

日本はパーム油や天然ゴムの9割以上を東南アジアから輸入している(図)。本稿ではEUDRの影響を受ける代表的な製品としてパーム油を取り上げ、その主要産地のインドネシアを事例に現状確認ならびに今後の課題を検討する。

インドネシアのパーム油産業

インドネシアは世界最大のパーム油生産国である。世界生産量の58%(2024年)を占めている一方で、国内での作付面積の約40%を25ヘクタール未満の農地所有者である小規模農家が占めている。この比率の高さがインドネシアに構造的な問題をもたらしている。

図:日本のパーム油(上、HS1511)と天然ゴム(下、HS4001)の輸入額(国別、100万ドル)

図:日本のパーム油(上、HS1511)と天然ゴム(下、HS4001)の輸入額(国別、100万ドル) (上)

図:日本のパーム油(上、HS1511)と天然ゴム(下、HS4001)の輸入額(国別、100万ドル) (下)

出所:Global Trade Atlasをもとに筆者作成。

従来から小規模農家は、大規模プランテーションと比較して、生産性の低さが問題となっている。その要因のひとつとして指摘されてきたのが適切な耕作法や品質管理といった技術的知識や情報の不足である。EUDRの導入は、こうした問題を抱える小規模農家に対して、規制対応に必要な知識や情報へのアクセスおよび適切な措置をとることを追加的に求めることになる。

具体的には、土地区画を示す証書や耕作許可証、耕作地の地理情報、最近森林伐採して開拓した土地でないことの証明等が必要となる。地理情報としては、正確な位置をGPS座標で記録し、地図上に表示する作業(ジオロケーションマッピング)も求められており、実態として要件を満たしていても、書類での証明が難しい場合もある。このように小規模農家は極めて困難な課題に直面していることになる。

小規模農家の対応:リアウ州の事例

 筆者が実施したインドネシアのスマトラ島リアウ州で行った調査をもとに現地での実際の取り組みをみてみよう。同州はインドネシア最大のパーム油生産地であり、国内生産の2割近くを占めている。約400の小規模農家が所属するあるオイルパーム協同組合でのヒアリングによれば、同組合では各農家の収穫や支払いのとりまとめなどを行っており、PCでの情報管理を行っているものの、手で記載した書類の内容を転記するにとどまっていた。生産量の記録や変化の把握と分析、トレーサビリティ確保などは行っていない。またインドネシア政府が実施するパーム油持続可能性認証(ISPO)の取得を進めているところだが、土地証書などの書類の入手に手間取っている状況である。なお、アブラヤシは樹齢30年を過ぎると生産性が低下するため再植が必要となる。その補助金を得るにはISPO認証取得が必須のため、再植も遅れている。

本事例は、組織的かつ積極的に活動する協同組合においても規制対応が進んでいないこと、独立小規模農家はさらに困難な状況下にあることを示唆している。また、近年の規制・認証対応のためにはデジタル化が必須となっていることから、その導入にあたっては外部からの支援が不可欠であることも示している。

小規模農家支援における課題:標準化

外部から支援するにあたっても検討すべき課題は多い。たとえば複数の企業が個別に小規模農家を支援する場合、デジタル化やトレーサビリティの方式が乱立し、現地に新たな負担を生む可能性がある。企業が個別にトレーサビリティアプリや土地台帳管理システム、GPS取得方法を設定した後、同じ情報を他の目的や企業に転用できない場合、小規模農家にとっては追加的なコストが発生することになる。裏返せばこれは、データ保存方式を様々な目的に活用できる仕様にすること、データ所有権を協同組合に設定するなど、小規模農家が継続可能な方法をとることでデータが資産になることを意味する。

このため、参入を促進する政策と同時に、最低限の共通データ要件やオープン仕様を事前に整理することが重要である。サプライチェーンはグローバルに展開するため、データ仕様は国内・国際的な動向を踏まえることも必要であろう。例えばインドネシア政府やEUの要件、非営利組織の国際社会環境認定表示連合(ISEAL)によるデータ仕様の標準化に関する提言などを参照しつつ、サプライチェーン上の地理データ等収集の方法を検討することも一案である。個々の企業の創意工夫を妨げず、データ構造のみを緩やかに標準化することで、将来的な規制対応や制度連携を可能とする基盤を形成できる。 

おわりに

本稿ではEUDRの規制対象のなかからパーム油を取り上げ、そのインドネシアにおける事例に焦点を当てたが、日本にとっては天然ゴムへの対応も重要な課題である。2024年の日本からの輸出財をみると、ゴムおよび同製品(HS40)は総輸出額の1.4%を占める。その原材料の多くはインドネシアとタイからの輸入に依存しているが、インドネシアの天然ゴムの生産量に占める小規模農家の割合は9割と、パーム油産業よりも高く、本稿でみてきた課題がより深刻なかたちで顕在化する可能性は高い。

一方で、インドネシアからみるならば、EUDRへの対応の失敗はパーム油や天然ゴムを生産する現地小規模農家のサプライチェーンからの排除をもたらし、農村経済や所得分配に負の影響を与えることを意味する。こうした社会的にも深刻な問題が発生することを避けるためにも、インドネシア国内外を問わず官民あげての規制への対応にむけた協力が急がれる。

(みちだ えつよ/南山大学、ひがしかた たかゆき/地域研究センター)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

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